既に速報ではお伝えしたとおり、東京で開催されたNVIDIA主催の展示会「GTC Japan 2017」において、建設・鉱山機器メーカー大手のコマツ(株式会社小松製作所)が、建設現場の安全性の向上と生産性を高めるため、NVIDIAと協業してAIを導入していくことを発表した。この背景には、建設現場の人材不足と高齢化がある。ICTを導入することで厳しい現場環境を安全でスマートのものに改革していく、というコマツの決意の表れと言ってもいいかもしれない。
AI導入の目的のひとつは建設現場において、視野を拡大したり、危険を可視化、危険度を分析するためだ。プラットフォームは「NVIDIA JETSON」を採用していく。JETSONはロボットや監視カメラなど、エッジ側に搭載される超小型のAIコンピュータボード。クレジットカードサイズだ。
コマツがNVIDIAとの協業で達成したいゴールのひとつは、建機の操縦者がカメラ等で360度の十分な視界を確保したり(コンピュータビジョン)、その中で安全上、注意すべきものを検知した場合にAIコンピュータが判断して知らせる、というものだ。
しかし、現状で実現するにはまだ技術が確立されているわけではない。
その一方で自動運転ではビジョンの技術は進化を続けているので、建機への応用も時間の問題だと見られてはいる。
では、現状では、GPUを使ってまずは何をしていくのか。
現場全般をビジョンシステムで管理する
ひとつは工事現場の監視だ。GTC Japan 2017のコマツの展示ブースでは、固定カメラから現場を写し、そのフレームの中でダンプトラックやパワーショベルがどのような動きをしていて、なんの作業に当たっているかということを把握するシステムが参考展示されていた。
画像認識を活用して、ほぼリアルタイムでこれを実現するにはNVIDIAのGPU関連技術、ディープラーニング、オプティムのソフトウェア処理技術等が必要で、今回の提携発表に達したとしている。
しかし、コマツと言えばIoTを実践活用してきたリーダーだ。ICT建機を活用してスマートコンストラクションを展開していることで知られている。建機に搭載したGPS(GNSS)や各種センターを活用すれば、それぞれのICT建機がどこにあって、どんな作業をしているか、細かくはパワーショベルであれば「どれくらい掘ったのか」までわかるしくみになっている。それなのに、なぜあえてビジョンで行うのか。
建機自体の状況把握にはセンサーの活用は有効的だ。ただ、ビジョンによる目視や監視にも利点がある。周りに人がいたり、予期せぬ障害物があるときにいち早く状況の把握やアラートを行うことができるし、現場全体の状況の把握にはビジョンが良い。なにより実際の現場にはコマツ製の建機だけがあるわけではない。ダンプトラックや作業車、他社製の建機もある。人が掘って作業している環境も考えられる。これらを雑多の状況や俯瞰での把握にはビジョンが有効になる。ICT建機があり、ビジョンがあってこそ、更に安全性と効率性が追求できるということになる。
■ OPTiM Edge Computing in Gemba (動画)
ドローン測量を効率化するエッジコンピュータ
協業の具体的なケースとして報道された内容のもうひとつのトピックはドローンへの活用だ。現場の作業の進捗をはかるのにドローンによる空中撮影が既に活用されはじめ、ドローン測量自体は珍しいものではなくなっている。
ドローンを現場の上空に浮上させて写真を撮影するシステムだ。ドローンは撮影するところまでが仕事で、撮影した画像はクラウドに送信し、クラウド側で3次元の点群データに変換する。そのデータを解析して進捗情報をはじき出すが、そこまでの処理に概ね数時間。結局、撮影から答えを得るまでに2〜3日かかることもあった。考えてみればドローンが撮った高精細な画像をクラウドに送るだけでもそうとうな時間が必要だと気づく。
この測量はできるだけ頻繁に行った方が工事の進捗の遅れは早期に発見できる。例えば、進捗確認は本来なら毎日行うことが望ましい。
そこでドローンとエッジコンピュータを連携したシステムを導入する。その流れがこうだ。
毎日の現場作業終了時などに現場監督なり、工事作業員がドローンを上空に浮かせて、自動的に撮影。撮影した画像を保存したメモリカードをドローンから取り出して、エッジコンピュータに挿す。エッジコンピュータは画像から3次元の点群データへの変換を行う。点群データの処理は、本来なら演算時間がかかる作業だが、JETSON搭載のエッジコンピュータはすばやく処理することができる。点群データになれば、データ容量は大きくないので、それをクラウドにすばやく送って、クラウド側で進捗度の判別を行う。
エッジコンピュータにはGNSS(GPS等)が搭載され、位置情報を把握できるとともに、JETSONのGPUが写真画像を3次元点群データに高速に変換する(15分〜数十分)。
これを導入することで、毎日でも現場の担当者が「日々ドローン」で測量することができるようになり、工事の遅れの状況をすばやく発見することができるようになる、と見込んでいる。
JETSONは前述のように、ロボットや監視カメラ、モバイル機器、農耕機などにも搭載され、エッジコンピューティングに活用されている。
今後もディープラーニング等の応用技術が、様々な業界で活用されていくことに期待していきたい。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。