「World Robot Summit」(WRS)は、経済産業省(経産省)とNEDO(※)が主催する国際的なロボットの競技会&展示会だ。
第1回となる本大会は2020年に愛知県(10月)と福島県(8月、インフラ・災害対応カテゴリーの一部競技)で開催される。それに先駆けて今年2018年10月にそのプレ大会「World Robot Summit 2018」が東京ビッグサイトで行われる。
競技の賞金総額は1億円を超える。ロボットの競技会としては破格の金額だ。
WRSのロボット競技会「World Robot Challenge」はいくつかのカテゴリーに分類されているが、応募は既に開始されている(応募締切は3月15日)。
WRSには参加の際に審査はあるが、大学や研究機関だけでなく、企業や地方公共団体、有志で集まったチームなど、誰でも参加申込みができる。
そこで、WRSの大会のコンセプトやねらい、出場するチームのメリットなどを主催する経産省のロボット政策室、栗原氏に聞いた。
経産省がWRSを開催する意義と目的
編集部
WRSの概要から教えてください。
栗原(敬称略)
WRSは、国際的なロボットの競技会、及び展示会です。ロボットの発展と社会進出のために世界中から注目される大会を目指しています。
コンセプトは「Robotics for Happiness」を掲げています。「人とロボットが共生し、協働する社会を実現していく」「人々が活き活きと生活していくためにロボットをどのように役立てられるか」という視点で、技術やアイディアを世界に向けて披露し、競って欲しいと考えています。
編集部
なぜ競技会の形式をとっているのでしょうか
栗原
ひとつは基本的なことで、競争によって切磋琢磨することでロボットの技術開発が飛躍的に加速することを期待しているためです。
もうひとつは新しいアイディアや技術に挑戦できる場を提供したいからです。
既に社会にはいろいろな種類のロボットが登場していて、多くの課題解決に貢献しています。とは言え、これから近い将来、社会でどんなロボットの技術が必要になり、どんな方法で課題を解決していくのかは、まだわかりません。
そこで、競技でタスクとして課題を出させてもらい、それを解決するためのアイディアや視点、新しい技術が、世界中から集まって競う大会が最適だと考えています。
ロボットの社会実装を促進する国際大会に育てたい
編集部
ロボットの国際大会と言えば「ロボカップ」があります。ロボカップとの違いはなんでしょうか?
栗原
ロボカップは日本の研究者らによって提唱され、昨年で22年目、13万人が来場する、素晴らしい国際的なロボット競技大会になりました。教育や研究分野に重きを置き、ロボット技術の発展を目指して競技チームが切磋琢磨しています。
WRSは「社会実装」という大きなテーマがあり、社会課題を解決するための実践的なロボット技術を競うことを前提にしています。社会にいま求められている、または今後求められるだろうアイディアや技術で、タスクを解決することを狙いとしています。
WRSでは、与えられたタスクを解決することが評価の基準になるので、ロボットとしては目を見張るような技術を導入していたとしても、その課題を正確に短時間でクリアしたチームが評価されるしくみになっています。
編集部
社会に役立つロボット技術を競う大会ということですね
栗原
はい、そこが大切なんです。WRSの競技タスクは社会が実際に抱えていて、ロボットで解決して欲しい問題です。例えば、サービスカテゴリーの「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」では、店舗の棚におにぎりやお弁当などをロボットが陳列し、消費期限切れ商品を廃棄する「陳列・廃棄タスク」や、個室トイレの便器や床、壁の清掃を行う「トイレ清掃タスク」などが競われます。このタスクは実際にコンビニ店舗で自動化したいというニーズから生まれたものです。
WRSにはセブンイレブンが協賛している。コンビニ業界のニーズが反映されている競技のため、ここで評価され、実用的だと判断されれば、ビジネスとして実践採用される可能性もある。
経産省の狙いはそこにある。社会の課題をタスクという競技で与え、世界中のアイディアと技術が競い、評価された実用的なものはすぐに社会実装され、社会貢献へと繋げる、そんなサイクルを期待している。
それには、スポンサーや審査員、参加チームなど、いろいろな方面で各産業界にも大会への参加を促し、社会全体が注目していく国際大会に育てていくことが重要だ。
栗原
製造業や流通業界、小売業など、さまざまな産業界の人たちが注目してくれる大会になるよう、経産省も呼びかけを行っています。「ドラえもん」をWRSのサポートキャラクターとして起用したのもそのひとつです。ロボット業界の方はもちろん、産業界や一般の方、サイエンスや社会問題に興味を持つたくさんの子ども達にも、この大会を見るきっかけになって欲しいと考えています。
大学や研究機関、企業、地方公共団体など誰でも参加対象
編集部
WRSの競技にはどのような方々が参加できますか?
