顧客「展望室に行きたいんだけど」
来場者がロボットのSota(ソータ)にそう質問すると、Sotaは軽くうなづいて話し始めました。
Sota「北側展望室と南側展望室があります。どちらも専用のエレ・・」
顧客「銀行はあるの?」
Sotaの説明を遮るように来場者が質問します。
説明中にもかかわらず、Sotaは軽くうなづいて・・
Sota「銀行を案内するよ。銀行は・・」
顧客「あ、やっぱり郵便局!」
Sota「郵便局を案内するよ。郵便局は南側エスカレータで・・」
これは音声対話では高度な技術「バージイン」を使ったもので、ロボットが話している最中でも、人が発話した音声をロボットが聞き取って、新しい質問に対しての答えに切り換える技術です。人との会話では当たり前にしていることでも、従来のロボットによる対話では実現が難しかったのですが、今回の実証実験ではこの機能を実装しました。
下記の動画は、「お土産が買いたい」「トイレはどこ?」「本屋さんどこ?」と、矢継ぎ早にSotaに聞いた様子です。
■最新の会話機能デモ(バージイン)
都庁舎サービスロボット実証実験
顧客「展望室に行きたいんだけど」
Sota「北側展望室と南側展望室があります。どちらも専用のエレ・・」
顧客「Where is the men’s room?」(男性用トイレはどこ?)
Sota「The restroom is on each floor..」(トイレは各フロアにあります・・)
日本語と英語を判別して即時に切り換え
この実証実験ではバージインに加えて、使用する言語を自動的に判断して即時に切り換える機能も実装されました。動画では日本語での対話の最中に、英語での割り込みが入っても、すぐに英語に切り換えて回答を行っている様子が確認できます。銀行はどこ(日本語)→I want to buy a souvenir(英語)→郵便局はどこ?(日本語)等と切り替わっています。
■最新の会話機能デモ(言語の自動切り替え)
都庁舎サービスロボット実証実験
スマートスピーカーのようにウェイクワード(Amazonの「アレクサ」、Googleの「OK、Google」等)も必要ありません。Sotaがカメラで人を認識し、自分の方に顔を向けて話しかけているかどうかを判断しているためです。
これらの最新技術は細かいことのように感じるかもしれませんが、たくさんの往来がある中でロボットが人と高精度に会話するためにはとても重要です。
東京都庁の実証実験で新技術を導入
これは2月初旬、東京都庁の実証実験「都庁舎サービスロボット実証実験」で、NTT東日本が設置した特別なデスクトップ型ロボット「Sota」の様子です。都庁では2台のSotaが施設案内を行っていました。(Sotaによる実証実験は終了済)
1台のSota(左の水色Sota)は従来からある技術を活用したもので、来場者がタブレット画面のボタンをタッチしてSotaに指示をするタイプのものです(日本語/英語/中国語対応)。NTT東日本の「ロボコネクト」の技術をベースにしたものです。
もう1台のSota(右の青色Sota)には、対話割り込み(バージイン)や多言語切り換え、ディープラーニングで学習した世界トップレベルの音声認識など、最新技術が試験的に導入された、特別なSotaが来場者と完全に音声だけで会話をするものです(日本語/英語対応)。これら最新技術も今後は「ロボコネクト」に実装されていく予定です。
最新の音声会話技術とはどのようなものか、ロボコネクトとはどのようなサービスなのか。
また、ロボコネクトはAPIやOEM提供の開始したといいます。
「ロボコネクト」を担当するNTT東日本のビジネス開発本部の菅氏、平野氏、宮内氏に、導入事例を交えて詳しい話を聞きました。
実証実験では世界トップレベルのAI音声認識技術を披露
編集部
東京都庁の実証実験では、まず対話の割り込み機能(バージイン)に驚きました。
菅(敬称略)
今まで、一般の人にとってロボットに話しかけることは意外とコツが必要で難しかったと思います。その原因のひとつは、「目の周りLEDが青く光ったら話しかけてください」など、ロボットが聞き取れるモードになったタイミングで人が話しかけないと会話できない、という機能上の制約があったためです。
