旅客機の格納庫、全日本空輸(ANA)の整備場。
向かう先にボーイング777の機体が見えてくる。その大きさに子どもの頃のように胸が高鳴る。こんな大きな機体が空を飛ぶのかと改めて感動する。その巨体の手前に小さなバスが止められている。777に比べると本当に小さな、見落としてしまいそうな車体だ。
しかし、この小さな車体が、今の先端技術を詰め込んだ自動運転バスの試作車で、今日の主役だ。
全日空(ANA)グループとSBドライブ(ソフトバンクグループ)は共同で、空港における自動運転バスの導入に向けた実証実験を行っていることを発表した。この実験には国と東京都が共同で設置した「東京自動走行ワンストップセンター」が協力している。
実証実験を記念し、2月25日に羽田空港新整備場地区内のANA機体メンテナンスセンターで式典と、レベル3の実験車両の報道関係者向け試乗会、レベル4相当の無人運転(報道関係者の搭乗なし)が行われた。
全日空では2020年に羽田空港エリアでの自動運転バスの実用化を目指している。それまで安全を確保しながらSBドライブと共同の実証実験を経て、段階的にレベルアップをはかっていくと言う。
実証実験の主な内容
実証実験の対象車両は「自動運転バス」で、運転者が座って自動運転をサポートする「レベル3」と、定められた範囲内での完全自動運転「レベル4」の機能を既に持っている。今回の実証実験ではレベル3とレベル4″相当”が行われている。
なお、もう少し具体的にここでの「レベル4」を解説すると、交通規制をかけない公道ではあるものの、原則として決められた範囲(決められたコース)を、運転席が無人の状態で自動走行することを示している。
この日は、報道関係者らがバスに搭乗して、運転手付きのレベル3の試乗会が行われた。
前述のように、実証実験車両は「レベル4」の機能を既に持つ。搭乗者つき試乗会では安全のために運転手が乗るレベル3で走行したが、運転席にドライバーが乗らない「レベル4」”相当”の実験も行われた。自動運転バスは遠隔から監視と操縦の支援が行われている。(下記の画像と動画参照)。
■ 運転手のいない自動運転バスが公道を走る様子 (ショートVer.)
■ 無人の運転席の様子 (ショートVer.)
レベル3の実証実験は全長1周約2.3kmのオーバルコースに近い形状の公道を最高時速30kmで走行。レベル4相当の実験は、全長1周1.4kmの半周を大型免許保有者が遠隔監視した状態で自動走行する。
<自動運転レベル3 (※1)>
・ 公道でのレベル3の実証実験(正着制御や障害物回避などを含む)
・ 制御技術やセンシング技術の高度化に向けたAI(人工知能)技術の活用可能性の検証
・ 加減速制御の活用による車内転倒事故の減少、乗り心地改善に係る検証
<自動運転レベル4(※2)相当>
・ 交通規制をかけない公道で、かつ運転席が無人の状態でのレベル4相当の実証実験(※3)
・ 遠隔運行管理システム「Dispatcher」を使用した遠隔操作の検証
※1.SAE Internationalの定義(J3016)による自動運転レベル3=自動運転システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)。作動継続が困難な場合の運転者は、システムの介入要求等に対して、適切に応答することが期待される。(出所:官民ITS構想・ロードマップ2017)
※2.SAE Internationalの定義(J3016)による自動運転レベル4=自動運転システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)。作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されない。(出所:官民ITS構想・ロードマップ2017)
※3.レベル4相当の実証実験は、国土交通省との協議の上、関東運輸局の基準緩和措置を受けた車両を使用し、警察庁の遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取り扱いの基準にのっとって実施します。
自動運転システム検証車両
自動運転システムの検証には、日野自動車のポンチョ型のバスを、SBドライブと提携している先進モビリティが改造した車両が使用される。
GNSS(GPS)で自車位置を把握し、QZSS対応で「みちびき」にも対応している。磁気マーカーは決められたコースを高精度で位置どりしたり、バス停等にぴたりと停車するために重要な技術だが、今回の実証実験では使用していない。ACCはアクティブクルーブコントロールの略称で、ミリ波レーダーを使い、先行車両との距離を測定して、車間距離を維持しながら自動で加減速を行う機能だ。
遠隔運行管理システム「Dispatcher」(ディスパッチャー)
実験実験では、遠隔監視にはSBトライブが開発中の遠隔運行管理システム「Dispatcher」(ディスパッチャー)が使用されている。
SBドライブは現在、バスを重点的に自動運転化することに注力しているが、そこでポイントとなるのが、この遠隔運行管理システムだ。
このシステムが運転手の代わりに目となり、乗客を安全に輸送する要となる。というのも、運転に必要なバスの周辺監視と判断だけでなく、車内の乗客がちゃんと着席したか、転倒していないか、などの安全監視にも重要な役割を持つためだ。
・複数台の車両ごとの運行管理
・車外・社内の映像モニタリング
・遠隔操作機能
・緊急通話機能
■遠隔で走行中の車両の内外を安全監視する「Dispatcher」の稼働動画
自動運転では様々な不測の事態が予想される。将来、実用化されたとき、基本的には自律運転システムがクルマを操縦するが、人間による判断や遠隔操作が必要な局面も多く予想される。車内の安全についても、原則としてはAIが安全監視するものの、AIが対応できないことは人間が判断し、臨機応変に対応していくことが求められる。「Dispatcher」のような遠隔監視システムがあると、対応の幅が大きく拡がることは間違いない。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。