アマゾンのAWSクラウド市場が急拡大 売上は約1.46兆円へ 「AWS Summit」基調講演で発表
5月30日〜6月2日までの4日間、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが主催するイベント「AWS Summit Tokyo 2017」が開催されている。
場所は東京品川のグランドプリンスホテル新高輪・国際間パミール。
2日目となる31日に、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの代表取締役社長の長崎忠雄氏らが登壇する基調講演(キーノート)が行われた。
基調講演は三味線とエレキギター、ヴァイオリンの三重奏から始まり、いきなりのパフォーマンスに会場は息を飲んだ。
その後で登場した長崎忠雄氏は、クラウドサービスとして急成長を遂げるAWSについて解説した。
「クラウドは変えられない不可逆な流れ」として、AWS Summitが世界20ヶ所以上で開催されていること、今回の東京では来場予約者が2万人を超えたこと、ブレイクアウトセッションは150を用意したこと、ゲストスピーカー100人以上に登る大きなイベントに成長したことを強調し、クラウドは今や、ビジネスにコスト削減とスピードを与えるだけでなく、イノベーションを起こすプラットフォームとなっている証だとした。
長崎氏によれば、AWSのアカウント数は急激に増大していて数百万を超え、日本でも10万件以上の顧客に利用されている。売上げは2017年の第1四半期で13.3ビリオンドル(約1.46兆円)、前年比で150%、1兆円を超える成長を遂げたペースとしては、IT業界ではAWSが最速だとした。
スタートアップやIT企業の利用者も多く、ピンタレスト、ドロップボックス、スラックなどもAWSを利用していると言う。スタートアップ企業への支援も強化し、1年間で最大10万ドルを起業家に対して支援する。また、「ONE Amazon」をテーマに、Amazonローンチパッドストアを用意してエコシステムを提供することで支援していくとした。
AWSの中でも最優秀な実績を残したパートナー「プレミアコンサルティングパートナー」は日本で7社あり、クラウドバック NTTデータ、クラスメソッド、サーバ、TIS、NEC、野村総研とのこと。
16の分野で認定制度を設けている(コンピテンシー)を持ち、「AWSパートナー事例大全集」を冊子にして175の事例の紹介を配布している。この冊子はオンラインでもダウンロードできる(ダウンロードサイトはこちら)。
その他、大きなトピックとしては、現在のAWS東京リージョンに加えて、2018年度中に大阪リージョン(限定)を開設する予定があることを発表した。
クラウド導入が加速している理由
クラウド導入が加速している理由として、初期費用ゼロか、または低価格であること、継続的な値下げを行っていること、サイジングからの解放、商機を逃さない俊敏性、最先端の技術やサービスをタイムリーに利用したり試すことができること、いつでもグローバル展開が容易にできること、などを挙げた。初期費用ゼロや最先端の技術やサービスを試せる、という点においては、AWSでは無料で利用できる範囲(無料利用枠)を定めており、そこまでの使用にはコストがかからないことを強調した。また、継続的な値下げについては、AWSは通算61回の値下げをこれまで実施していて、利益をアマゾンに蓄積するのではなく、カスタマーに還元する思想があることを述べた。
ここ数年でビジネスとITが密結合してきたと感じる、ビッグデータやAIを活かすために、ITやデジタルのトランスフォーメーションが起こり、そのキーポイントがクラウドだとした。
基調講演には長崎氏の他に、三菱東京UFJ銀行の専務取締役の村林聡氏、セイコーエプソン株式会社 IT推進本部 本部長の熊倉 一徳 氏、株式会社レコチョク 執行役員 CTOの稲荷 幹夫 氏、株式会社レコチョク 執行役員 CTOの稲荷 幹夫 氏、Sansan株式会社 Co-founder Eight事業部 事業部長の塩見 賢治氏が登壇した。
三菱東京UFJ銀行(MUFG)の専務取締役の村林聡氏は、現在オープンイノべーションを推進していて、新しい決済システムと海外送信の効率化のためブロックチェーンも研究している。MUFGコインの実証実験をはじめ、行員が利用を始めた。また、AIが銀行業務にどの程度とって変わられるか? を分析すると、本部の業務は4割がAIにとって変わられるだろう、という結果が出たと語った。
MUFGクラウドでは10以上のAWSサービスを利用し、本番でも5つ以上のサービスが稼働中とのこと。クラウドを本格活用し始めたという意味ではまだまだスタート地点であり、「AWSはIT業界のシェアリングエコノミーだ」と評した。
セイコーエプソン株式会社 IT推進本部 本部長の熊倉一徳氏は次のような主旨を語った。
オンプレからクラウドに移行する際のやりやすさは重要な要素。組織的な課題としては、クラウド利用の抵抗感を排除することが大切で、その際にAWSはグローバルなクラウドなので米国や欧州のメンバーを納得させるのに都合がよかった。グローバルの開発ツールが利用できるのは大きなメリットだと言う。
次に、株式会社レコチョク 執行役員 CTOの稲荷幹夫氏が登壇した。
レコチョクは着うた、音楽配信ダウンロード、定額制配信へと移り変わってきた。保有楽曲数は3倍に増え、高音質が求められるようになり、その段階で自前でサーバを運用する体制では難しくなってきた。今後は更に高音質な音楽やVRなどを使ったライブ体験などのコンテンツを揃えていきたいが、そうなれば高性能で安定したクラウドの利用は必須となる、と語った。
最後に、Sansan株式会社 Co-founder Eight事業部 事業部長の塩見賢治氏が登壇した。
塩見氏によれば、企業向け名刺管理プラットフォームの「SanSan」と、個人向け名刺管理「エイト」もまた、AWSで運用されていて、ユーザー数は実に150万人、1億枚の名刺を管理していて、計算上は日本での名刺交換の約10%を占めるシェアの運用を支えている。
AWSの導入メリットとして、セキュリティ、可用性、拡張性の3つをあげた。5年間でAWSの大規模障害は一度もなく、システムの入れ替えも発生していない、新機能への切り換えがあってもシームレスに行えてきた、と評価した。
イベントは6月2日まで
AWS Summitは6月2日まで開催され、基調講演と特別講演、各種セッションと展示ブースなどで構成される。2日の特別講演には脳科学者の茂木健一郎氏らの登壇も予定されている。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。