子供からお年寄りまで誰でも、もっと気軽にロボットと会話してもらうためには「いつ話しかけてもいい」「ロボットが話している最中でも話しかけていい」という環境を作りたいと思っていて、今回の実証実験ではそれを実現することができました。
編集部
「人がロボットと話すタイミングを気にしなくていい」というのはとても話しやすくてビックリしました。聞き取るタイミングをロボットはどのようにはかっているのでしょうか。
平野(敬称略)
人が顔を向けて話しかけようとしていることを検知したら、ロボットはいつでも聞き取る準備をします。また、言語も自動的に判別して、話しかけられた言語で回答する技術も実現できました。現在の「ロボコネクト」にはまだ実装していませんが、今後のアップデートで自動的に利用できるようになる計画です。
編集部
聞き取りの精度も高いように感じました。
平野
「ロボコネクト」のSotaには、NTT研究所で開発した「インテリジェントマイク」技術が搭載されています。通常のマイクでは360度周囲からの音を拾ってしまうため、雑音や反響音などの影響で人の話し声を聞き取りにくくなってしまいます。しかし「インテリジェントマイク」技術では、Sotaの頭頂部に3つの「マイクアレイ」を内蔵し、話者に向けた指向性マイクと「エコーキャンセラ機能」を搭載することで、雑音を抑え、安定性の高い聞き取りを実現しています。ひとことで言うと、Sotaの目の前で話している人の声だけを雑音を抑えて高精度に聞き取ることができます。
編集部
あのSotaは「ロボコネクト」仕様だったんですね。音声認識のソフトウェアも高精度のものですか?
平野
ロボコネクトでは、音声認識技術も世界トップレベルのものを導入しています。特に、今回の都庁の実証実験では、NTT研究所が開発した世界一と言える音声認識技術を使いました。この技術は、2015年に開催された音声認識の技術評価国際イベント「CHiME-3」(※)において、参加した25の機関中でトップの精度を達成したもので、最新のディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN技術)を使っています。
菅
実証実験で使用したバージョンの音声認識技術も将来、ロボコネクトで標準利用できるようにしていく予定です。常に技術は進化していきますが、ロボコネクトではアップデートによって、できるだけ最新の技術を提供しています。また、ロボコネクトがAPIに対応したことで、開発者様やエンドユーザー様はシステムを改変することなく、アップデート後はこれら進化した最新技術が利用できるようになります。
NTTグループはAI(人工知能)技術を活用して革新を生み出す取り組み「corevo」(コレボ)を展開しています。「corevo」は4種のAIで構成されていて、その中の「Agent-AI」に「ロボコネクト」やコミュニケーションエンジンの「COTOHA」(NTTコミュニケーションズ)、「しゃべってコンシェル」(NTTドコモ)の言語解析技術にもとづいた「自然な対話エンジン」などがあります。
「Agent-AI」は、人の話し言葉や書き言葉を高い精度で分析・理解し、問い合わせへの回答や問題解決、オーダーや請求書発行等の業務処理などの「コミュニケーションエンジン」にAI技術が活用され、日々の生活を豊かにすることがテーマとして掲げられています。
ロボコネクトの特徴と機能
編集部
「ロボコネクト」について教えてもらえますか?
平野
「ロボコネクト」はNTT東日本が提供しているクラウド型ロボットプラットフォームサービスです。今後は、いろいろなロボットに対応していく予定ですが、まずは第一弾として「Sota」に対応しています。Sotaなら、Sota同士で最大5台まで、複数での掛け合いもできます。
菅