栗原
誰でも参加申請して頂くことができます。大学や研究機関、企業、地方公共団体、有志で集まったチームでも、誰でもです。19歳以下のジュニアカテゴリーもありますので、子ども達や学生の方々もぜひ手を挙げてください。
既に昨年から、いくつかのカテゴリーではトライアル大会が開催されている。プレ大会や本大会の進出には影響しないものだが、開催者と参加者の双方が本番に向けて実施の要領を確認していく場となっている。ジュニアカテゴリーには2つのチャレンジがあるが、そのひとつ「スクールロボットチャレンジ」のトライアル大会が2017年8月、玉川大学で開催された。日本を含め、7ヶ国から13チームが参加した。
編集部
地方の自治体が活性化のために参加してもOKですか
栗原
はい、もちろんです。市区町村の産業振興課などが呼びかけて、その地域や市内で活躍する大学や中小企業を束ねて参加申請してくれているケースもあります。
先ほどの繰り返しになりますが、企業であればビジネスに繋がるチャンスになります。競技では、実際に各分野で抱えている課題や問題を解決するためのソリューションを国際大会という舞台で披露することになります。WRSの競技で高い評価を受けたチームは、すぐに社会実装やビジネスに繋がるチャンスが得られるかもしれません。賞金だけでなく、ビジネスでの成功こそがインセンティブになって欲しいと考えています。
見る側の立場として勝手な意見を言えば、異種格闘技ではないが全く異なる世界で活動しているチームが競うところも見てみたい。例えば、大学と企業の対決なども楽しみな組み合わせだ。大学の研究機関の多くは最先端の技術を追い求めていて、その多くは尖っている。一方、企業はビジネスとして活用できる実用的な技術を開発し、作業も効率化が最優先だ。社会の課題から生まれたタスクを解決するには企業チームが有利な気がするが、大学の研究機関が尖った先進技術で対抗する、好勝負を期待せずにはいられない。
WRSは参加チームを募集中
WRSでは参加チームを募集している。各カテゴリーやチャレンジ(競技種目)によって募集期間や応募方法が異なるので、詳しくは公式ホームページ(リンク)を参照のこと。
カテゴリーと賞金(ジュニアカテゴリーは除く)は下記を参照。
・製品組立チャレンジ
合計2,100万円
(1位:1,500万円、2位:500万円、3位:100万円)
・パートナーロボットチャレンジ(リアルスペース)
合計1,400万円
(1位:1000万円、2位:300万円、3位:100万円)
・パートナーロボットチャレンジ(バーチャルスペース)
合計1,400万円
(1位:1000万円、2位:300万円、3位:100万円)
・フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ
合計1,390万円(1位の中で優れた者に+100万円)
陳列・廃棄タスク
(1位:300万円、2位:100万円、3位:30万円)
接客タスク
(1位:300万円、2位:100万円、3位:30万円)
トイレ清掃タスク
(1位:300万円、2位:100万円、3位:30万円)
・プラント災害予防チャレンジ
合計1,400万円
(1位:1000万円、2位:300万円、3位:100万円)
・トンネル事故災害対応・復旧チャレンジ
合計1,400万円
(1位:1000万円、2位:300万円、3位:100万円)
・災害対応標準性能評価チャレンジ
合計1,400万円
(1位:1000万円、2位:300万円、3位:100万円)
> 賞金の詳細はこちら(公式ホームページ:PDF)
(※ NEDO : 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 の略称)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。