アマゾン・ロボティクス・チャレンジ開幕、Amazon Roboticsのチーフテクノロジストに聞く「機械学習とハイブリッド・マニュピレーション」

「アマゾン・ロボティクス・チャレンジ」(旧アマゾン・ピッキング・チャレンジ)がロボカップ2017名古屋世界大会の会場内で開催されている。出場チームは16チーム、本日28日よりコンテスト競技が開始される。


出場チームの国や地域の内訳は米国から4、欧州から4、日本から4、そしてその他が4になっている。


日本からは「MC^2」三菱電機、中部大学、中京大学、「NAIST-Panasonic」奈良先端科学技術大学院大学、パナソニック、「Team T2」鳥取大学、東芝、「Team K」東京大学が出場する。

他に、マサチューセッツ工科大学、プリンストン大学、デューク大学、カーネギーメロン大学などが名前を連ねる。
コンテストの開始に先駆けて、「アマゾン・ロボティクス・チャレンジ」(ARC)を主催するAmazon RoboticsでチーフテクノロジストをつとめるTye Brady(タイ・ブレイディ)氏にインタビューした。

編集部

ARCのコンテストが明日からいよいよ始まりますが、どんな点が見どころでしょうか

Brady(敬称略)

ロボットを活用したチャレンジなので、ロボットや機械に注目しがちですが、見て欲しいのはチームが一丸となって、難しい課題に取り組んでいることです。それこそがARCのストーリーで、皆さんにはぜひそれをご覧になって頂きたいです。

編集部

今年は昨年までのARCとどのような点が変更になっているのでしょうか

Brady

ARCは今年で3回目を迎えますが、今までと異なるチャレンジが用意されています。
第一回めは「アマゾン・ピッキング・チャレンジ」というコンテストの名称でした。その名称の通り、各チームのロボットに与えられたタスクは、コンテナから商品アイテムをピッキングして所定の位置に入れるというものです。第二回はドイツで行われ、コンテストの名称は同じでしたが、ピッキングだけでなくストーイング(収納:棚入れ)が加わりました。箱から取ってストレージ・コンテナに入れる作業がタスクになりました。ストレージ・コンテナはアマゾンが参加チームに提供したものが使われていました。
今年は「アマゾン・ロボティクス・チャレンジ」という名称に変わり、ピッキング、ストーイングに加えて、コンテナなどのストレージ・システムを参加者が自由に設計できる、という変更を行いました。自分たちのアイディアで、ストレージ・システムの中によりたくさんのアイテムを入れる、そんな工夫ができる自由度が増しました。
大きな変更はもうひとつあります。
ロボットが扱う商品アイテムは32種類ですが、昨年まではこれらすべてを参加チームに公開し、実際の商品アイテムや3Dモデリングのデータを渡していました。今年からは、商品アイテムの事前公開を半分の16種類のみとすることにしました。残りの半分は競技の直前になってから参加チームやロボットがはじめて知らされるものになります。

編集部

どのような新しい技術が重要になりそうですか

Brady

今回は新しく追加したタスクによって、より困難でチャレンジングな大会になっています。参加チームやロボットがどのような技術や工夫によってこの課題をクリアしていくか、私自身も楽しみにしています。私の予想では「マシンラーニング」がより積極的に使われるようになるのではないかと考えています。昨年のARCではコンピュータ・ビジョンの進化が生まれました。また、ハイブリッド・マニュビレーションも多く出てきましたので、その点にも注目したいです。

編集部

マシンラーニング技術はどのように活用されるのでしょうか。画像の認識ですか

Brady

今年どのような技術が出てくるかはまだ解りませんが、今日の各チームの準備状況を見ただけでもマシンラーニングはいくつか使われていました。マシンラーニングは対象アイテムを分類して、大きさをより正確に理解したり、ロボットがどのようにつかんだら良いか等、判断に使われるでしょう。例えば、コーヒーカップには取っ手が付いています。コンピュータ・ビジョンがこのカップには取っ手が付いていると認識し、その情報をマシンラーニングが得て、取っ手を持つのがつかむのに最適だ、と判断します。
今回は競技の30分前に各チームに商品アイテムの残りの半分が明らかになるので、短い時間に各チームがどのような技術を使って調整してくるのか、私自身もとても楽しみにしています。

編集部

もうひとつの「ハイブリッド・マニュピレーション」とはなんでしょうか

Brady

ハイブリッドとは「吸着」(suction)と「つかむ」(grasping)ことです。
「吸着」は空気を吸入することでアイテムを吸い付けてつかみますが、バキューム音がとてもうるさいのが欠点ですね(笑)。「つかむ」のは2つのプレートか、3つの指の形状で挟んでつかむしくみを採用しているケースが多いです。吸着とつかむのは一長一短があります。ペンのようなものは吸着でピックアップすることは難しいですが、挟んでつかむことはできます。
ハイブリッドはその両方の機構をもっていることです。吸着してつかむことで、ピックアップできる商品アイテムが増えます。今年は半分の商品アイテムが何か解らないので、どのようなものが出てきてもつかめることを考えるとハイブリッドを選択する参加チームが増えるかもしれません。

編集部

人ははじめて見たものでもすぐにつかむことができますが、ロボットにはスムーズにつかむことはまだまで困難ですね。現在、ロボットがうまくできないのは、物体を認識する機能が不足しているのか、それともつかむ機能がもっと進化しなければならないのでしょうか

Brady

人間は小さい頃からものを触ったりつかんだりして、その経験を脳が記憶して覚えていきます。赤ちゃんもまさにそうやって、いろいろなものを触って理解し、つかむことを覚えていきますね。しかし、ロボットはそうはいきません。未知のものをつかむには予測することが大切です。初めてペンのカタチをしたものを見たら、どこを持ったらつかみやすいのかを予測して手を伸ばさなければなりません。人間にとっては経験によって学習してできるようなことは、ロボットは予測によって対応しなければならず、また人間のような俊敏性も現在のロボットにはありません。

編集部

倉庫の中でロボットによって業務が完全に自動化するのは何年後くらいになると予想しますか?

Brady

私達の方針で将来のロードマップについてのコメントは差し控えさせて頂いています、申し訳ありません。また、それを予測するのはとても難しいのです。更に、それを予測する必要もないのではないかとも感じています。
ひとつだけ言いたいのは、私達は従業員とロボットは素晴らしい協調関係で業務に当たっているということです。私達はロボットが稼働する「フルフィルメントセンター」(アマゾン独自の配送センター)を世界に25ヶ所持っていて、そこでは8万台のロボットが活躍しています。日本にもそのうちの一ヶ所があります。
そこでは人とロボットが効率的に協働していて、ロボットの導入前は一日以上かかっていた仕事が、人とロボットの協調関係によって1時間以内でできるようになっています。そのため、ロボットによる完全な業務自動化という未来予測は今はまだ考える必要はないのではないでしょうか。

(インタビュー日時:2017年7月27日)


■Tye Brady(タイ・ブレイディ)氏
 Amazon Robotics チーフテクノロジスト

高度な計測、自動運転車、ロボットシステムに関するチームリーダーや 技術管理、システム設計において25年以上の経験を持つ。Amazon Roboticsではチーフテクノロジストを務め、先進技術や研究活動を主導。

ロボスタではロボカップと同様、引き続きアマゾンロボティクスチャレンジについてのインタビューやレポート記事もお届けしていくのでお楽しみに!

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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