もともとは高齢者や介護向けサービスの開発に注力してきたことがきっかけです。お年寄りがパソコンやスマートフォンより簡単に利用できるようなものはないかと考えた結果、「声」で操作できるものとして会話型ロボットのサービス提供を行うことになりました。こうした背景があって、昨年よりロボコネクトと介護施設向けのサービスをセットにした「ロボコネクト+Sotaレク」の提供をはじめました。料金設定も手軽なものに設定しています。また、初回の設置や工事などの作業はオプションで対応していますので、介護施設に導入後すぐに使い始めることができるサービスになっています。
宮内(敬称略)
介護施設では、Sotaが大型のテレビと連動して、レクの時間に体操をしたり、昔の風景写真を使ってクイズをしたり、みんなで童謡を歌ったり、140以上のコンテンツの中から選択することができます。介護スタッフの方の業務負担を軽減し、高齢者の方は「お孫さんと接しているようで和む」「いろいろんな知識がもらえて楽しい」という意見を頂いています。
菅
介護施設以外でも、金融や観光、流通、小売業、教育関連など多数の方々から「ロボコネクトを手軽に活用したい」という声を多く頂きました。また、開発事業者様からも自社で開発したいというご要望も頂きましたので、それにお応えしようということで自社ブランドでご提供頂くサービスや、機能を「API」で利用頂ける環境の整備を行いました。
■ NTT東日本「ロボコネクト」紹介動画
編集部
なるほど。「ロボコネクト」ではどのような機能が利用できるのでしょうか
菅
音声認識や音声合成の対話機能、カメラ撮影機能、遠隔対話による見守りへの活用、プレゼンテーション機能などが提供されています。プレゼンテーション機能は、多言語での発話もできるようになりました。
家族の一員として導入していただいたり、ビジネスのお手伝い役として導入していただいたり、利用用途も増えております。
編集部
プレゼンテーションは簡単な操作でできるのでしょうか
菅
プレゼンテーション機能専用アプリケーション「プレゼン職人」を用意しています。PowerPointでノート欄に入力した内容をSotaにしゃべらせることができますので、パソコンが使えるエンドユーザー様であれば、Sotaが話す内容は簡単に入力したり変更することができます。
また、ロボットならではの機能として、予め用意されているモーションコマンドで「右手を上げる」「とても嬉しい」など、Sotaにジェスチャーやアクションを連動させるプリセットが用意されています。発話内容に併せてSotaに自動でジェスチャーさせることもできます。
編集部
ユースケースや導入事例をご紹介頂けますか
宮内
ロボコネクトの基本機能が存分に発揮されているユースケースとしては、サンザ様が運営しているIoTを活用した進化形カプセルホテル「安心お宿」での利用がはじまりました。
カプセルホテルでのロボコネクト導入事例
早速、「ロボコネクト」を導入するカプセルホテル「安心お宿」の秋葉原電気街店で株式会社サンザの方にお話しを聞きました。
編集部
ロボット「Sota」はホテルでどのような業務を担当するのでしょうか。
サンザ
フロントでチェックインの受付終了後、ロボットのSotaがお客様に施設の利用案内(宿泊時の注意事項、館内の設備案内等)を行う、という流れです。
ロボコネクトの「プレゼンテーション機能」を活用して、施設の利用案内をSotaが音声で読み上げて説明します。タッチパネル式のパソコンと連携させ、利用者は日本語か英語を選択できますので、英語を話す外国人観光客の方にも対応できます。
編集部
導入することになった経緯を教えて頂けますか?
サンザ
安心お宿は「進化系カプセルホテル」として、お客様により満足していただくために、常に新しい技術を取り入れていこう、という風土があります。今までは館内や設備、ルールやマナーなどの案内をスタッフが行っていましたが、ロボットでもできることは積極的に取り入れ、ロボットに代替してもらった時間は、人でないとできない作業や「おもてなし」などに力をいれたいと思っています。株式会社サンザのモットーである「お客様目線」による店舗運営を更に充実したものにするためにも、「人がやるべきこと」と「ロボットができること」の分業をすすめていきたいと考えています。
編集部
ロボコネクトを選んだ決め手になったのはどのような点ですか?
