トヨタのロボット「KIROBO mini」 開発責任者が語るコンセプト、トヨタがなぜロボットを発売するのか?
トヨタがなぜロボットを発売するのか?
トヨタ自動車(以下トヨタと表記)が先行販売を発表した注目の小型ロボット「KIROBO mini」(キロボ ミニ)。本日、KIROBO miniの開発責任者がミニトークショーを行いました。また、ロボスタからの質問にも答えて頂きましたので、トークショーの一部内容と回答のコメントを紹介します。
トヨタが「KIROBO mini」を今冬に東京と愛知の一部の販売店で先行販売することを発表しました。このニュースは既にロボスタでもお伝えしてした通りですが、明日より開催されるCEATECの展示ブースでもトヨタはKIROBO miniを前面に打ち出した展示を行っています。
トヨタが発表しているKIROBO miniの主な特長は下記のとおりです
- 雑談のような何気ない会話や表情、しぐさを一緒に楽しむことが可能
- 人とのコミュニケーションを通じて思い出や好みを覚え、その人に合わせて変化・成長
- 「いつも一緒」を可能にした、座高10cmの手のひらサイズ
- クルマや家から取得する情報を踏まえた会話が可能
開発責任者によるトークショー
CEATEC 2016のトヨタ展示ブースに設置されたミニステージでは、KIROBO miniの開発責任者である片岡史憲氏のトークショーが行われ、トヨタがKIROBO miniを開発した背景やコンセプトなどが紹介されました。
司会
そもそもトヨタ自動車は会社名のとおり自動車を作る会社だと思いますが、どうしてKIROBO miniくんのような畑違いのロボットを開発するに至ったのでしょうか?
片岡氏
実は畑は一緒なんです。なぜかというとクルマには前に「愛」がついた「愛車」という表現がありますよね。それって「なぜなんだろう」という考えをもとにはじまったのが「トヨタ ハートプロジェクト」なんですが、愛車に抱いた愛情にも似た感情をクルマでないものにも宿してみたい、という同じ思いがあるんです。だから畑や根っこは同じところにあるんです。
司会
自動車でないものの開発をスタートするのに社内で抵抗があったのではないですか?
片岡氏
トヨタはクルマというかけがえのないのないパートナーを作ってきました。KIROBO miniも同じで、人に寄り添った新たなパートナーを作りたい、それはトヨタのグローバルビジョンと合致しているはず、ということを説明した結果、このチャレンジを許してもらえたんだと考えています。
司会
KIROBO miniが誕生したきっかけはなんだったのでしょうか
片岡氏
クルマを手放すときに寂しく感じる人が多いと思いますが、その思いはどこから来ているんだろうと考えました。お客様に役立つものを作ろうとするときには、いろいろと仮説を立ててみるんですが、手放す時に寂しく感じるのはたくさんの思い出を共有してきたからではないだろうかと。人はクルマと一緒に同じ時間を過ごし、一緒にドライブに出かけ、同じ空間を共有したことで共感や愛情に似た感覚が生まれるのではないか、と思ったのです。
司会
それでいつも一緒にいられるロボット「KIROBO mini」へと繋がったのですね。だから一緒に過ごす時間が大切なんですね
片岡氏
例えば、自分が話した言葉をKIROBO miniが覚えていて、それを話してくれることがあります。イメージ映像のなかでも面接を受ける前で緊張している女性にKIROBO miniが「面接と言えば笑顔が大事」と言って勇気づけるシーンがあるんですが、あのKIROBO miniの言葉は実は女性が過去にKIROBO miniに言った言葉なんですね。つまり、実際は過去に言った自分の言葉に背中を押されているという・・。
私達がやりたいのは、まさにこういうことで、自分から発した言葉がいつか自分を勇気づけることができたらいいなぁ、とも考えています。
司会
KIROBO miniとの会話にもストーリーが生まれるんですね。実際の会話はどのようなものなんでしょうか
片岡氏
時々バカなことも言いますが、必ずしも期待した回答が返ってくるわけではありません。
トヨタ自動車は今まで、完成したクルマを販売してきましたか、今回のKIROBO miniは初めて、完成していないものを発売することになります。それは、コミュニケーションを通して一緒に育っていくものですし、パートナーシップを一緒に作っていくことで、その人にとっての存在が完成していくものなんです。それが愛情に繋がっていく。
司会
KIROBO miniは5歳児くらいの設定とうかがいました
片岡氏
コミュニケーションロボットは言葉とココロでキャッチボールをするようなものだと考えています。
5歳児くらいの子供とキャッチボールをするとき、取りやすい場所に投げてあげるとか、ゆるいボールを投げるとか、思いやりを持って接すると思います。また、子供の投げたボールならどんなボールでも取ってあげる、そんな気持ちってありますよね。それと同じで、コミュニケーションとはこのボールを投げたらこういう答えが返ってくるのが当然、ということではないのではないだろうか、と思います。
このKIROBO miniと本当の意味でコミュニケーションをとれるようになれた方は、どんな人とも思いやりの心で接することができる人になれるのではないか、とも感じています。
司会
ところでKIROBO miniはどうして座っているスタイルなんですか?
