AWS Summit Tokyo 2017は最終日となる4日目を向かえ、特別講演に脳科学者の茂木健一郎氏が登壇した。
茂木氏は「シンギュリティはもう起こっている」とし、人工知能(AI)を人間の脳と比べても新たな発想は生まれない、人間と比べるのは意味がないので、シンギュラリティを恐れずに自由な発想で技術革新を目指した方が良いと指摘した。
シンギュラリティは既に起こっている
「脳科学者が言うのもおかしいが」と前置きした上で、「シンギュラリティの話で最もおかしなことは、人間の脳ごときと人工知能を比べていること」だと語った。人間の能力はモノカルチュアであり、人間が将棋や囲碁のチャンピオンになるには一生を賭してやる覚悟が必要だが、人工知能ならもしかしたら1年や1ヶ月でそれを超えられるかもしれない、これは残念ながら現実だ、と言う。
また、コンピュータは同時並列でいろんなことをしているし、知識の共有や並列化も可能。自動運転でも同様だ。人間の脳も素晴らしいが、個々の経験を蓄積していくことしかできない。しかし、コンピュータなら経験を共有していくことができる。例えば、雪路の運転が得意な人がいるかもしれないが、人間はそれを共有することはできないが自動運転の経験を学習し共有できる機械ならそれは可能だ、とした。
Amazon Echoの日本発売を待っている
さらに茂木氏は米国で大ヒットしている「Amazon Echo」の話題に触れた。
「日本での発表はいつになるか、早くして欲しい」と会場に訴え、「Amazon Echoはもの凄いポテンシャルを持つ」が「米国でリリースされているAmazon Echo用のスキルをいろいろと試してみたが、今のところ人間ができることの発想で考えたレベルのスキルしか出ていない」ことを残念がった。
人類の知能指数の数値が過去100年にわたって上昇を続けている「フリン効果」にも触れた。
フリン効果は人間がたくさんの情報を処理するようになったことに起因していると考えている研究者も多く、技術革新によって現代は、ネットニュースを観て、チャットで共有して、意見交換をしてなど、多くの人の情報処理がとてつもなく早くなった、その結果の現れだという考えを紹介した。茂木氏は「ただ、それで人間は幸せになっているのだろうか」と疑問を投げかける。この技術革新や情報処理のペースはいつか失速して、 “もう勘弁してくれ”ということになるのでないか、と。
ルーティンから解放され、自由な発想が重要
茂木氏によれば、脳科学からみると「子どもの脳」こそが最高だ、と言う。
多くの人が将来、AIに仕事が奪われると恐れているが、もし人間がやる仕事がなくなったら遊んでみればいい。それはいい意味で遊ぶこと。
幸せを感じるにはルーティンを減らすことが大切。時間やルールなどの管理は大人がやってくれているから、子どもにはルーティンがなく、自由にものごとを感じ、イマジネーションで感じることができるという利点がある。
天才が誕生する理由は遺伝ではないし、環境でもない。すべての人が天才になれる可能性があって、それは自由に考えること、米国では遊ぶように仕事をする文化が一部にあって、その点は良いと評価していると語った。
「子どもの頃、夢中になって遊んでいたあれ以上にしあわせな時間があっただろうか」
「イマジネーションは子どもの頃にこそ満ちあふれていた」
「子供たちが遊ぶように自由に想像して、創造していくところが人間にとって大切であり、それが実現できるのもIT革命のすばらしいところだ」としめくくった。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。