Pepperによる失語症者向け言語リハビリは有効なのか、君津中央病院での臨床試験結果をロボキュアが発表
失語症の患者様向け訓練ソフトや、Pepperアプリの開発を行っている株式会社ロボキュアは、国立大学法人千葉大学との共同研究により、言語訓練用アプリ『ActVoice for Pepper』を開発。
2015年12月より約1年半にわたり国保直営総合病院君津中央病院(以下、君津中央病院)の協力を得て、同アプリを活用した「失語症者に対するリハビリの臨床試験」を行っていたが、この度、日本コミュニケーション障害学会学術講演会において君津中央病院の言語聴覚士、村西幸代氏により、同試験により有意義な改善が確認できたとの発表が行われた。
今回の実験にて呼称訓練の時間と呼称回数を調べ、呼称検査の結果から「訓練効果」「訓練効果の持続性」「般化の比較」を行ったところ、訓練効果と持続性は4例中3例に「有意な改善が認められた」としている。
また、般化の比較に関しては、一部臨床的には般化がみられたと感じるものもあったが、比較検定の結果においては有意な差が得られるほどではなかったとのことだ。
君津中央病院 言語聴覚士 村西幸代氏
今回この臨床試験を実施して、失語症者とロボットとの1:1の言語訓練が成立することがわかりました。そしてその中で最も驚いたことは、失語症者の方がPepper君と向かい合って行う呼称の回数でした。わずか25分程度の待ち時間の間に、平均で139回、多い時には369回も繰り返し練習をしておりました。これはPepper君がロボットのために出来たことと思います。失語症者の方の言語回復には長期的な見通しを持った、粘り強い練習が必要となります。ロボットであれば、自分の苦手とすることでも、気負わずにさらけ出し、心ゆくまで練習ができます。これがロボットとの練習の最大のメリットなのだと思います。
訓練の詳細
軽~重度の慢性期運動性失語4名(45歳~76歳)を対象に、Pepperを使用した呼称訓練を実施。<具体的には、胸部のタッチディスプレイに絵を提示して「これは何ですか?」と呼称を促し、正答に対しては「正解です」、誤答には「〇〇と聴こえました」、認識困難には「良く聴き取れませんでした」と応答。また、音声認識による発生の評価には難易度(簡単、普通、難しい)を設けた。
ベースライン期
健常高齢者の日常会話語彙から100語を選択し、訓練実施前の期間において、3回の呼称検査を実施。検査結果を踏まえ、正答率が統一されるように20語ずつ訓練語と非訓練語を選定した。
病院内での訓練(結果)
病院内での訓練では訓練期を1か月に設定。訓練語については週1回の言語聴覚士との訓練前の待ち時間に呼称訓練を行った後、別室で呼称検査を、非訓練語については訓練期の開始時、終了時に検査を行った。
訓練期を2回実施し、訓練語と非訓練語の発語レベルを比較するもので、訓練期の間には訓練休止期間を1か月設けたが、4症例中3症例はActVoice for Pepperによる訓練を実施した訓練語の正答率はいずれも改善がみられた。
自宅での長期訓練(結果)
病院内での訓練で有意な改善が認められなかった1例について、自宅にPepperを置いて訓練を継続。当初設定した訓練語(訓練語A)について発語レベルが十分に高くなったため、途中で新たな訓練語(訓練語B)を設定し、1回あたり20分程度の訓練を週に4~5回、対象者に自発的に行ってもらうことで改善が確認された。
なお、自宅訓練への切り替えは病院内での訓練開始から189日目に実施し、336日目より訓練語を変更した。(訓練全体の期間は病院内での訓練から通算して504日間)
訓練結果を受けて同社は、一般的には大幅な改善は困難と言われている、発症後6か月以上経過した慢性期の失語症者(今回の訓練対象者は発症後3~8年経過)に対して訓練による改善がみられたとする一方、一度改善したA訓練語について訓練をやめると正答率が低下しており、効果を持続させるためには継続的な訓練が必要と考えられるとしている。
また、今後は2025年問題にむけ、ロボットでの実施に適した訓練メニューを拡充していくことで、人とロボットの協働によるリハビリの実現を図っていくと述べている。
株式会社ロボキュア