【自動運転車のある未来】GMがハンドルのない自動運転車を2019年実用化へ!NVIDIAとサーファー憧れの次世代「ワーゲンバス」の関係

米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が「ハンドルやブレーキペダルのない自動運転車(レベル4)をEV(電気自動車)で、2019年に実用化する方針を明らかにした」ことが伝えられた。

GMが公開した自動運転車のインテリア。ハンドルがない (GMの公式ホームページより)

正直「早いな」という感想を持った。ハンドルやブレーキペダルがなければ、ドライバーによる通常の操縦ができないのだから、走行条件として複雑な市街地だけドライバーの運転に切り換える、というわけにもいかない。高速道路を含めて一般道全般をドライバー付き自動車と混ざって自動運転車が走る「順番」としては、ハンドルやブレーキペダルはあるものの高速道路やローカルな道路のみ自動運転にする(レベル3)という段階を経てから、が自然な流れだろうと誰もが予想していたからだ。

GMが一足飛びにゴールを目指す、ということなら、法律や責任、保険などの周辺課題の整備が急務となるが、米国では既に州ごとに整備の準備が進められている。

同社は米交通当局に2500台の車両の運行許可も申請したらしい。
ホームページには「2018 SELF-DRIVING SAFETY REPORT」とともに、そのコンセプトが掲載されている。

GMは Zero Crashes,(事故ゼロ)、Zero Emissions(排気ガスゼロ)、Zero Congestion(混雑ゼロ)をミッションに掲げ、これを実現するのが自動運転と電気自動車というわけだ。



■要約
事故ゼロ
毎年125万人近くの人々が世界中の自動車事故で死亡し、米国だけで4万人が死亡しています。 そして200万人以上が負傷しています。これらの事故の94%はヒューマンエラーが原因です。
排気ガスゼロ
毎年約20億トンの二酸化炭素が大気中に放出されています。私たちの子供たちの世代も地球をきれいな状態にしていたいと考えています。
混雑ゼロ
米国では、通勤者は1年間に1週間分、交通渋滞の中にいます。それは私たちが愛している人たちと過ごしたり、やりたいことを楽しむはずの大切な時間を奪っています。

2018 SELF-DRIVING SAFETY REPORT」には、自動運転車を実現するための技術解説などもまとめられている(英語PDF)。興味があればぜひ読んで頂きたい。


自動運転車が走る未来、ロボットタクシーのように無人運転車のビークルに乗って多くの人々は移動するようになる。自動車を「所有する」という動機は小さくなり、GMのような自動車メーカーは多くの売上げを失うだろう。それでも、未来へ向かって動き始めた時代の趨勢は後戻りすることはできない。

記事「トヨタがEVによる未来のeコマース「e-Palette Concept」を発表!Amazon、マツダ、ピザハット、Uberなどが参画」でも既報のとおり、トヨタは「e-Palette」でショップ、物流、シェアリングカー、無人バス、ロボットタクシーなど様々な用途を持った自動運転車が走るビジョンを展開しているが、これが実現する未来もまた、自動車の所有とは距離を置いたものになりそうだ。


NVIDIAはフォルクスワーゲン、ZFとBaiduらと連携

自動運転車の開発競争が熾烈なことは既にご存じの通りだが、必ずしも自動車メーカーが主導であるとは限らないのが面白い点だ。ハンドルやブレーキペダルが自動運転車の開発や実験は、米Google(アルファベット)のウェイモが先行した。そしてこの数年は、ディープラーニング技術で脚光を浴びている「NVIDIA」も台頭している。

毎年ラスベガスで開催される国際的なイベント「CES」は、家電見本市と訳されていたが、最近は自動車やIT関連の発表が多く、もはや家電市という表記はしっくりこない。特に自動車産業にとっては、自動運転やコネクテッドカーの新技術の発表の場として重視しているようで、AIに関連した発表も多い。
CES2018で、NVIDIAはZFとBaiduと組んだプロジェクトを発表し、世界の乗用車市場の 約30% を占めている中国向けに設計された量産型の AI 自動運転車プラットフォームの開発が進んでいることを明らかにした。具体的にはNVIDIA(米国)「DRIVE Xavier」、 ZF(ドイツ)の新型「ProAI 車載コンピューター」、Baidu(中国)の「Apollo Pilot」の量産型で構成されていると言う。

NVIDIAがZFやBaiduと開発中の自動運転車。同社はGPUやグラフィックボードの雄だが、同時にディープラーニングを中心にしたAI業界のトップランナーでもある

更にNVIDIAは、フォルクスワーゲンとの連携も発表し、NVIDIAの「DRIVE IX」プラットフォームを利用して、 AI とディープラーニングにより新世代のインテリジェントな自動車の開発を進めるビジョンを打ち出した。
NVIDIAの創業者兼 CEO であるジェンスン・フアン氏は「数年もすれば、 すべての新車には、 拡張現実 (AR) に加えて、 音声、 ジェスチャー、 顔認識のために AI アシスタントの搭載が求められるようになります。 そして、 Volkswagen と NVIDIA DRIVE IX テクノロジの連携によって、 これが実現します。 Volkswagen は NVIDIA と共に、 これまでのいかなる自動車よりも安全で、 運転が楽しく、 誰もが利用できる新世代の自動車を構築します」とコメントしている。

フォルクスワーゲンのアイコニックな名車「VW MicroBus」(通称ワーゲンバス)はサーファーに人気だった。それが甦ったかのようなEVのコンセプトモデル「I.D. Buzz」。 電気自動車として生まれ変わり、運転席には自動運転用のAIテクノロジが組み込まれた

「VW I.D.Buzz」には、NVIDIA DRIVE IX テクノロジーが利用される。 これには自動車の内部と外部の両方から得られるセンサーからのデータを支援するシステムだ。このシステムは、 ソフトウェアの更新によって自動車の全ライフサイクルを通じて拡張できるようになる見込みだ。自動運転に関する新たな発展が生じるのに応じて新しい機能が追加されていくと言う。NVIDIAは「ディープラーニングにより、 未来の自動車は状況を正確に評価し、 道路上の他者の行動を分析することを学び、 適切な決定を下すことができるようになります」とコメントしている。



NVIDIAは安全運転支援にも乗り出す

NVIDIAはビジョン・カメラやセンサー、LIDAR等を使った自動運転技術のプラットフォームを開発しているが、それと併行して研究を進めている「DRIVE IX Intelligent Experience」プラットフォームは、 AI 対応アプリケーションを作成するためのソフトウェア開発キットだ。

同社が開催したイベントの基調講演では、顔認識を使って自動車のロックやトランクを自動的に開閉するシステム、ドライバーの「スマホ見ながら運転」を含むわき見運転警告のための視線追跡システム、「居眠り」を検知して警告を発するシステム、周囲の自転車や歩行者等、潜在的な危険についてドライバーに警告する周辺環境認識システムなどが紹介された。同社は自動運転だけではなく、ドライバーの安全運転に関するサポート、支援技術にも積極的に技術供与している姿勢だ。

NVIDIAは自動運転のAIコンピュータボードだけでなく、自動ロックや安全運転支援システムの開発にも着手している

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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