WRS「製品組立チャレンジ」が目指す「多品種カスタマイズ生産」時代のロボットと技術

2017国際ロボット展(11/29〜12/2)の「WRS(World Robot Summit)」ブースに立ち寄ると、「WRS2018」の競技カテゴリーのひとつ「製品組立チャレンジ」を紹介するため、金沢大学・信州大学による2種類のロボットアームを使って、シャフトとギアを組み立てる作業のデモンストレーションが行われ、神戸大学大学院の横小路教授によって技術的なポイントを踏まえた解説が行われていた。

国際ロボット展のWRSブース

右側のハンドはパワー特化型、左側は多用型、2種類のハンドのアームロボットだけで、ギアを組み立てる作業をデモンストレーション。これからのロボットには汎用性が求められている

1台のロボットが部品を拾い上げて、もう1台に渡して台座やシャフトにはめ込む・・
通常、産業用ロボットアームは仕事ごとに最適なハンドに交換して作業を行うのが通常だが、デモではシャフトを広い、台座にはめこみ、スリーブやギアを拾ってシャフトに入れる作業を2種類のロボットアームだけで行われていた。部品の位置はビジョン技術を使って認識し、拾い上げる。



「多品種カスタマイズ生産」時代のロボットに求められるもの

大量生産時代を支えてきた産業用ロボットは、正確性や精密性に富んだ設計が重視されてきた。実際に精密性の高い作業を繰り返し行うことに長けている。一方「インダストリー4.0」を代表とした「多品種大量生産」(マスカスタマイゼーション)や「多品種少量カスタマイズ生産」時代の自動化を実現していこうとする今、精密な繰り返し作業だけでなく、「融通が利く」ロボットが求められている。つまり、不確実性を考慮しないと正常に動作しなかったり、エラーに繋がるロボットは卒業し、ロバスト性も重視した設計で、曖昧さや誤差に対応する柔軟なものを目指そう、という方向に向かっている。

金沢大学・信州大学によるデモンストレーションでは、ギアの歯の形状を合わせてはめ込む動作がロボットにとっては難関な課題のひとつ。一度ではめ込もうとせずに、一度ギアを持ち上げて距離をとって確認した上で、微かに回転させながらはまる位置を探って押し込む動作が行われていた。
ギアを組み込む作業は歯をきちんと合わせる必要があり、ビジョンで状況を確認するとともに、手首にかかった力を検知してギア位置の誤差を吸収しながら力を抑制、いわばロバストな視覚システムと誤差を吸収する柔軟な手首の組み合わせによって実現していた。

デモンストレーションで使われている技術や、WRS2018の競技概要を説明する 神戸大学大学院 工学研究科 教授 横小路泰義氏

デモンストレーションしたシステムも、WRS2018に向けて今後は視覚システムの高度化と、触覚のセンシングや力覚センサーのフィードバックによって更に高度な技術を目指すと言う。




2018年1月から参加チームの募集を開始予定

World Robot Summit(ワールドロボットサミット)は経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開催する、国際的なロボットの競技会と展示会だ。本大会の「World Robot Summit 2020」は2020年10月に名古屋で開催されるが、そのプレ大会として「WRS2018」が来年、10月17日(水)〜21日(日)にかけて、東京ビッグサイトで開催される(Japan Robot Week2018と同時開催)。

4つのカテゴリー(ものづくり、サービス、インフラ・災害対応、ジュニア)が用意され、「製品組立チャレンジ」は「ものづくり」の中のひとつで、変種変量生産にも迅速かつ柔軟に対応できる生産システムで、「迅速な一品ものづくり」を目指した競技となる。公式ページで「WRSものづくりカテゴリーでは、与えられた製品情報からすぐさま動作手順を自動生成し、柔軟部品を含む様々な部品の認識、把持、組立ができるロボットシステム、究極的には「迅速な一品ものづくり (agile one-off manufacturing)」、すなわち教示レス、冶具レスで段取り替えを素早く行って、 一度限りの製品であっても効率的に組立が可能なロボットシステムを目指す」としている。

参加チームは募集を2018年1月に開始し、2018年4月にはチームが決定する予定。
比較的高額な賞金が用意される(予定)とのことで、注目が集まりそうだ。
参加各チームはロボットを持参するか、WRS運営側からレンタル(予定)して参加する。自チームでロボットを持参する場合は、ハードウェア的なチューンアップも可能だ。
開催概要や競技種目、ルールについては公式ホームページ(下記)を参照のこと。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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