Pepperが3名同時に窓口対応、IBM Watsonが質問回答。ロボット化を進めるイオンカードの狙いと未来像

イオンカードの会員数は約2600万人。
受付窓口は全国に約400~500ヶ所あり、のべ約3,000人のスタッフが入会受付の業務にあたっている。新規の加入は月間で10万人前後のペースだ。日によって加入者数は大きく異なるが、平均ではスタッフ1人あたり、1日3~4人の新規会員の受付作業を行っていると見ている。

その作業を会話ロボットがどこまでこなせるのか、どこまで代替できるのか、そんな実証実験が本日よりスタートした。

ソフトバンクロボティクスの「Pepper」がカード受付業務を担当する。イオンカードの入会受付を担当するPepper。手前の3台のタブレットは顧客が情報を入力するためのもの。Pepperは3人までの顧客に同時に対応する。その右の大きめのタブレットが「デジタルコンシェルジュ」(ロボコット)、IBM Watsonと連動して顧客の疑問や質問に応えるFAQシステム。

実証実験を行うのは「イオンカード」だ。正式な企業名はイオンフィナンシャルサービス株式会社、イオンクレジットサービス株式会社、株式会社イオン銀行の3社。
実験を行う場所はイオンモール幕張新都心(千葉市)。このイオンモール内のイオン銀行には従来からPepperが導入されていたが、Pepperの業務としては金融商品の紹介を一方的に話すことだった。しかし、さまざまな役割・機能を持つロボットを組み合わせて新たなタイプの無人店舗の導入を検討する一貫から、今回、カード入会受付という重要な業務が会話ロボットによって効率化できるのかを実証実験を行って確認することになった。
期間は当初ひと月を予定していて、その結果を見て順次、設置する店舗の拡大を検討していくとしている。



ロボットで行う実証実験の内容は2つ

ひとつはカウンター窓口でのイオンカード入会受付業務を「Pepper」に任せること。顧客はカウンター窓口でタブレットを使って入会のための個人情報を入力することになるが、その手順をPepperが案内する。タブレットの入力画面とPepperが連動していて、Pepperは顧客がどのページを入力中かがわかる。そのページや項目について、顧客が間違えやすい点やわかりにくい用語を解説して、入力をスムーズに進行させる。顧客の入会手続きが完了するまでPepperはサポートする。

タブレットの入力画面とPepperが連動。顧客が入力中のページや項目についての注意点をPepperが解説する

もうひとつは、イオンカードやリボ払い、WAON、その他さまざまな顧客からの質問に対してロボットが回答する。これはPepperではなく、AI技術を搭載した卓上ロボット(タブレット型)「デジタルコンシェルジュ」が担当する。やりとりは音声にも対応する。
AI技術とは「IBM Watson」のことで、ネットでWatsonと連携して顧客からの質問を理解して、最も適する回答を返す。
なお、Pepperとデジタルコンシェルジュは現時点では連動していない。

顧客の疑問や質問に応えるタブレット型の「デジタルコンシェルジュ」。タケロボが開発したIBM Watson連携の「ロボコット」がベースになっている


ロボット導入を進めるイオンカードのねらい

今回の実証実験に先だってプレス発表会が行われ、ロボット導入による効率化推進のマイルストーンや同社のねらいなどが説明された。

登壇したイオンフィナンシャルサービス株式会社のストアシステムリサーチ部 部長 香下大樹氏

イオンカードではロボットによる効率化・自動化を4つのフェーズに分けて進めていく。
フェーズ1はカード受付窓口で顧客が入力に使うタブレットとPepperを連携して申込みをサポートするシステム、フェーズ2が卓上ロボットによる人工知能システムによってどこまで顧客の質問に対して円滑に回答することができるか、今回の実証実験はこの2つを実践するものだ。

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その先のフェーズ3は「ロボット間の連携」を掲げる。今回のPepperとデジタルコンシェルジュとの連携や、将来的には他の業務にあたっているロボットとも連携して、商品提案や売り場案内、キャンペーンの告知など、様々な業務に展開する。
フェーズ4は、資産運用やポートフォリオの作成、ロボアドバイザーなどの導入案内、それらの連携も考えている。

2017年は主に店頭Q&Aをロボットにより効率化、2018年はセルフ端末やサイネージなどの既存の機器との連携を進めて、ロボットの業務にも活用させたい考えだ。

2019年以降は、顔認証による個人認証機能の導入、顧客ごとの個別案内、決済、セルフ端末や卓上ロボットによる試算運用相談、金融商品の提案など、業務の拡大も検討していく。

今回の「フェーズ1」では、具体的にはいったいどのような効率化を見込んでいるのか。
現在のカード受付カウンターでは4名のスタッフが業務にあたっている。Pepperに導入して、スタッフを3名の体制に変更する。業務面からみれば、現在はスタッフが店頭でイオンカードのメリットや提案を行い、顧客が入会の意思を示せばスタッフ自身が手続き業務も行っている。顧客が入会情報を入力して手続きが完了するまで、スタッフは離れることができない。

Pepperを導入し、スタッフは4名から3名の体制へ

一方、Pepperを導入することによって顧客が入会の意思を示せば受付手続きをPepperに引き継ぐことができるようになる。あとは、スタッフは再び新規顧客の募集に戻ることができる。

顧客が入会することが決まれば、入会手続きをPepperに任せて、スタッフは募集業務に戻ることができる


また、ロボットによる自動化が確立できれば、カード受付カウンターの営業時間も拡大していきたい考えだ。


顧客の質問に回答するデジタルコンシェルジュ

フェーズ2にあたる、卓上ロボット「デジタルコンシェルジュ」は前述のようにIBM Watsonと連携し、顧客の質問に応えることが主な役割だ。イオンカードの受付窓口では商品以外の質問が多く、キャンペーンの種類が多いためにスタッフが正確な説明をするのに時間がかかっている等の課題を抱えている。これらカウンターのスタッフをサポートする目的でAIによる回答システムの導入を試す。


デジタルコンシェルジュを実際に使用した率直な印象を言うと、音声認識の精度や質問に対する回答には物足りなさを感じた。実証実験の段階では質問応答データは一問一答で800程度。言い回しの組み合わせデータもまだまだ足りないという感じだ。しかし、多くのAIがそうであるように、IBM Watsonも実践データから学び、回答精度を上げていくことが重要となる。
その点について同社は「現時点ではFAQのデータが少ないことが課題。実証実験を通してFAQデータをさらに充実させ、同時に質問と回答のパターンを追加していくことで回答の精度を向上していきたい」としている。

音声での質問に回答するデジタルコンシェルジュ。まだまだ受け応えられる質問の幅が狭いが、今後の学習によって認識や回答の精度が向上することを期待したい


会話ロボットによる効率化・自動化が、現状の技術でどこまで進められるのか、イオンカードの挑戦は今後のロボット活用の重要な試金石となる。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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