7月下旬に「ロボカップ2017名古屋世界大会」が盛況のうちに幕を閉じた。
その興奮も覚めやらぬうちに、次のロボットの国際競技大会「ワールドロボットサミット(World Robot Summit)」に向けた試みが既にはじまっている。
「ワールドロボットサミット」(WRS)は、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するロボットの国際的なイベントだ。
ロボット競技会「World Robot Challenge」と、ロボット展示会「World Robot Expo」で構成される。本大会は2020年の10月に名古屋で開催され、その前にプレ大会が来年2018年10月に東京で開催される。
そしてロボット競技会「World Robot Challenge」においては、プレ大会よりも更に事前に設けられたトライアル大会が既に開始されている。トライアル大会は、参加者にとってはプレ大会に向けての参加経験になるし、運営側としてはプレ大会開催前にさまざまなことを試したり確かめる大会となる。こうしたことを背景に8月5日、玉川大学 玉川学園内の高学年校舎(アトリウム)で、19歳以下が参加できるジュニア大会(Junior Category)のPepperを使う競技「スクールロボットチャレンジ」のトライアル大会が行われた。
「スクールロボットチャレンジ」とは
ジュニア大会には2つのカテゴリーがある。ひとつは今回トライアル大会が実施された「スクールロボットチャレンジ」だ。スクールロボットチャレンジはソフトバンクグループが協賛し、コミュニケーションロボット「Pepper」を使った競技が行われる。もうひとつは「ホームロボットチャレンジ」。ロボットは指定せず、オープンフラットフォームになる予定だ。今秋からトライアル大会が始まる予定で、現在ルール作りなどが行われている。
今回参加したのは海外から6チーム、国内から4校7チームの合計13チーム。海外からは、ベトナム、タイ、マレーシア、オランダ、オートラリア、アメリカの6ヶ国からの参加となる。日本は玉川学園、相模女子大学中等部、神奈川大学附属中学校、東京横浜独逸学園から参加。最年少は小学生だ。
種目は大別して「スキルチャレンジ」と「オープン・デモンストレーション&テクニカル・インタビュー」の2つがある。どちらもPepperを使用する。
スキルチャレンジはフィギュアスケートの規定演技のようなもの。音声認識や画像認識などを使ったプログラム技術を競うもの。
「オープン・デモンストレーション」は何をやるのかも含めた、いわばフリースタイル競技だ。自分たちでアイディアを出してプログラミングし、ロボットと人の協働パフォーマンスをステージ上で披露する。いわゆるアイディアソンとハッカソンのようなものだ。今回のテーマは「学校」。学校に関連したものなら、授業でもクラブ活動でも、掃除や給食でもなんでも構わない。
第一日めとなる8月5日(土)は「スキルチャレンジ」が行われた。
具体的には、Pepperと音声対話をしたり(英語)、大きなサイコロの数字を認識してPepperが回答したり、センサーの触った場所をPepperに当てさせたり、人の顔をみつけたらロボットが付いていったりなど、のタスクがある。
「玉川学園サイエンスクラブ」のプレゼンテーションが解りやすいのでハイライト動画で紹介しよう(プレゼンテーションの解説は実際には英語でも行っている)。
■玉川学園サイエンスクラブ
1).人間のパートナーと会話をする。
2).人間のパートナーを認識して挨拶をする。
3).それぞれのセンサーインプットによって違った反応をする。
例えばペッパーが人間のパートナーに指示をしてパートナーがタッチセンサーを触ったときにそのセンサーに対応する反応をしたら、タスクが完了したことになる。
8つの違ったセンサーにランダムに与えられたインプットに対応する。
4).30cm × 30cm の大きさのサイコロに書いてある番号を認識するタスク。ディスプレイに表示し、数字を読み上げることで人間のパートナーにその数字を知らせる。チームはそれぞれのタスクに3回ずつ挑戦できる。それぞれのタスクを達成することで得点を得られる。
その他のチームもダイジェスト動画で紹介したい。
競技なので上手くいくこともあればそうでないこともある。しかし、子供たちはプログラミングに取り組み、みんな一生懸命にその成果を発表している。
スクールロボットチャレンジに使用するプログラミング言語やツールは自由。「コレグラフ」を使うチームもあればPythonを使ってプログラミングするチームもあるようだ。今回はトライアル大会ということもあり、参加チームによってスキルレベルに差があったように思えた。Pepperに触ったセンサーの位置によって別々の反応をさせたり、人を認識して近付いてくることを識別したら「ハロー」、離れていくことを識別したら「グッバイ」とPepperに言わせたり、サイコロの数字を天地逆に見せても認識できる技術等をアピールするチームもあれば、Pepperがほとんど認識や反応せずに成果をあまり見せる機会がないチームもあった。
とは言え、うまくいってもいかなくても、それは子供達の経験となって積み上げられていくもの。プレ大会や本大会に向けて、子供達のプログラミング技術が更に研鑽されることを期待したい。
World Robot Summit について更に詳しく
ではここで、ワールドロボットサミットについて更に詳しく知るため、WRSのジュニア競技委員会の副委員長をつとめる岡田浩之氏に聞いた。岡田氏は玉川大学 工学部情報通信工学科の教授で、ロボカップ日本委員会の専務理事もつとめている。
編集部
World Robot Summit の競技「World Robot Challenge」について概要から改めて教えてください
岡田(敬称略)
World Robot Challengeのカテゴリーは4つあります。「Industrial Robotics Category」「Service Robotics Category」「Disaster Robotics Category」と、そして「Junior Category」です。平たく言いますと、「ものづくり」「サービス」「インフラ・災害対応」そして「ジュニア部門」で競われるロボットによる競技大会ということですね。
編集部
ロボカップからサッカー競技を抜いたもの、のように思えますが、どんな点がロボカップとは異なりますか?
