11月21〜22日に都内で「SoftBank Robot World2017」が開催された。
20のセッション(講演)と40のロボットソリューションが展示され、さまざまな分野でロボットの活用提案が行われた。
このイベント、前回までは「Pepper World」として開催されてきたが、ソフトバンク傘下にボストン・ダイナミクス社やブレイン社が加わったこともあり、今回から床清掃ロボットや自動搬送ロボットなど、「Pepper」の枠を超えてロボットたちが集結することになった。今回は、展示ブースで見られたPepper以外のロボットたちにスポットライトをあててみたい。
ボストン・ダイナミクスの展示コーナーをPepperがご案内
展示会場に入るとすぐ、ボストン・ダイナミクスの展示コーナーが目に飛び込んでくる。ボストン・ダイナミクスと言えば、滑りやすい雪の上を歩いたり、バク宙回転をしたりと、YouTubeで話題になった二足歩行型ロボット「Atlas(アトラス)」と、四足歩行型の「SPOT(スポット)」が知られている。(関連記事「ボストン・ダイナミクス」CEOが語る、ロボット開発に大切な3つのこと。未公開映像も披露」)
前日の記者発表会の際、展示会場の前面に通路が設けられていたので「稼働しているアトラスがはじめて見られるかも」と淡い期待をしたものの、残念ながらアトラスとスポットは静止状態での展示だった。前面の通路はトレースラインがひかれているが、それはPepperが移動するためのもの。
Pepperがアトラスやスポットの解説を移動して行うという趣向の展示となっていた。Pepperは最近のアップデートでSLAM技術に対応し、ソフトウェア制御で移動することができるようになった。また、アプリ開発会社らによって、ライントレース方式やマーカー方式の移動制御も開発され、ショールームや住宅展示場など、さまざまな現場で、商品や施設を紹介しながら移動するPepperの事例なども出はじめている。
Pepperによるアトラスとスポットの紹介は動画でどうぞ。
■ボストン・ダイナミクス展示ブースをPepperが紹介
なお、ボストン・ダイナミクスのロボットの動きには好評価が集まっているものの「この技術をいったいどこで使うのか?」と、ビジネス面で疑問視する声もある。今回のSoftBank Robot World 2017の基調講演では、そんな懸念する声を払拭するように、セキュリティ大手と建設大手の合計3社が登壇し、アトラスやスポットの製品化に対して熱いラブコールを行なった。警備や建築など、人が使う施設を不自由なく移動するためには、人型や安定した四足歩行型のロボットは好都合だ。もちろん同社の卓越したバランス感覚が実現できたからこそのことである。(関連記事「ボストン・ダイナミクスのロボット、竹中工務店などが活用に期待。人材不足の解消に」)
ソフトバンクグループとして再出発したボストン・ダイナミクス、今後の展開に期待したい。
アスラテックの「V-Sido OS」を使った変形ロボと遠隔操作ロボ
ジェイダイト・クォーターとジェイダイトRIDE
入口の右側には、アスラテックのロボット制御システム「V-Sido OS」を使用した大きめのロボットが2体展示されていた。
ひとつは、トランスフォーマーのように二足歩行のロボットとクルマに変形できる身長約1.3mの「ジェイダイト・クォーター」だ。既にロボスタでも何度か紹介したのでご存知の読者も多いとは思うが、今回の展示ブースでは「ジェイダイト・クォーター」の変形が実演された。そして、さらに巨大ロボ「ジェイダイトRIDE」 (全長約4m)が今年中に完成し、来年には発表できる見込みであること、秘密基地(スポンサー)募集の告知が行われていた。
展示ブースには、ロボット建造師でBRAVE ROBOTICS代表の石田賢司氏(左)と、V-Sidoの開発者でアスラテックのチーフロボットクリエイターの吉崎航氏の姿も見られた。
■「ジェイダイト・クォーター」の変形動画(人型→クルマ型)
人型/車型に変形可能で、二人乗りの巨大ロボ。こちらも来年の公式発表が楽しみでワクワクしている。(関連記事「【動画あり】新宿高島屋「ロボティクススタジオ」に変形ロボ「ジェイダイト・クォーター」がやってきた」)
ドカロボ
「V-Sido OS」を搭載したもうひとつのロボットは「DOKA ROBO 3」(ドカロボ3)。
建機レンタル等を手がける株式会社カナモトが展示していたもので、建設機械を操縦できる双腕双脚の人型ロボットだ。少しややこしい話しだが、ドカロボは建設機械に乗り込み、そのドカロボの操作は建設機械のコクピットを模した操縦席(コックピット型コントローラ)から行う。
例えば、崩落の可能性がある災害現場など、操縦作業員が立ち入るのには危険過ぎる場所に建機を入れて作業が必要な場合、操縦作業員の代わりにドカロボが建機に乗り込み、作業を行うことが想定される。操縦作業員は遠隔から模写した建機のコクピットを操縦すると、ドカロボが同じ動作をして建機を操縦可能になるしくみだ。
「V-Sido OS」自体は、コックピット型コントローラに限らず、プロポやゲームのコントローラ等、さまざまな操作方法でロボットを操縦することができる特長を持つ。そのため、ドカロボのポテンシャルとしてはそれらのコンローラでも操縦することができるが、今回のように大きなコックピット型コントローラで行う利点としては、普段から建機を操縦している人が違和感なく遠隔からドカロボを正確に操作できることだ。
シャープの自動運搬装置「AGV」
シャープは自動運搬装置「AGV」を展示していた。ハウステンボスの「変なホテル」で活躍しているポーターロボットと、物流倉庫などでスタッフの運搬を自動化する「AGV」(Automatic Guided Vehicle)だ。ポーターロボットは宿泊客がロビーで荷物を乗せて、タッチパネルディスプレイや音声で部屋番号を指示すると自動的に客室まで荷物を運びながら案内してくれる。物流倉庫向けのAGVは、オリコンの運搬タイプ、リアカーの引っ張り牽引タイプ、潜伏牽引型カゴ車配送タイプ等が用意されている。ソフトバンクとシャープのAGVは、現状では特にビジネスで深い関係にあるわけではないが、今後は連携したビジネス展開によって、移動可能なロボットの普及が期待できるかもしれない。
詳細は関連記事「【運搬をロボットで自動化】シャープがハウステンボス「変なホテル」で稼働中のポーターロボや倉庫向け自動搬送装置(AGV)を展示」を参照のこと。
自動運転機能付きのスクラバー(床洗浄機)をソフトバンクロボティクスが来夏発売
ソフトバンクロボティクスはこのイベントに先立ち、業務用清掃ロボット事業に参入し、来夏よりブレイン社のスクラバー(床洗浄機)「ICE RS26 powerd by Brain OS」を販売していくことを発表した。ブレイン(Brain Corporation)社はソフトバンク・ビジョン・ファンドとクアルコムが出資している米国企業だ。
展示ブースでは、床洗浄機をティーチングする様子や無人で移動する様子が30分ごとにデモされ、来場者による人だかりができていた。
■ ソフトバンク ロボット ワールドで展示されたブレイン社のスクラバー(床洗浄機)「ICE RS26」
■ブレイン社のプロモーション動画
Pepperだけでなく、さまざまなロボットが展示された「SoftBank Robot World 2017」。このイベントのキャッチコピーは「ロボット革命は、もうはじまっている」。
移動可能なロボットが本格的に普及していくのはこれからと見られているが、ロボットが代替できる業務の範囲は加速していくだろう。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。