サンザ
ひとつは「導入のしやすさ」です。導入検討時に複数のロボットを検討しましたが、開発費用だけで数百万円かかる、などと言われることもありました。その点、ロボコネクトはSotaの購入費用(145,000円/税抜)と、毎月の利用料も3,000円程度(※編集部注:基本機能で業務活用できる場合)。リーズナブルに導入できる点が魅力だと思います。
ふたつめはロボットの「見た目がかわいい」ことです。おもてなしを大切にしていることから、見た目にもこだわりましたが、Sotaは卓上型で、愛くるしい点がとても魅力的だと感じました。
編集部
今後の展開をお聞かせください。
サンザ
まずはここ「カプセルホテル安心お宿 秋葉原電気街店」に導入をして、効果を検証しながら、他店舗への導入も検討していきます。また、ニュートンサンザグループでは、カプセルホテル以外にもカラオケ、ブライダル、レストランなど複数の事業展開をしているので、ホテル以外の場所でも活用できるのではないかと考えています。
また、当初はプレゼンテーション機能を活用し、Sotaからお客様に施設の利用案内を行っていますが、ゆくゆくは、近隣施設をご案内したり、観光地への乗換え案内など、お客様からのご質問に答えられるコンシェルジュ役としての活用も検討したいと思っています。
ロボコネクトのAPIとOEM提供を開始
ロボコネクトのインタビューに戻りましょう。気になるAPIとOEM提供について聞いてみます。
編集部
「ロボコネクト」は2017年12月からAPIによる機能提供がはじまったということですが、開発面ではどのようなメリットがあるのでしょうか。
平野
ロボットの制御がAPIでできるようになりましたので、ロボット専門の技術者でなくても、ウェブ技術者や一般のプログラマの方が、ロボットを使ったシステムの開発が短期間でできるようになります。
編集部
ということは自社で開発したシステムやこれから開発するシステムに、システム開発会社が簡単にロボットを組み合わせることができるようになるということですね
菅
はい。例えば、受付であれば、既にタブレットやパソコン等を使って自動受付システムを導入している企業も多いと思います。そこにロボットを追加すれば、受付に来たお客様に挨拶をして「今日は雨の中、ご来社ありがとうございます」と話しかけて和ませたり、「タブレットからご要件を選んでください」と受付をスムーズに進める「おもてなし」支援ができます。
また、バーコードなどを使って入場管理するシステムが既にあって、バーコードの読み取りをスタッフが案内しているようなシーンでは、ロボットが代わりにバーコードの読み取りをご案内したり、「受付を完了しました。右手にお進みください」などのご案内をすることで効率化が図れるかもしれません。
編集部
なるほど。既存のシステムとロボコネクトを連携してロボットによる効率化をはかるわけですね
平野
もちろん、今までなかったサービスをロボットを使って新たに提供していくこともできます。例えば、銀行や医院などの待合室等にSotaを設置するケースでは、システム開発会社様が開発した地域情報を記録したデータベースと連携し、順番待ちのお客様に地域情報を読み上げるといった機能をロボコネクトで実現することも可能です。これはシステム開発会社の生活革命様が2017年に開発、展示会のブースでご紹介頂いた例です。
菅
APIで機能を提供できるようになったので、このようにシステム開発会社様がお持ちの技術に追加することがとても簡単になると感じています。受付に限らず、金融や流通など、それぞれの分野で専門に開発されているシステムの端末に、ロボットを活用したいというニーズがあれば手軽に導入できる環境になっています。
また、OEM提供もできますので、開発会社様が専門業種向けアプリやシステムと併せて、ロボコネクトも含めたパッケージを自社ブランドとして開発・販売することも可能です。
編集部
先ほどのホテルの事例では外国人観光客の増加が上げられていましたが、それに伴ってロボットに通訳や翻訳をして欲しいと言うニーズも高まっていると思いますが、ロボコネクトでは実現できますか
平野
技術的には実現可能です。一般のクラウドプラットフォームサービスの翻訳APIと連携して、日本語で話すとSotaが英語に翻訳して観光客に伝えたり、その逆も可能です。
編集部
なるほど。ということは、Google Cloud PlatformやAWS(Amazon)、Microsoft AzureなどのAPIとロボコネクトのAPIを連携すれば、ロボットを介してクラウドサービスが提供している機能と連携させることも考えられますね。
NTT東日本では「ロボコネクト」のアプリケーション開発やOEMのパートナーを募集しています。API提供やOEM提供に興味のある開発会社は下記が窓口となっています。
メールアドレス sota-ntt-east-gm@east.ntt.co.jp
(※ @は半角に書き換えてメールの宛先にご利用ください)
また、「ロボコネクト」の機能の詳細や基本料金等は公式ホームページで確認できます。
ロボコネクトが体験できるイベント情報
都庁で披露されたSotaによる施設案内の実証実験は既に終了していますが、NTTグループのイベント「NTT R&Dフォーラム2018」(2018/2/22~23)でも展示される予定です。招待制イベントのため、NTTグループ会社社員を通じた参加登録が必要ですが、興味がある人は参加すると、最新技術の結晶によるブレイクスルーを体感できると思います。
また、ロボコネクトを実際のビジネスで活用するための勉強会を3月9日(金)に行います。ロボコネクトの現状と将来、具体的なAPI活用方法などについて、直接聞けるイベントとなっています。興味のある方は下記のリンクから詳細ページにアクセスしてください。
日時 : 2018年3月9日(金) 19時30分〜22時00分
場所 : TAM COWORKING TOKYO (御茶ノ水)
詳細ページ/参加申込みページはこちら