ソフトバンクと日建設計が次世代スマートビルを共同設計開発へ。IoT・ロボットのフル活用で、ビルの運用費「4割削減」を目指す

株式会社日建設計 代表取締役社長 亀井忠夫氏(左)とソフトバンク株式会社代表取締役副社長 兼 COO 今井康之氏(右)

ソフトバンク株式会社と株式会社日建設計は、2017年11月27日に共同記者会見を開催し、IoTやロボットを活用した次世代スマートビルティングを設計開発を共同で行う業務提携に合意したと発表した。建築、都市工学、AI、ロボティクスを融合して、オフィスの知的生産性を向上、付加価値の高い空間を作り、環境負荷を低減することを目指す。


スマートビルディング実現へ

今後、両社で具体的なフィールドを選定して共同実証実験を開始する。共同実証実験の概要は以下のとおり。

1. ビルの「ナカ」と「ソト」の人流解析とIoTセンシングによる新しいワークプレイスデザイン
環境センサーや人感センサーなどの各種IoTセンサーを使用し、両社が持つ人流・群流データを解析して、働き方改革を実現する新しいワークプレイスをデザインします。

2. IoTとロボットの導入を考慮した次世代スマートビルディングの共同検討
各種IoTセンサーとロボットを融合した新たなビルソリューションを共同で検討し、ビルの設計段階から取り入れる取り組みを行い、さらにビルの周辺環境を含めたスマートシティーづくりに貢献します。

3. 各種IoTセンサーを活用したビルのライフサイクルマネジメント最適化検証
各種IoTセンサーが収集するさまざまなデータを分析し、消費電力量の削減だけでなく、設備管理、清掃、警備などのライフサイクルコストを総合的に最適化するソリューションを検討・開発します。


IoTとロボティクスがオフィスビルとビル周辺環境、「人とビルの関係」を変える

株式会社日建設計 代表取締役社長 亀井忠夫氏

会見で株式会社日建設計 代表取締役社長の亀井忠夫氏は、「社会環境デザインを手がけてきた」と1900年創業の同社事業について紹介。東京スカイツリー、エリア一帯の開発である六本木ミッドタウン、森と調和した箱根のポーラ美術館、すだれ構造を利用して光熱費を削減したYKK株式会社本社ビルなどの事例を紹介した。IoT技術を活用することで空間の快適性、オフィスの生産性を高め、コスト削減効果が見込めると述べ、異業種の知見を融合することでさらに高めることができると考えて、ソフトバンクと提携したという。

亀井氏は、今後目指すこととして、オフィス空間のあるべき姿の追求、働き方改革、コミュニケーション強化、仕事をいかに円滑に進めるか、シームレスなセキュリティを通した利便性向上、一人一人が快適に過ごせる光環境・温度環境の実現、ロボットを活用したファシリティマネジメントを挙げた。共同実証実験の成果を建築設計や建物の維持管理に生かし、トータルで「人々が快適かつ豊かに生活できる都市空間、建築空間を作っていきたい」と述べた。設計の仕方も今後は変わってくると考えており、「より高いレベルの設計ができるようになる。それは付加価値として返ってくる」と語った。


IoTによってこれまで分からなかったことが視覚化され、人とビル、都市の関係が技術によって変わろうとしている


建設費の5倍の運用費用を、4割削減することを目指す

ソフトバンク株式会社代表取締役副社長 兼 COO 今井康之氏

今回の話は2017年夏頃にソフトバンクから持ちかけたものだという。ソフトバンク株式会社代表取締役副社長 兼 COOの今井康之氏は、ソフトバンクはAIやロボティクスへの投資を加速し、他業種と連携して新事業を作り出そうとしていると挨拶。日建設計は建築業界で圧倒的なナンバーワンであり、一緒に建築のあり方を検討し、スマートビルディングを作り出そうとしていると述べた。

オフィスビルの運用費用は耐用年数60年で換算すると、建設費の5倍とされている。つまり運用まで考えて設計するかしないかでランニングコストに大きな差が出る。


耐用年数60年とした場合のビルの運用費用は建設費の5倍

特に運用では清掃、警備、設備管理の3つがある。テクノロジーを活用してビル全体のライフサイクルマネジメントを改善するという。


清掃、警備、設備管理に技術を活用

具体例として、今井氏は先ごろソフトバンクロボティクスから発表されたBrain Corp.の掃除ロボットを紹介した。



Brain Corp.の清掃ロボット
ソフトバンクロボットワールドでのBrainの清掃ロボットのデモの様子

警備についてもロボット活用を検討し、運用コスト削減を目指す。IoTとクラウドを活用することで、定期点検から常時マネジメントの仕組みを作り、様々なビルに適用していけるものにしようと考えているという。


定期点検から常時マネジメントへ

ソフトバンクとしては多くの技術のAPIをオープンにし、サービスへと展開していきたいと述べた。具体的には運用費4割削減を目指す。


新しいサービス創造を目指す

また、買収したARMについても改めて紹介。世界的に圧倒的なシェアを持つArmのチップ設計技術、そしてセキュリティ技術は、今後のIoT展開において重要だと強調した。


ARMの技術でIoTのセキュリティ基盤を作ると強調

質疑応答では、ビル内外の人流データの活用が強調された。ソフトバンクの今井氏は「人の位置や流れが具体的にわかることで空調の仕組みやセキュリティも変化する。空調や電源管理の自由度も新たな技術によって大きく変わってくるだろう」と述べた。

日建設計 執行役員プロジェクトマネジメントグループ代表の中谷憲一郎氏も「今のオフィスではコミュニケーションが注目されている。位置情報を使って誰と誰がコミュニケーションしているのかがわかる。ワークスペースと打ち合わせスペースの配置も最適化できる。今回実証実験をしながら、最適なオフィスのありかたを検討していきたい。業務効率向上もKPIを持って改善に挑んでいきたい」と続けた。


質疑応答の様子

会見ではソフトバンク株式会社テクノロジーユニット技術戦略統括 IoT事業推進本部 本部長の丹波廣寅(ひろのぶ)氏、ソフトバンクロボティクス株式会社 事業推進本部本部長の吉田健一氏も同席。吉田氏は「IoTとロボットは技術的には同じもの。動くものをロボットと呼んでいる」と述べた。Brainのロボット以外の活用も検討しているという。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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