片岡氏
座っているポーズは「自分ではどこにも行けないので、いろいろな場所に連れて行ってください」という思いがあります。KIROBO miniは初めて宇宙に行った「KIROBO」がデザインのもとになっています。KIROBOは凛々しいスタイルをしていますが、このKIROBO miniは二頭身というか赤ちゃんのようなスタイルです。赤ちゃんの仕草は万国共通で人々を笑顔にします。また、トヨタのハートプロジェクトは「心が動く、あなたが動く」がテーマです。一方、現在はコンピュータが進化して「あれをして、これをして」と頼むと何でもやってくれるようになりました。しかし、キロボは「天気を教えて」と言うと、「天気は自分でスマホで調べて」と言ったりもします。やれることは自分でやってね、って感じで(笑)。こんな会話の中にでも期待されている答えだけでなく、ココロから笑顔で出てココロが動く会話ができればうれしいなと思っています。
司会
KIROBO miniにはどういう存在になって欲しいと思いますか
片岡氏
KIROBO miniと一緒に暮らすことによって、日常生活でいろいろな人に触れあうときにも、KIROBO miniと接するときと同様に思いやりを持って笑顔で接することができるようになったら素晴らしいし、そんな存在になってくれたら、と考えています。
ロボスタからも片岡氏に聞きました
読者の中には「トヨタが作るロボットだからクルマとの連携はどう考えているのだろう?」「どんな機能がウリなんだろう?」と考える人も多いと思います。直接、片岡氏に聞いてみました。
ロボスタ
KIROBO miniは機能的に、どのようなものを打ち出す予定ですか
片岡氏
機能を打ち出すつもりは全くないのです。「どんな機能があるんですか?」と確かによく聞かれるんですが、あえて機能ではなく、心を動かす、エモーショナルな存在になることを追求しています。
話し相手の顔を見て会話をしたり、ココロに響く存在になるための仕草は入れていますが、それを機能として捉えてはいません。
ロボスタ
トヨタのロボットということで消費者はどうしてもクルマとの連携が気になると思います。
片岡氏
トヨタだからクルマとの連携があるだろうということは一旦忘れて頂ければうれしいです。
人にいつも寄り添っているもののひとつが、以前は多くの人にとってクルマだったと思います、そういう時代もありました。今はそうとは限りません。クルマが中心ではなく、人を中心に考えた場合、人に寄り添って愛着がわく何かがあるとすれば、それはKIROBO miniのようなコミュニケーションパートナーかもしれません。そしてそれが将来クルマと連携するかもしれないし、そうでないかもしれません。それはやればできるでしょう。
今はクルマに乗る時間も少なくなってきたと言われる時代ですし、クルマを持っていない方にもKIROBO miniを通してトヨタのファンになって頂く機会になればうれしいと考えています。
ロボスタ
クルマを売るためのロボットではなく、トヨタのロボットだからといってクルマの一部でという考え方でもないわけですね
片岡氏
KIROBO miniにはクレードルが用意され、ドリンクホルダーにつけるチャイルドシートのようにクルマに載せてドライブすることができます。突然ブレーキをかけるとKIROBO miniが「あわわわ・・」と言ったりすることもありますが、それは決してファンクショナルな価値として捉えるのではなく、エモーショナルな価値の追求としてチャレンジしています。そんな視点でみて頂けたらと思っています。
ロボスタ
よくわかりました。どうもありがとうございました。
KIROBO mini公式ページ
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。