自治体の窓口受付&呼び出しはMSボイスコールとPepperにおまかせ!明光商会とエコー電子が開発
ある市役所の窓口の待合所。
印鑑証明や住民票など、各種書類の申請と発行でたくさんの人が自分の順番を待っている。
お客様のひとりが「あとどれくらい待つのかなぁ?」と、発券された受付番号をPepperのタブレットに入力すると、「待ち人数はあと5人ですよ、お待たせして申し訳ありません」とPepperが回答する。
Pepperは役所内の窓口案内システム「MSボイスコール」と連動して、お客様の順番を確認し、問いかけに回答する。また、MSボイスコールが館内放送を使って番号を呼び出したにも関わらず、聞きもらしてしまったためか、窓口にまだ来ていないお客様をPepperが自律的にチェックして再呼び出しを行う機能もある。
待合所の順番待ち管理業務をPepperが支援するこのシステムは「ボイスコール for Pepper」と名付けられた。
提供しているのは明光商会、Pepperとの連携を開発したのはエコー電子工業。どのような特徴があり、どのようなしくみで動作しているのか、明光商会の市澤氏とエコー電子工業の椋尾氏に聞いた。
ボイスコール for Pepperの流れ
このシステムは、市役所/区役所などの窓口発券業務管理システムだ。タブレット、発券機(ミニプリンター)、待合所の壁に設置するサイネージ(大型ディスプレイ)で構成される「MSボイスコール」に、写真手前のPepperをオプションで加えた構成となる。
市役所や区役所に来所したお客様はタッチパネルから用件を選ぶ。画面には「印鑑証明」「戸籍」「国民健康保険」「福祉年金」「市民税」「子育て支援」などの項目が並ぶ。
また、複数の項目を選択することもできる。これは「渡り機能」(連続発券機能)と呼ばれる。例えば、印鑑証明、国民健康保険、市民税の窓口に用件がある場合、お客様は全ての窓口を順番に回ることになるが、従来は各窓口でその都度一番最後尾に並ぶことを余儀なくされていた。「渡り機能」はそれを防ぎ、複数の窓口に用件がある場合は、2番目の窓口からはある程度優先された順番で列に組み込まれるようになる。
用件の選択はPepperでもできる。MSボイスコールのタブレットと同様の画面がPepperのタブレットに表示されるので、同じ感覚で操作することができる。MSボイスコール側の業務設定を変更した場合でも、変更内容がPepper側に反映される仕組みだ。
選択が完了すると発券機から番号札が発券される。
市役所/区役所のスタッフのスマートフォンには順番待ち管理画面がリアルタイムで表示されている。各窓口の担当者が「呼び出し」ボタンをタップすると次の順番待ちのお客様を番号で呼び出すしくみだ。
呼び出しはサイネージに表示され、「MSボイスコール」の館内放送で「××××番の方、窓口までお越しください」とアナウンスされる。窓口にお客様が来たら窓口の担当者が完了の処理を行う。
お客様が「私はあとどれくらい待つのだろう?」と感じたときは、Pepperで確認することができる。まず、Pepperのディスプレイから「待ち組検索」をタップする。
続けて番号札に書かれた番号を入力する。
Pepperは「MSボイスコール」のシステムにアクセスし、該当の番号があと何番目で、おおよその待ち時間がどれくらいかを教えてくれる。
明光商会の「MSボイスコール」とPepperの連携で実現
明光商会と言えば「MSシュレッダー」で知られる企業だが、1987年に官公庁向けに日本初となる窓口案内システム、初代「MSボイスコール」を発売している。それ以来、約30年にわたり、11機種もの新製品を投入して進化し続けてきた。ここ最近の5年間で販売してきた「MSボイスコールNEXT」だけでも、携帯ショップ、自治体、郵便局など、約1200ヶ所に導入実績を持つ。そして、2017年9月に発表した新製品「MSボイスコールNEO」では、渡り機能とともに、Pepperとの連携が実現した。
「MSボイスコールNEO」とPepperの連携部分は、エコー電子工業が開発を行った。
Pepper用のロボアプリ開発を手がけたエコー電子工業は、1963年4月に設立、東京、福岡、長崎、佐世保、鳥栖に拠点を持つ。ロボアプリ開発には定評があり、椋尾氏はPepperのロボアプリ開発を解説した書籍「最新事例に学ぶ ロボアプリ開発 ~サービス分野での3社のユースケースに学ぶPepper for Biz活用編~」の著者もつとめ、書籍の中ではエルゼ(クリーニング相談/お役立ち情報/クーポン発行)、沖縄銀行(クイズ/民謡と踊り)、川崎重工向け(ロボットアーム連携システム)導入事例とシステム構築方法について解説している。
また、官公庁では東松山市役所や下野市役所に導入するなど、豊富な実績を持つ。
編集部
MSボイスコールとPepperはどのような経緯で連携することになったのでしょうか。
明光商会:市澤(敬称略)
「MSボイスコール」は官公庁、市役所や区役所などで、主に発券と呼び出しという目的で導入されてきたシステムです。更に現在の「MSボイスコール」はウェブ連携機能があり、お客様が「いつ来所したい」という希望日時を、スマートフォンなどを使って予約したり、待ち時間をスマートフォンで確認することができます。官公庁でも既にこの機能を導入しているところもあります。
ウェブ技術がベースの「MSボイスコール」とならPepperと連携ができることを知り、クライアント様がカスタマーサービスを向上するためにPepperを活用できないだろうか、ということでエコー電子さんと話を進めました。
エコー電子:椋尾(敬称略)
当社は以前からPepper向けのロボアプリやサービスの開発を行ってきましたが、「順番待ち管理システムとロボットは相性がいい」と感じていました。「MSボイスコール」が技術的にウェブ・インタフェースを持っていると聞いて、どうしてもPepperとMSボイスコールを連携したい、と熱く提案させて頂きました(笑)。
MSボイスコールと共通の操作画面でPepperでも番号札を発券できること、「あと何番目に自分が呼ばれるのか?」といった問合わせに対して、Pepper側からMSボイスコールのシステムにアクセスして、待ち時間の確認ができること、また、呼ばれたにも関わらず窓口に来ていないお客様の番号をPepperが定期的にチェックして、Pepperが単独で番号を呼び出す機能が実現できることなどを実現し、「MSボイスコールNEO」のオプション機能としてPepperとの連携のサービス化が実現しました。
編集部
なるほど。予約することができる市役所や区役所など、官公庁が既にあるということは知りませんでした。予約した時間に行けば、並んでいても優先して窓口の対応を受けられるのですか?
