ルンバのアイロボット社、国内ローンチ発表会 アイロボットジャパン合同会社を創業
2017年4月11日、掃除ロボット「ルンバ」の米国アイロボット社が国内ローンチ発表会を行なった。同社はこれまでセールス・オンデマンド株式会社を代理店として販売を行なっていたが、同社からルンバ関連の事業部門を買収し、100%出資の日本法人「アイロボットジャパン合同会社」を設立し、直接販売を行う。
ロボット掃除機「ルンバ」は、2016年に国内累計販売台数200万台を突破した。しかし、世帯普及率はいまだ4%とのこと。まだまだルンバが広がる余地は大きそうだ。
コンシューマーの「ロボット」概念自体を変えたルンバ
「よりインテリジェントなスマートホームを目標に、世界一の家庭用ロボットカンパニーを目指している」というアイロボット社のコリン・アングルCEOは、「ルンバを発表したばかりの2002年当時には『ロボット』というものを信じてもらえなかった」が、同社はその後、「『ロボットとは何か』という概念自体を変えることに成功した」と発表会で挨拶した。同社は単なるテクノロジーカンパニーではなく、ニューカテゴリーを発明したと胸を張った。実際、アイロボット社は競合の他企業が掃除ロボットを展開するようになった後も、マーケットシェアを維持し続けている。
市場シェアは、同社によれば北米市場ではロボット掃除の9割がルンバであり、ヨーロッパでは76%。それに対しアジアでは22%だという。なお日本市場では55%がルンバとなっている。日本市場はアイロボット社にとってもグローバルで第2位の市場規模であるため、同社は日本市場を重視していると以前から語っている。
これまでは適切な投資を行うスケールがなかったため代理店を通して販売していたが、いまやリソースも時間も満ち、米国ベースの事業から「真のグローバル企業」となることを目指し、昨年はチャイナ、今年は日本で法人を立ち上げたとコリン・アングル氏は語った。
「iR」のロゴは「人間とロボティクスの融合」の意味
日本法人の代表取締役員社長は、挽野元(ひきの・はじめ)氏が就任した。ヒューレット・パッカード社の副社長やボーズ株式会社の社長などを歴任した挽野氏は、ユーザーが実際にルンバを愛しており、ロボットによって生活が変わったと語るビデオを見て「そういう商品はあまりない」と考えて、アイロボット社への参加を決めたという。なお同社のメンバーの多くはセールスオンデマンド社でルンバ事業を手がけていた人たちとのことだ。
挽野氏はアイロボット社のロゴデザインについても解説した。現在のロゴは「iR」という二つの文字が重なったデザインとなっている。iは人間を意味している。Rはロボティクステクノロジーだ。つまり「人間とロボティクスの融合、人間と技術の融合」を意味しているという。
挽野氏は世帯普及率10%を目標にして、現在使っている既存顧客との関係性を強化していくことを目指すと述べた。子育て世帯でも使っている家庭は3割なので、これを40%以上にしていきたいという。そのためにはまずは使ってもらって納得してもらうことが必要だと語った。
IoT、クラウドロボティクスの入り口としてのルンバ
筆者はこれまでにも何度かコリン・アングルCEOのプレゼンを聞いている。直接インタビューしたことも何度かある。数年前から、彼から静かな自信を感じるようになってきた。「自分たちの製品が確実に人々の暮らしを『よい方向』へと変えている」という確信を持っているのだろうなと感じる。
発表会で二人は、従来型掃除ロボットの「ルンバ」とハードフロア用床拭きロボットの「ブラーバ」の二系統の商品ラインナップがある、というかたちで話をしていたが、実際には「ルンバ」にも2種類ある。従来型のランダム(独自アルゴリズム)移動で掃除を行うタイプのルンバと、2015年9月に発表された、天面のカメラを使って特徴点検出を行い、部屋のマップを作って規則正しく動いて掃除をするタイプの新型(900シリーズ)のルンバである。
念のため述べておくが、単なる「ランダムナビゲーション vs システムナビゲーション」の二項対立ではない。両者は使い方や掃除機としての吸引機構、下位の運動制御機構などは同じだが、上位の仕組みや発想はだいぶ違う。
掃除におけるそれらの違いは「980」が発売された時に多くのメディアが報じているとおりだ。それに加えて筆者個人は、特に今後の使われ方が異なると思っている。今回の発表会でもコリン・アングル氏は、IoT企業としてのアイロボット社の今後の可能性について言及していたが、新しいタイプのルンバはスマホアプリ経由で、アイロボット社側にデータを吸い上げることができる。ロボットの稼働状況はもちろん、バッテリーの使用状況やどういった状況でのトラブルが多いのかといったデータも吸い上げることができる。いわばルンバのようなロボットをクラウドロボティクスの入り口として使うことができるのだ。
コリン・アングル氏はスマートホームの今後の可能性についてもふれて、「家自体が家庭内の状況を認識して、自動でプログラミングできるようになれば」とビジョンを語った。なお、ルンバ全体における900シリーズのシェアがどの程度なのかについては残念ながら「答えられない」とのことだった。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!