「雨の日の夜、クルマの視界が悪いのは雨粒にヘッドライトの光が反射しているから。だったら雨粒を避けてヘッドライトの光を飛ばせばいい」(カーネギーメロン大学教授 金出武雄氏)
株式会社デンソーは10月15日に都内で「DENSO AI Tech Seminar ‐コンピュータビジョンが映し出す、自動運転のセンシング技術の未来‐」という講演会を開催した。
基調講演には今年8月に同社技術顧問に就任したカーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授 金出武雄氏らが登壇した。
デンソーと言えば、自動車のセンサー等のコア技術、要素技術を多数研究/製品化してきたことで知られているが、現在は自動運転車などの各種要素技術のほか、ディープラーニングや機械学習を駆使したAI技術の研究も積極的に行っている。
そのような背景もあり、当日は下記の技術に興味のある人や研究開発者を対象に講義が行われた。
- 人工知能(AI)
- コンピュータビジョン(画像認識、画像処理)、機械学習
- 深層学習(ディープラーニング)
- 高速化・省メモリ化のためのアルゴリズム
- 人工知能技術の応用システム
- 組み込みシステム
- 自動運転車、ロボット
- ビッグデータ解析・データマイニング
- 統計学
- 研究開発のストラテジー
表題にもある「コンピュータビジョン」とはコンピュータやシステムが見る映像や景色のことで、最近はロボットや自動運転車等の視界映像なども指す。
金出武雄氏はコンピュータビジョンやロボット工学分野の世界的な権威であり、顔画像の解析・車の自動運転・バイオ細胞追跡技術の研究開発などの実績で知られている。
金出氏の実績としては、アメリカンフットボールのファンの中には、2001年のスーパーボウルで、スーパープレイが360度の方向から見ることができる脅威の画像技術「Eye Vision」が記憶に残っている人もいるかもしれない。(著者もそのひとりだ。プロリダ州タンパ、レイブンズ対ジャイアンツの一戦での脅威の映像は忘れられない。映画ファンにとってはマトリックスの360度映像の技術を思い起こしてもらうと解りやすい)
講義では、スーパーボウルでの多数のカメラを使った撮影のしくみや、金出氏の体験談や失敗談、研究開発に対して大切だと感じている事柄などが紹介された。
このような実績例を交えて、金出氏自身や周囲の人の名語録を紹介しながら、講義は楽しく進められた。
著者が最も興味を持ったのは冒頭の金出氏の言葉にもある「スマートヘッドライト」。
金出氏は「自動車のヘッドライトの技術は120年間ほとんど確信的な進化をしていない」とし、「雨の夜、視界が悪いのは雨粒にヘッドライトの光が反射しているから」これを克服するヘッドライトは作れないかと考えたと言う。
原因がわかったのなら「それをなんとかして克服したい。だったら雨粒を避けてヘッドライトの光を飛ばせばいい」と考えた。
そして、市販されているプロジェクターを改造し、雨粒のないところだけ光を放つヘッドライトを研究開発したと言う。
実用化の予定はないそうだが、この発想とそれを実現してしまった体験談は話を聞いているだけでも面白くて多くの発見がある。
現在、自動運転車ではコンピュータビジョンやセンサーを「目」として開発が進められているが、雨天や霧など天候状況が悪いときの安全性の確保が大きな課題となっている。金出教授のこのような発想が、未来を切り開いていくに違いないと感じた受講者も多かったはずだ。
金出氏は成功に導くストラテジーや人を納得させる方法を自身の語録を交えて解説して講義を締めくくった。
新しい技術やモジュールをどう実用的に活用するかを考えることも重要だが、目の前にある課題を今ある技術でどうやって解決するかの研究も大切だし面白い。
次回、同様のセミナーが開催された場合、研究に携わる方々は特に是非とも参加をオススメしたい。