既報「【ロボットでエアホッケー】ソフトバンクが5G通信を使って超低遅延でロボットを遠隔制御するデモを公開」のとおり、9月8日(金)にソフトバンクは次世代通信規格「5Gに向けた取り組み」を報道陣に公開した。
プレゼンテーションとデモが行われ、5Gの技術的なキーワードとして、5G-NR、Massive MIMO、ネットワーク・スライシング、エッジコンピューティングなど、特徴としては超高速性と低遅延、大容量、多接続性、ユースケースでは高精細映像、イマーシブビデオ、GPU遠隔レンダリングなどが挙げられた。
デモは、シールドルームでの5G通信の高速性実験、低遅延の5G通信によるロボットのエアホッケー、イマーシブビデオの実験デモ、5G通信とエッジコンピューティングによるGPU遠隔レンダリング、ホロレンズを使った5GのARホログラム映像伝送実験のビデオなどが行われた。
5G通信ではどのような未来が描かれるのか、まずはプレゼンの要点から解説していこう。
5G通信の特徴
「5G」は第5世代(5th Generation)の通信規格のことで、2020年に周波数の割り当てが行われると見られている。なお、現行は「4G」で、スマートフォンの「LTE」通信などで知られる高速通信規格だが高速通信でもそれを凌駕する予定だ(厳密には当初のLTEは3.9Gとしてスタートしている)。
5Gが4Gと大きく異なる点は、まず通信の対象が「人」だけでなく「モノ」に加えた社会インフラへとシフトすることだ。
5Gには「高速性」だけでなく、技術的に様々な要件と水準が求められている。ソフトバンクとして現行では下記の水準を考えているようだ。
・超低遅延 1ms
・Cell収容数 1万台
・多数同時接続 100万台/km2(キロ平米)
・モビリティ 500km/h
・省エネ 1/10
「Cell収容数」とはひとつの基地局で対応できる端末数で、現行のスモールセル基地局では数百台レベル。5Gでは大きく向上を見込む。「多数同時接続」も関連していてキロ平米あたり、100万台の機器に増やすことが望まれている。従来の4Gはスマートフォンや携帯電話が対象だったが、5GではIoTセンサーやロボット、自動運転車などの多彩な端末が膨大に接続される将来が想定されるので、それに答えるインフラが必要になるというわけだ。
TD-LTEと5G-NR
3つの通信キャリアの中では通信事業者としては最も歴史の浅いソフトバンクは、いくつかの企業吸収を通じて、周波数の割り当てを増やしてきた経緯がある。そのひとつがウィルコムを買収し、グループの「Wireless City Planning」が提供する「AXGP」、「TD-LTE」技術だ。TD-LTEは2011年に同社が世界で初めて商用化を行った。5Gは「TD-LTE」がキーとなり標準化が進められている。
5Gの特徴となる「5G-NR」を「TD-LTE」との比較表を用いて、同社が実践運用しているTD-LTEの基礎技術が似ていることと、違いを解説した。最も大きな違いは周波数の帯域幅だ。現行のTD-LTEが30〜40の帯域幅に比べ、5G-NRはそれより少し高い周波数を使って、100〜1000MHzもの帯域幅を使って通信を行う。これが今後の技術的なチャレンジになる。ちなみにNRとはNew Radioの略称だ。
Massive MIMO
このTD技術を改良して、5Gの技術と融合、先駆けて多接続高速化の本命技術「Massive MIMO」(マッシブマイモ)のLTE版を実践投入している。従来はひとつの「コア」をユーザーが共有するカタチで通信が行われていたため、利用者が多く、多接続になると通信効率が下がって速度の低下が発生していた。Massive MIMOではユーザーごとに個々に割り当てて通信を行う形態になるため、多接続通信環境でも速度が低下を抑えることができる。従来はアンテナの数は4〜8本で運用されているが、Massive MIMOでは128本のアンテナ素子で通信を行う。また高速でスイッチ(切替)することで、1セルあたり最大11倍の容量を持つ。
5Gに向けたフィールド実験
同社では4G帯域に加え、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯を5G向けとして考えている。
既に3.7GHz帯域でのフィールド実験は行われているといい、基地局と端末の写真が公開された。特に端末は現状の携帯電話と同じものが台車で運ばれている写真になっていて、注目の的だった。(これから小型化されていく)
ネットワークスライシングとエッジコンピューティング
前述したように、5Gでは超高速性を求めるニーズと、超低遅延を求めるニーズ、多接続性を求めるニーズなど、さまざまな要求が混在することになる。例えば、4Kや8Kなどの超高解像度の動画を送受信するのには「超高速性(大容量)」、自動運転車のように一瞬ではんだんが必要な通信には「超低遅延」といった具合だ。
このような多彩なニーズに応えるにはネットワーク環境をスライスし、複数のコアを使ってようと似合わせてカスタマイズする、テイラーメイドなネットワークが必要になる、と見られている。
そして「エッジコンピューティング」だ。ネットワークのサーバ側を「クラウド」と呼ぶのはご存じと思うが、端末側を「エッジ」と呼ぶ。すべてのデータをクラウドに蓄積して、データの処理を行わせるネットワーク構造だと物理的に遠いこと、更に処理が集中することなどから処理速度の低下が発生する可能性がある。そこで、できることはエッジ側で分散処理する方が安全で速い、という考え方だ。特にロボットや自動運転、スマートシティなどにおいては、エッジ側でほぼリアルタイムでの処理が求められている。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。