ソフトバンクと藤枝市はIoTプラットフォーム「LPWA」を活用したスマートシティ実証実験を行うことを発表し、参加希望者向けの説明会を藤枝市と東京汐留のソフトバンク本社でそれぞれ開催した(動き出す次世代5G通信とIoT(1) ソフトバンクと藤枝市でLPWAを使ったスマートシティ実証実験を発表、参加するサービス事業者を公募)。
参加希望者が説明会に詰めかけたのは、この実験に大きなビジネスチャンスを感じている事業者が多いことを示している。
それはなぜか? そもそも「LPWA」とは何か、次世代5G構想の背景を解説する。
次世代の5G通信に課せられたテーマ
次世代の5G通信は2020年以降の普及を目指して策定の検討がされている。
5G通信の場合、LTEに代表されるような従来までの高速性を追求していく進化とは少し様相が異なる。もちろん、「高速化」と「大容量化」を目指す技術は引き続き導入されるが、まったく反対の「低速化」を目指す技術も導入される。低速化というと語弊があるかもしれないが、重要なポイントは省電力化だ。IoTでは端末はセンサーが中心になり、低速でもいいから消費電力が少ない通信技術が求められる。乾電池2本で10年もつといったレベルのものだ。更に、膨大な数の端末が接続されるので、センサーも通信料金も低価格であることが必須条件となる。それを具現化するのが「Low Power」(低電力)であり、少ない基地局で広域をカバーする「Wide Area」(広域)。この頭文字をとったのが「LPWA」だ。
そんな「LPWA」だか、いくつかの規格が名乗りをあげている。そのひとつが今後サービスが本格化すると予想されている「LoRaWAN」であり、先行者利益を狙うサービス事業者にとっては早く手を付け始めたい開拓地でもある。
そんな背景を踏まえて、ソフトバンクのIoT事業担当者にインタビューを行った。
編集部
今回の説明会は盛況でしたね。実証実験の参加にこれほど興味がある企業が多いのはなぜなのでしょうか?
ソフトバンク
IoTというキーワードがトレンドになっていますが、その中でも通信インフラを担う「LPWA」がポイントになっています。これからやってくるだろうIoTの本格化を考えると先行者になることが大切ですが、基盤となる通信サービスの利用を「すぐにでもはじめてみたい」という事業者様がたくさんいます。今回のプロジェクトでは藤枝市と協働で、LoRaWANでインフラを作ることで技術的な側面から支援させて頂いています。「すぐにでもはじめてみたい」という方々に対して「今夏、ソフトバンクと藤枝市がLPWAのフィールドを藤枝市に用意したので、どこよりも早くLPWAとIoTに対しての取り組みや実証実験ができます」と呼びかけたものです。その点で反響が大きいのだと考えています。
編集部
LoRaWANの通信サービスについては、御社だけでなく多くの事業者が参入を表明していますね
ソフトバンク
たしかに既にLPWAについては、当社だけでなく多くのLPWA事業者さんによって様々な地域でテストや実証実験が行われています。しかし、なにより今回の実証実験の意義は、藤枝市という実際の街で、多くの人々が仕事をして日々を暮らしている、商業地域や農業もある実際の地域でユースケースの知見が得られる点が、参加する事業者にとっては大きな魅力だと感じています。リアルにスマートシティの実証実験なりサービスを開始したり、試すことができるという点に共感して頂いているのではないでしょうか。
編集部
先行して取り組みに参加できるほかに、参加するサービス事業者のアドバンテージは何かありますか?
ソフトバンク
事業者様がIoTデバイスを設置する際には、場所によって教育委員会や商工会議所、更に地元の産業各社様などとの摺り合わせが必要になりますが、藤枝市にある「ICTコンソーシアム」等を通じて、サービス事業者様が交渉しやすいような環境を用意できるのではないかと考えています。
今回の実証実験がスマートシティとしての先進事例として、また地域に役立つIoTサービスの導入事例となるような、価値の大きなプロジェクトになると思っています。
ソフトバンクのLPWAの取り組み(まとめ)
「LPWA」の規格はいくつかあると前述したが、ソフトバンクは「Cat.1」「Cat.M」「NB-IoT」によるサービスも開始する(Cat.1は既にサービス開始済み)。これらはLTEの技術を応用したもので、大手通信3社のように許可を得た事業者でなければ通信サービスを行うことができない。
なお、ソフトバンクは「NB-IoT」を本命と考えているようだ。
更にそれに加え、電波利用の許可が必要ない周波数帯域を使用するLoRaWANの商用化も併行して進めている。
まとめると、ソフトバンクによるLPWAの取り組みは、Cat.1の対応は既に開始済み、今夏よりLoRaWANを藤枝市でローンチ、NB-IoTについては今夏以降を予定しているが具体的な発表はこれから、という順番になりそうだ。
通信基盤が整ってこその「IoT」サービスの本格普及。
大きな市場開拓と社会の変革への第一歩となるのか。期待されている。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。