日本の海底探査チーム「Team KUROSHIO(https://team-kuroshio.jp/)」が無人ロボットによる広域高速海底マッピングを競う競技大会「Shell Ocean Discovery XPRISE」の「Round2 実海域競技」(決勝)に進出決定したと発表し、2018年3月22日に記者会見を行った。
「Team KUROSHIO」は、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)、国立大学法人 東京大学生産技術研究所、国立大学法人九州工業大学、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、三井造船株式会社、日本海洋事業株式会社、株式会社KDDDI総合研究所、ヤマハ発動機株式会社の8機関からなる合同チーム。構成員は22名の開発運用、6名の事務担当からなり、合計おおよそ30名。
賞金総額700万ドルの「Shell Ocean Discovery XPRISE」
「Shell Ocean Discovery XPRISE」は有人支援母船なしで水中探査ロボットを使い、超広範囲(500平方キロメートル)の海域地形図を作成、海底画像を撮影するロボット競技会。他のXPRISE同様、1995年に設立されたアメリカの非営利組織XPRISE財団が主催し、オイル業界大手のShellがスポンサードしている。賞金総額は700万ドル。
水深4,000mで250平方キロメートル以上の海底マップ構築と海底ターゲットの写真撮影(10枚)を行う「Round2実海域競技」(決勝)には、「Team KUROSHIO」を含む9チームが進出し、2018年10月から11月に行われる予定。結果発表は12月が予定されている。開催場所は2018年3月時点でまだ公表されていない。
日本から唯一「Round2 実海域競技」に進出
「Shell Ocean Discovery XPRISE」には日本からは3チームがエントリーしていた。Team KUROSHIOは唯一「Round1 技術評価試験」を突破した。
「Shell Ocean Discovery XPRISE」には、3つの関門がある。「技術提案審査」、11項目からなる「Round1技術評価試験」、「Round2 実海域競技」だ。Team KUROSHIOは2017年2月に「技術提案審査」を通過。2018年1月に「Round1技術評価試験」が実施され、3月7日にXPRISE財団による審査が行われ、通過した。
「Team KUROSHIO」共同代表の海洋研究開発機構海洋工学センター技術研究員の中谷武志氏は「海は地球の2/3を覆っている。だが海底の9割は分解能は500mから1km程度の粗い地形図しかない。厚い海水の層があるからだ」と背景を紹介し、自律型海中ロボット(AUV)による超音波とカメラを使った探査の有用性を述べた。
現状の海洋探査ではAUV一台に対して一隻の母船、そして回収・投入にも高い技術が必要で、取得データに後処理に時間がかかっている。
今後これらを「ワンクリックオーシャン」、すなわち、欲しいデータをユーザーが指定すればそれだけで即日でデータが得られるような世界を実現しようというのが中谷氏らの狙いだ。そのためにはAUVだけではなく、船のかたちをした無人ロボット(ASV)が母船となり、速やかに情報を集めて処理する必要がある。ユーザーが求める情報の種類に合わせて様々なロボットを組み合わせて運用する技術も必要だ。中谷氏は「これらの技術をXPRISEのなかで培っていき、提供していけるようになりたい」と語った。
「Shell Ocean Discovery XPRISE」のルールは500平方キロメートルの海底マッピングの実現で、そのうち最低半分はマッピングしなければならない。解像度は水平5m、垂直50cm。調査時間は24時間で、そのあとのデータ処理時間制限は48時間以内。得点の全体の2/3は地形データで決められる。
ASVのコントロールは半自律で行うが、岸壁から人は立ち入らず、ロボットだけで作業を行う。競技対象海域への人の立ち入りは禁止されている。持込制限は40フィート四方のコンテナ1個。このなかにロボットや周辺機材を全て納める必要があり、物量作戦ではクリアできない課題となっている。
マネジメントと開発、両方を重視
