完全自律移動運転を目指すハンガリー「AImotive」が日本進出。菱洋エレクトロと協業 AI処理を低消費電力で

ハンガリーの自律移動運転技術会社AImotive(https://aimotive.com)社は、2017年12月11日、同社の自律移動車両用のソフトウェア「aiDrive」を使用したハードウェアアクセラレーター「aiWare」を実証するためのFPGAプロトタイプ・プラットフォームを発表した。菱洋エレクトロと協業して日本に進出する(リリース:http://www.ryoyo.co.jp/product_topics.html?blockId=282229&newsMode=article)。GPUを使う従来のソリューションと比較すると同様の処理能力を1割〜2割程度の電力で実現できるという。


aiWareのFPGAボード

Altera社のFPGAを使用


ハンガリーの自律移動運転技術会社 AImotive

AImotive社の3つの技術

AImotiveは二年前に自律移動運転技術専門の会社として設立された。レベル3(条件付き自動運転)からレベル5(完全自動運転)までの自動運転技術を目指すソフトウェア会社だ。ディープラーニングを使って自動運転洋ソフトウェアプラットフォーム「aiDrive」、シミュレーションツールの「aiSim」、そしてハードウェアアクセラレターの「aiWare」という技術を持っている。

AImotive社の技術紹介

12月11日に東京都内で行われた記者会見には、AImotive社 Head of Japan Office のアクセル・ビアルケ氏と、AImotive社 Head of Chip Tchnologyのマートン・フィーハー氏と、の二人が登壇した。


AImotive社 Head of Japan Office アクセル・ビアルケ氏

両氏はまず「組込み業界でのディープラーニング活用では消費電力、レイテンシの問題があり、それらを解決しないと難しい」と課題を整理した。


自動運転における認識処理の課題

自動運転ではレイテンシの問題は特に重要になる。また、画像処理をできるだけ早くこなさなければならないので並列化が重要になる。いまボトルネックになっているのは畳み込み層(Convolution opreration)の処理だとし、解像度が上がってくると、現時点の多くの技術はスケールできないと述べた。


AImotive社 Head of Chip Tchnology マートン・フィーハー氏

特に今後カメラの解像度が上がってくるとスケーラブルなソリューションは重要になる。現時点では大容量、低消費電力、効率化の問題があり、それらの解決はGPUでは難しいとコメントした。

「aiWare」はそれらを解決できるアクセラレーターだという。GPUを使うと実際にはなかなかパフォーマンスが上がらない課題に対して、同社は「aiDrive」という上位ソフトウェアの開発経験があるので、下位のハードウェアをうまく設計でき、ソリューションを提供できると自信を見せた。


ニューラルネットワークアクセラレーター「aiWare」


「GPUの3倍から5倍の性能を出せる」と自信

「aiWare」は半導体ベンダーにライセンスする。SDKも提供する。aiWareとGPUによる処理を比較すると、平均的に三倍から五倍くらいのパフォーマンスが出せるという。「aiWareはスケーラブルでモジュラー。コアのLAM(レイヤーアクセスモジュール)の大きさもスケーラブルだ」と解説し、いま半導体ベンダーに高まっている「AIニーズ」に答えることができる専用アクセラレーターだと語った。


「aiWare」の特徴

なお「aiWare」はローカルで処理を実行するためのアクセラレーター。ディープラーニングの学習フェーズでは従来どおりNVIDIA社のクラウドを使っている。

記者会見では、GPUを使っている例と、FPGA上に実装したaiWareを使っている例を並べてデモしたり、同社がいま日本でデータ収集のために走らせている車が紹介された。


カメラを使った画像処理の様子
Head of Japan Officeのアクセル・ビアルケ氏による解説。左がFPGA上で動作するaiWare、右がGPUを使った画像処理の例

同社の技術の特徴は、カメラ画像やミリ波データ、LIDARによる点群などをそれぞれ別個に処理してから組み合わせるのではなく、生データのまま合わせて処理することでロバストな認識ができるようになることだという。いわゆるマルチモーダルな学習だ。

AImotive社の自律移動運転車のデモ動画

今回はFPGAとして提供しているが、今後はSoC(System-on-a-chip)化する。テストチップの出荷予定は2018年のQ1を予定している。具体的にどの半導体ベンダーから、どのようなかたちで展開するかについては「ほぼ全社と付き合っている」と答えるにとどまった。基本的にはライセンス提供を行うかたちになる。


AI処理ハードウェアの比較。


自動車だけでなく他市場への応用可能性も

菱洋エレクトロ株式会社代表取締役社長 大内孝好氏

半導体商社の菱洋エレクトロ株式会社代表取締役社長の大内孝好氏は、菱洋エレクトロについて、「現在はデバイスとICTソリューションビジネスを展開している。デバイスからクラウドまで一気通貫で繋がるビジネスを展開している」と紹介。東急テクノシステム株式会社と連携して実施した踏切等における安全性の向上のためにリアルタイム動画解析クラウドソリューション(http://www.ryoyo.co.jp/product/solution/system/p83.html)を活用した例などについて触れ「『つながる』の延長線上でコネクテッドカーにも新たに注力していこうとしている」と述べた。


自動車業界にソリューションを提供する

AImotiveとの出会いは2014年。AImotive社は当時はまだ「ADAS Works」という社名で、GPUを使った画像処理ソリューションを提供していた。今回はデモカーのための部品の提供や技術的バックアップなどを支援しており、今後は自動車メーカー、部品サプライヤーにソリューションをプロモーションし、最終的にはチップ化してソリューションを提供していくと述べた。センサー類などとも組み合わせたパッケージ販売も含めて、連携を強めていく。


AImotive社のデータ収集車。自律移動運転を目指す。既に日本国内を走りまわって学習用のデータを収集しているとのこと

最後にHead of Japan Officeのアクセル・ビアルケ氏は「現時点では競争ソリューションがない」とaiWareの性能に対して自信を示した。これまではディープラーニングの処理といえばGPUだったが、「これからは他にも様々なソリューションが出てくるだろう」と述べた。

なおaiDriveは自律移動車両用のミドルウェアなので今回は自動車用に展開するが、aiWare自体は自動車向けだけにとどまらない。「音声認識やパターン認識など他の市場でも利用できる」と述べて、他の領域への適用の可能性についてもふくみをもたせた。



顧客に応じたソリューション製品を提供していく

Head of Japan Office のアクセル・ビアルケ氏

アクセル・ビアルケ氏は、レベル5の完全自動運転技術については「これまで考えなかった細かい諸問題が出てくるだろう」と述べ、道のりはまだ遠いという見方を示した。ただしそこへ行く途中でカメラ専用処理モジュールなど様々なソリューションが出てくるので、顧客に応じたソリューション提供を考えていくと語った。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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