ヤマハ発動機は東京モーターショーで2つのロボット技術を紹介した。
ひとつは既報のとおり「MOTOBOT Ver.2」。人間用のオートバイに乗って、サーキットを高速で走ることができる「自律」ロボットライダーだ。
そしてもうひとつがオートバイそのもの。「自立」技術を搭載したオートバイ「MOTOROiD」(モトロイド)だ。
■ プレスブリーフィングでのデモ動画はこちら(再掲)
モトロイドはオートバイのスタンドをあげても倒れない。2輪で自立する技術を実現している。同社はこれを「AMCES」、自律バランス制御機能と呼ぶ。
モトロイドは自律的に前進できる。いや前進だけでなく後進もできる。
しかも、モトロイドは人の顔を認証し、オーナーの指示にのみ反応する。オーナーの動きを認識し、ジェスチャーによって動作する。
ちなみに顔やジェスチャーの認識にはディープラーニングなどのAI技術が使われている。
自動運転で動作するものの、ライダーとの一体感も重視している。「モーターサイクルの魅力は操縦すること」というコンセプトは息づいている。
ハプティックデバイス(haptic Device)、一体感を感じるデザインが採用され、シートの後部にある羽根のような突起はライダーの腰の部分にフィットし、まるでマシンに抱きかかえられている感覚だと言う。
■ MOTOROiD / The 45th Tokyo Motor Show 2017
モトロイドはどのようなしくみで自立し、動作しているのか、開発チームの浅村氏に聞いた。
バッテリーをオモリにして振り子の原理でバランスを制御
編集部
モトロイドが自立し、ステージ上で社長がさりげなく押してもバランスを保っているのには驚きました。どのようなしくみで自立しているのでしょうか。
浅村(敬称略)
バランスの制御は、振り子のようにオモリで重心をとるという実はとても単純なしくみなんです。
車体の下部に、ひときわ目立つ3本のタンクのような形状のものが見えるが、これはリチウムイオンバッテリーで、オモリも兼務している。モーターはリアに装備されているため、中心下部にバッテリーを置いて、バランスをとるオモリとしてレイアウトしていることが特筆点だ。
バランスをとる動きは最初のデモ動画の中で、「スタンドアップ」という掛け声に反応して、モトロイドがスタンドを畳んで自立する直前の動きで見てとれる。また、柳社長が中盤でモトロイドを横から故意に押した際、モトロイド自身がオモリを大きく揺らしてバランスをとり、転倒を防いでいるシーンもお見逃しなく。
1/2000秒ごとに重心の移動を検知し、バッテリー部を振り子のように動かしながらバランスをとっている。子供が自転車の練習をする際に身体を振ってバランスを保とうとするが、それをオートバイが行っているというイメージだ。
浅村氏は「簡単な構造」と笑うが、転倒せずに自立するオートバイを実現したブレイクスルーとしての意義は大きい。
浅村
センサーでフロントからセンターにかけての軸だけで制御できるのですが、言葉で言っても難しいですよね。おそらくこの技術の概要はウェブで公開されると思いますので、お楽しみにしていてください。ただ、本当に原理は簡単なものなんです(笑)。
編集部
ディープラーニングなどのAI関連技術も使われていると聞きました
浅村
モトロイドの車体の前方に上下二段のカメラを搭載しています。顔認証を行ったり、動作の認識を行います。顔認証では、予め登録した人物の言うことをだけを聞くモードも用意されています。この機体は現在そのモードになっていて、(ステージ上でデモをした)弊社の社長であったり、これからステージデモを行う女性の顔も登録してあります。
「スタンドアップ」という合図で自立した後、ジェスチャーでモトロイドが移動するしくみです。
編集部
アクチュエーターはいくつ搭載していますか?
浅村
アクチュエーターは車体の前部に大型のものがひとつ、ステアリングにはフロントフォークの上部に、回転質量で150kg程度を動かせるもの、それからサイドスタンド等にも使っています。
浅村
走行中は乗り手がリードしてオートバイとの一体感や操縦性を楽しんで頂ければ良いので、バランス制御を使った安定化技術というのは停止している時が重要だと思っています。今回のデモでもスタンドをあげて自立して二輪だけで立った状態を保てるところが実用性では大きいですよね。
編集部
この研究は水面下で長年行われてきたものなんですか?
浅村
いいえ。昨年の1月頃、「人とマシンの一体感を向上させるにはどうしたらいいか」というテーマで検討を始めましたが、実際にチームとして動き出したのは今年の2月からです。開発を初めて8ヶ月間、とても短期間でここまでできあがりました。
ただ、AMCESという技術を、ふらつき防止や後輪操舵、一体感向上などのために活かしたいという考えは10年くらい前に一度検討したことがありました。そのときのアイディアをもとに、今回は止まっていたり低速でも倒れない自立技術としてやってみた、という感じです。
編集部
モトロイドには実際に人が乗って走れるんですよね
浅村
モーターショーでは人が乗るデモはありませんが、コンセプト動画では人が乗って走っているシーンがありますので、ぜひ確認してみてください。
編集部
将来、オートバイとライダーのコミュニケーションはどのように進化していくのでしょうか。
浅村
MOTOBOT Ver.2は高速に走るために生まれた自律ロボットです。一方、このMOTOROiDは停止中や低速でのバランス制御や自立走行が可能です。近い将来、これらの技術は統合され、低速から高速まで、ふらつきや転倒を防止しながら一体感を楽しむ方向に進んでいくのかな、と感じています。
ヤマハ発動機は、バギーなどのATV分野で自動運転車の開発をおこなっている。今回のモーターショーでも自動運転車は様々なところに参考展示され、その実現性も見えてきた。しかし、モーターサイクルの場合は、自立する技術ができなくては自動運転バイクの実現は遠いと考えられるが、今回、同社の「MOTOROiD」がブレイクスルーを実現するひとつの回答を示したと感じた。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。