市澤
はい。「MSボイスコール」の場合、予約どおりに官公庁に到着してQRコードを読み込ませると、その時点で順番待ちであっても予約者優先の順番に組み込まれます。「渡り機能」もそうですが、自治体によっては公平性を高め、カスタマーサービスを向上したいというニーズの高まりを年々感じるようになりました。
編集部
発券と館内放送をして呼び出すという業務自体は「MSボイスコール」がメインで行っているんですよね。そこに更にPepperを連携させることで、自治体にとってはどのようような効果が期待できるでしょうか。
市澤
MSボイスコールとPepperを活用すると、受付業務の効率化や案内担当スタッフの人件費削減が期待できます。従来は「あとどれくらい待つの?」「少し席をはずしていたんだけど、まだ呼ばれていない?」といったお客様からの問合わせに対応したり、フロアを見回るスタッフを配置する必要があったところをロボットである程度代替できることを提案したいと考えています。また、ロボットなら、タブレットではできない対話感覚のやりとりや、思いやりのあるひとことをかけることもできます。担当者によって接客サービスにバラつきのあることが問題になることもありますが、人型ロボットなら常に安定した対応をおこなうため、サービス対応の均一化にもつながります。
椋尾
待ち時間が一定時間を超えた場合は「大変お待たせして申し訳ありません」とPepperがひと言付け加えるなどの配慮もロボットならではの機能だと思っています。また、Pepperはカメラ機能を使ってお客様の表情から感情をある程度判断できるので、待ち時間の経過とともにお客様が不愉快に感じていると判断すれば、言葉を選んだり、お詫びの言葉を付け加えた上で、ご案内することもできます。
更には、Pepperが「施設案内」(コンシェルジュ)を行うこともできます。トイレの場所を案内したり、「印鑑証明の窓口は3Fです」のように案内をすることも人型ロボットならではの使い方ですね。
ロボットがユニークな点は、Pepperは自分ができることを自分で説明できるということです。例えば、発券機は発券するだけが仕事ですし、利用する人もそう思っていますが、Pepperなら発券するだけでなく、施設の案内をしたり、クーポンを発行したり、自分ができることを自分で周囲に告知することができる・・これはとてもユニークな特徴だと考えています。
編集部
しかし、Pepperにいろいろやらせようとすると、本来やるべき仕事ができなかったり、おろそかになったりしませんか?
市澤
発券と呼び出しの主業務は「MSボイスコール」がメインでやるので、その点は大丈夫です。Pepperは待ち時間の確認や呼んでも窓口に来ていない人の再呼び出しを行う仕事がメインなので、接客による施設案内や応対を行っていても、本来の呼び出し業務には支障がでません。
編集部
ロボットの導入は今後も増えていくと予想しますか?
椋尾
既に飲食業界などでは顕著に表れていますが、今後はもっと深刻な労働力不足が予想されています。少ないスタッフの人数で、お客様に満足して頂く方法を検討する上でのひとつの回答が「ロボット」です。人件費に比べて少ないコストでロボットが業務の一部でもきちんと代替できれば、大きな価値を生み出します。例えば、官公庁であれば、削減できた人件費を別の市民サービスとして還元するなど、更に有効に活用できると思っています。
明光商会は展示会「地方自治情報化推進フェア2017」に「MSボイスコール」と「ボイスコール for Pepper」を出展する(会期 2017年11月9日(木)〜10日(金)、場所:東京国際展示場「東京ビックサイト」西展示棟 西3・4ホール)。窓口業務の改善を検討したり、待ち時間に対する顧客の不満を減らしたい等が優先課題の企業は、現在の業務状況や質問をぶつけてみる良い機会になるのではないだろうか。