これまでの経緯は、JAMSTEC 地震津波海域観測 研究開発センター技術研究員の大木健氏が紹介した。技術提案書を提出する1ヶ月前の2016年11月にチーム&ジャッジサミットという事前レビューイベントがあり、Team KUROSHIOはそれに参加。各チームの交流なども行った。2016年12月には技術提案書を作成・提出。2017年2月にはRound1進出を決めて、合同記者会見を行った。Round1には19チームが参加した。日本からはこの時点で「Team KUROSHIO」のみになった。
使用する各機材は異なったメーカーで作られたものなので、システムとしてまとめたときに全体がちゃんと動くかどうかの試験が必要となる。そのため、AUV、ASVのシステム統合海域試験を駿河湾などで行った。
8月には陸上から人工衛星経由でASVの洋上中継機を使った運用試験を行った。
また、Google Lunar Xpriseに出場していた「Team Hakuto」とのコラボレーションイベントや、クラウドファンディングなどを通じた広報活動も行い、それらチームメンバーにとっても励みとなったという。
Round1は、当初、プエルトリコで行われる予定だった。現地環境などが全くわからない状態で各種手続きは大変だったという。だが準備中に二つのハリケーンによって大型被害が発生。そこで各国で技術試験が行われるというかたちへと試験形態そのものが変更になった。この結果、当初は最大10チームが通過というかたちから、問題なければ全部のチームがRound2に出場できるようになった。team KUROSHIOは日本の東大生産技術研究所で審判団による技術評価審査を受けた。
研究開発コミュニティの構築にも注力
Round1詳細については九州工業大学 若手研究者フロンティア研究アカデミー特任助教の西田祐也氏が解説した。Round1は点数評価ではなく、基準を満たしているかどうかを評価するものだった。1日目は午前中に打ち合わせ、スケジュール、試験手順のすり合わせを行い、午後に生産技術研究所のAUV「AE2000f」によるカメラマッピングシステムのデモなど実際の試験風景を示した。二日目は海底地形を計測する同「AE2000a」が6時間自律航行できることを示すほか、海底地形のデータ処理を実演した。試験自体は二日間でおおむね終了したという。
デモ以外の海域試験のデータなどもまとめてXPRISE財団に提出。審査の後に、2018年3月にRound2に出場する9チームが発表された。3月15日にはロンドンでMilestone Award(中間賞)授賞式が行われた。日本のみならず、アジアから出場するのもTeam KUROSHIOのみ。なお11項目のそれぞれの審査結果がどうだったのかは財団側からも知らされておらず、わからないという。
今後はRound2でのフィールドとなる4,000m級のビークル開発、研究開発コミュニティの構築に力を注ぐ。中谷氏は、各プレイヤーが多角的に交流することで「新しい海洋調査技術を日本から発信していき、『One Click Ocean』を実現したい」と述べた。
4000m級のAUV開発を目指す
なお公開されている情報から判断される強敵は、ドイツの「ARGGONAUTS」と、米国の「GEBCO-NF Alumini」とのこと。大木氏は「Team KUROSHIOは運用の経験を積んでいるので優勝の勝機がある」と述べた。他チームの構成を見ていると開発メンバーに偏っていたり、学生が主体であるチームが多く、「Team KUROSHIO」は長年AUVの運用、開発を経験したメンバーが集まっているため、チームのインテグレーションには「Team KUROSHIO」に強みがあると見ているという。
AUVとして用いられる「AE2000(Aqua Explorer 2000)」シリーズはもともとは海底ケーブル調査用に作られたロボット。XPRISE終了後については、日本周囲のEEZ(排他的経済水域)全域のマッピングや海底変動の定期的な観測への応用などを示した。
最後に中谷氏はRound2への意気込みとして、「(東大生産研が所有していた「r2D4」と並ぶクラスの)4000m級のAUVを開発し、システム統合し、実際には行われなかった海外輸送を着実に行うこと。優れたメンバーと挑めることを嬉しく思っている。優勝を目指していきたい」と語った。クラウドファンディングも行い、広く一般からの支援を受けたいとのことだ。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!