岡田
ロボカップとは実は大きく異なります。ロボカップは基本的には自律型ロボットによる、ロボット同士で競い合う大会です。WRSは「Robotics for Happiness」というテーマを掲げて、「人とロボットの協働」が重視されています。例えば、今日のトライアル競技「スクールロボットチャレンジ」もPepperだけが話したり、なにかをする競技ではなく、Pepperと子供たちが会話したり、子供達が見せたサイコロの数をPepperが言い当てたり、Pepperが子供達の後を付いていったりなど、一緒に行動することが重視されています。
編集部
岡田先生はサービスカテゴリーの委員長もされていますが、サービスカテゴリーのルールや使用するロボット等は決まっていますか?
岡田
いまルールを検討しているところです。家庭内の各種作業支援を競う「パートナーロボットチャレンジ」では、トヨタ自動車さんのロボット「HSR」を使って行うことは決定しています。もうひとつ、店舗における各種業務の自動化を競う「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」というカテゴリーがありますが、こちらも詳細はこれから詰めていく段階です。
編集部
サービスカテゴリーは企業も参加できますか?
岡田
はい。公募でどんなチームでも申請できます。ジュニア部門も19歳以下なら参加できますので、たくさんの方々に気軽にご参加頂きたいと考えています。ルールや公募日程など、今後の予定はWRSのホームページで発信していきますのでぜひチェックしてください。「人とロボットが協働する」「人とロボットが生活する」「人とロボットがいるから楽しくなる」そんな未来を目指して。
オープン・デモンストレーション&テクニカル・インタビューとは
8月6日は同会場で、引き続き「オープン・デモンストレーション&テクニカル・インタビュー」が11時から行われる予定。
オープンデモンストレーションではチームが自分たちのペッパーを学校で使う、さまざまなアイデアを発表する機会。独創的な、また革新的なアイディアや困難な技術を達成することが評価される。
1).どんな状況でヒューマノイドロボットを使うことで、学校での毎日の生活や学びがより良くなるための問題・課題提示をする。
2).提示された問題・課題を独創的、また革新的な方法で解決、または実現する方法を考える。
3).オープンデモンストレーションでその解決・実現方法を発表する。
4).その解決・実現方法はチーム独自で開発したもので、学校での活動や学びをよりよくするものである必要がある。
5).学校での活動や学びをより良くするもので、そのような活動、学びの障害になるものであってはならない。
6).解決・実現方法は先生の役割をサポートし、より良くするものであり先生の代わりにロボットを代用するようなものであってはいけない。
■テクニカル・インタビュー
1).チームは審査員パネルと15分間のインタビューの中で、ロボットパフォーマンス、作成したアルゴリズムやプログラムを説明する。審査員はテクニカルインタビュー評価基準に基づき採点を行う。
2).チームはテクニカルインタビューの機会に、自分たちの作り出した解決方法、課題を実現した過程、オリジナリティーをアピールする必要がある。
それぞれのチームメンバーは自分の役割を明確にし、自分の関わった技術的活動、またチームの解決方法・課題実現の過程に関して、きちんと応えられるようにする必要がある。
WRSの概要やカテゴリーは公式ホームページに掲載されている。一部の競技は使用するロボットやルールブック等も掲載されているのでチェックしてみよう。
今後、WRSの続報が入り次第、ロボスタでもニュース等でお知らせしていく予定だ。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。