「シンギュラリティに対する3つの誤解」ロボット×AIの進化で仕事はどう変わる? ロボット事業をやってきてわかったこと

「手先を使う職人の仕事をロボットに置き換えるにはまだまだ時間がかかる。手を使う業務をロボットが代替するのはまだ先の話。マネジメント業務、すなわちナレッジワーカーがAIに置き換わる時期の方が早いのではないか」

ソフトバンクロボットワールドの2日めの基調講演に登壇したソフトバンクロボティクスの吉田氏は、「移動できるロボットの実現への意欲」と「シンギュラリティに対する3つの誤解」を解説した。

ソフトバンクロボティクス株式会社 Chief Business Officer 事業推進本部 本部長 吉田健一氏

「シンギュラリティ」(Singularity)は超知性の誕生、コンピュータが人間の知性を超えるときを意味するが、そのキーワードとして「AI」「スマートロボット」「IoT」の3つをあげた。

シンギュラリティへの3つのキーワード

Pepperの一般発売から約2年強が経過した。ソフトバンクロボティクスはロボットの更なる進化を目指し、今年から「脚」に着目、「モビリティ」の強化を今年からスタートするとした。脚とは「移動を伴う業務」をロボットにより自動化すること。

顔は会話も意味し、これはPepperである一定のレベルまで達していると評価した。次のステップは「脚」。その次の「手」(汎用的な手先の動作)は未だロボットには難しい領域であるという認識だ

同社が自動化に挑戦する業務はまずは「清掃」からとし、2018年夏から販売を開始するブレインの自動運転床清掃機の投入に触れた。

ソフトバンクロボティクスは、業務用清掃ロボット事業に参入し、第1弾としてBrain Corp.(ブレイン)の自動運転技術を活用したスクラバー(床洗浄機)「ICE RS26 powerd by Brain OS」を発表。このイベントで稼働展示した(関連記事「ソフトバンクロボティクスが「清掃ロボット」業界へ参入する理由とは!AIで自動走行する床洗浄ロボットを来夏より発売」)

「移動」に関連する仕事としては「清掃」のほかに「警備」「配膳」「倉庫」「配送」などが自動化の候補に上がると言う。

ロボットが移動できるようになることで自動化が実現する業務分野の例


シンギュラリティに対する3つの誤解

吉田氏はこれまでロボット事業を進めてきて、多くの人々が抱く「シンギュラリティ」には「3つの誤解」があり、多少の違和感を感じている。その誤解をここで解いていきたいと切り出した。
誤解とは「シンギュラリティは結構先の話だ」「シンギュラリティは単純労働に影響をもたらす」「シンギュラリティで職が奪われる」の3つ。

ひとつめの誤解「シンギュラリティは結構先の話だ」を解くということは、”それには早めに備えておくべき”という意味が込められている。
シンギュラリティを唱えたレイ・カーツワイル氏が2045年に到来すると予測しているのは「1000ドルで買えるコンピュータのチップが全人類の頭脳を超えるパワーを持つ」ことであって、AIが人類を超える時期はもっと早いと予想している。
吉田氏は、2025年に自動運転車が実現する社会が来るとすれば、それはこれからわずか7〜8年後のことであり、自動運転車の実現によって、社会には大きな変化が起こるとした。

政府や自動車メーカーが目標とする自動運転の実用化。それが2025年だとすると、わずか8年先の話だ

自動運転の実現はたしかに社会的に大きな変化をもたらすことが予想されている。ロボットタクシーなどの実現により、消費者が自動車を購入する必要がなくなる可能性すらあり、自動車産業のビジネスや雇用が全く変わることは大きなインパクトだ。自動車で移動している間、消費者は運転以外に時間を費やすことになり、物流のドライバー雇用も保険などにも影響がある。

吉田氏は、現在より進んだ業務用AIが2020〜2025年には完成し、多くの業務がAIベースになるとも予想する。
それに関連して2つめの誤解「シンギュラリティは単純労働に影響をもたらす」に対しては、「手先を使う職人の仕事をロボットに置き換えるにはまだまだ時間がかかる。手を使う業務をロボットが代替するのはまだ先の話」とし、マネジメント業務、すなわちナレッジワーカーがAIに置き換わる時期の方が早いのではないかと語った。最終的な判断は行うのは人間の仕事だが、ナレッジワーカーの業務の大部分がAIに置き換わっていくと言う。

「ナレッジワーカーが消滅する」というのは衝撃的な言葉だが、ナレッジワークの業務の多くがAIが代替する可能性か高い、ということについては筆者も同感だ

最後の「シンギュラリティで職が奪われる」という誤解に対しては、たしかにその側面はあるが、そう単純なことでもないというのが吉田氏見解のようだ。分析の根拠として、主に身体を使った労働をしている人は2,000万人くらいで、そのうちの1,000万人分の仕事がロボットで置き換えられる可能性があることを示唆した。飲食小売業では接客系は「顔」、配膳業務は「脚」、調理は「手」などと技能別に分類したのが下図だ。

各分野における「顔」「脚」「手」に関わる業務

1000万人の就業者がいる場合の各分野と各業務の人数の割合と代替ロボット

こうして見ると、業務の多くは「手」の技能が必要であり、ロボットが汎用的に人間と同様の手の能力を持つまでにはまだまだ相当な時間が必要だとした。また、現状から今後にかけても、スタッフ不足が深刻であり、その課題を解決していくために少しずつでもロボットができることは代替を考えていくことが建設的なようだ。

例として、吉田氏は同社の清掃業務をあげた。清掃業務の工数のほとんどはゴミ捨て、トイレや階段の掃除といった作業であり、それらをロボット化するのは難しいと説明した。

清掃業務でいえば、ロボットで当面代替できる可能性が高いのはフロア清掃のごく一部に過ぎないため、仕事が奪われるという心配にはほど遠い

こうした根拠をもとに「仕事が奪われる」と考えるより、スタッフ不足により業務が滞るという自体を改善することを考えておくべきだとした。また「ロボットやAIの登場によって、ビジネスモデルが驚異的に変わる」と予測。ICTの進化によって、今後はビジネスモデルを新たに定義していく必要が出てくるだろう、と締めくくった。


関連サイト
SoftBank Robot World 2017

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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