自走するPepperはマーカー方式とSLAM方式を使い分けて実用化していきたい 生活革命

「お客様からは移動するロボットに関する要望が多いので、マーカー方式でも標準のSLAMでも、用途に適した方式で開発していきたいと思っています」
そう語るのは生活革命の代表取締役 宮沢祐光氏だ。

株式会社生活革命は、武蔵野銀行とローレルバンクマシンと協力し、「生活革命 ロボット接客・受付システム」を開発、2016年8月に運用を開始した。受付番号呼出機器と連動したロボットシステムで、受付票を発行するだけでなく「天候に基づいた来店あいさつ」機能や「地域内の近隣施設のイベント情報発信」機能が付帯している点が特徴的だ。現在では地銀を中心に全国展開している。

武蔵野銀行の「ロボット接客・受付システム」(写真提供:生活革命)

アプリ開発会社としてPepperの事業化に成功しているように感じるが「イノベータからアーリーアダプタへの移行も早すぎると感じていましたが、キャズムも早かったですね」と、ここまではそうとうの苦労があったと言う。同社に限らず、Pepper for Bizで事業展開している開発会社にとって、昨年後半の半年間はビシネス的には厳しい時期だったと振り返る。Pepper導入に対するクライアントの期待感が大きい分、できることが限られているために期待しただけの成果に繋がらないケースが業界全体に散見されていたようだ。
しかし、それを乗り切った今年は上昇気流を感じている。
Pepperにできることを市場が理解してきただけでなく、開発者側も成長した。Pepper for Biz標準のアプリを単に組んだだけではなかなかビジネスでは有効活用できない、きちんと業務にあったシステムを開発し、やり方を工夫することで市場が開けていくということを感じ取ったのだろう。

ちなみに同社の「生活革命 ロボット接客・受付システム」も武蔵野銀行に導入したシステムが成果を結び、それがウワサになって、他の地銀からも広く問合わせが入るようになった。




移動するPepperのニーズは大きい

生活革命は2017年2月に開催された「Pepper World 2017」で新たなチャレンジを展示した。それが移動Pepperだ。
最新バージョンに搭載される標準のSLAMではなく、マーカー方式を展示した。
「これは古くからあるマーカー方式を採用しています。Pepperに搭載されたセンサーを利用し、マーカーを認識・識別しながら、ゆっくりと移動していくシステムです。SLAMは移動距離が大きくなると必要な地図データの範囲も大きくなり、認識精度が落ちる特性があります。銀行や病院など、広いフロアでも必ず同じ道のりを移動していくのにはマーカー方式が適していると考えています」と語る。

生活革命が展示したPepper。タブレットには「決まったコースを間違いなく」移動することがキャッチフレーズとして表示されている

床に貼られているのがマーカー

Pepperは4つのマーカー間を移動して、それぞれのマーカ上で異なる製品紹介を行うデモを行った。展示ブースが狭かったのでこんな感じだが、マーカー方式は広いフロアこそ有効なしくみだと言う

店舗を持つ複数のサービス業からの要求として「Pepperがお客様を窓口まで誘導して欲しい」という希望があると言う。おもてなしを重視する時代にあって「窓口は何番です」と通知するだけでなく、窓口まできちんと案内して欲しいというニーズだ。本来ならスタッフが行うべき作業だが、人手不足や経費削減によって、ロボットでの自動化が望まれている。




マーカー方式とSLAM方式の違い

SLAM(スラム)方式は移動しながらレーダーを使い、自分の位置やルート、周囲の障害物などを含めた地図をリアルタイムに生成しながら、安全を確保しつつ移動していくシステムだ。移動する範囲が大きいほどレーダー検知によって生成した地図データは膨大となっていく。

ソフトバンクロボティクスが展示したSLAMを使って移動するPepper。順番にパネルの前に移動してPepperの歴史を解説した

一方、マーカー方式は移動するルート上の床に予めマーカーを一定の間隔等で貼っておき、ロボットはそれをカメラで認識し、トレースしながら移動していく。床にデザインなどが施されている場合は、高精度でマーカーを画像認識する技術が必要となるが、膨大なマップを生成するよりはシステムの負荷は低いと考えられている。また、次のマーカーが障害物の下敷きになっている場合など、発見できない場合は迂回路を設定するなど、別のルートを選択する機能を持たせている。

生活革命のブースでは、デザインの異なるマーカー間を移動し、それぞれの場所で異なる商品解説をPepperが発話で行うデモを披露していたほか、このシステムを活用してバリアフリーの住宅展示場でPepperが移動して部屋を案内しながら解説を行った実績があると言う。
顧客からの要望としては、ショッピングモールでトイレまで案内したり、販売店でPepperが移動しながら商品を紹介したり、売って欲しいという声などが多いと言う。
「実はPepperの移動にもノウハウが重要です。Pepperは動き続けるとモーターが熱を持ってダウンしてしまいます。そうならないように長時間運用するための知見…Pepperをハード的に改造するわけではありませんが、ソフトウェア制御を含めてモーターに熱を持たないよう上手に運用することが大切です。私達はできるだけローコストでPepperの機能を引き出すことを重視しています。マーカー方式でも標準のSLAMでも、用途に適した方式を採用し、できるだけ早く普及させたいと考えています」
今年はPepperが歩き出す。新しいビジネスシーンの拡がりを感じている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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