AIスタートアップ企業の大会「NVIDIA Inception Awards」の決勝大会が、米シリコンバレー、サンノゼで開催中の「GTC 2018」のイベントのひとつとして3月27日に行われた。
医療、エンタープライズ、自律型システムの各カテゴリーから2チーム、合計6チームがこの日の決勝大会に進んだ。決勝大会では各チームが短いプレゼンテーションを行った後、審査員から1分間の質疑応答を受け、会場のオーディエンスがスマートフォンで投票を行う。
最終的に各部門2チームのうち、得票数が多かった1チームが優勝者として発表された。
注目の自律型システム部門は、多脚型ロボットと産業用ロボットアームの争いになった。
発表にはジェンスン・フアンさんがかけつけ、創業者であり、NVIDIA フェローのA.マラコウスキーさんとともに挨拶し、優勝者の発表と賞品の授与を行った。
出場した6チームの概要、「NVIDIA Inception アワード」の詳細については過去の記事「約192億円もの資金が動く世界屈指のAIスタートアップ企業の大会「NVIDIA Inception アワード」決勝進出の注目の6社は」を参照。
自律型システムの対決は多脚ロボットvsロボットアーム
前述のとおり、ロボスタが注目した「自律型システム」部門では、最終的に勝ち残ったのは異なるロボットを開発するスタートアップ企業の2社となった。
Ghost Robotics
ひとつは、犬のような、昆虫のような、多脚型ロボットを開発する、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの「Ghost Robotics」だ。革新的な多脚ロボットを開発し、起伏のある場所や過酷な環境で使用される自律式無人陸上車両の市場を変革している。
■ NVIDIA Inception award Finale , Ghost Robotics
このロボットは、ペンシルバニア大学の12人で開発しました。うち6人がPhDを持っています。私達がひとつ証明したのは、このロボットは高効率で、管理可能なタスクをセンサーなしで行っているのいう事です。このロボットにはセンサーは一つもついていないのです。実際に、このロボットはすべての情報を足から直接モーターへと伝えているのです。しかし、この刺激的な動作を見ていただければ分かりますが、このロボットは私たちのチームが開発したものではなく、このSDKを使った人々によって、このフェンスを登るという動作を教えられたのです。
一番大きな問題としては、これらの誘惑的・刺激的なフィーチャーや能力が、ロバスト的に充分ではないことです。エンタープライズ市場や工業用市場へのソリューションとして、ロバストの要素を十分にするためには、どうしても人工知能(AI)が必要なのです。そこで私たちは、足のついたロボットのプラットフォームのオペレーショナルな能力すべてに、人工知能を起用したのです。動画が長いですね、ここで止めて、先に進みましょう。
市場は大きいと考えています。私たちはUGV(Unmanned Ground Vehicle)に集中しています。これは私たちの最初の工業用のロボットがAUVSIのイノベーションアワードで勝った時の写真です。賞金はなかったですけれど(笑)。だから今回、賞金のあるこれに参加できてよかった!(観客笑う)
なんにせよ、これが初号機です。これから見せるのが、これから作っていくバージョンのものです。私たちの焦点は、セキュリティと検査の市場です。今年の年末に出します。
(写真が変わって)こちらが、もう少し小さくてソフトなバージョンのものです。ここで言いたいのは、私たちはどんなタイプの、どんなサイズの、どんなプラットフォームのものでもロボットにできるということです。
エヌビディアのプラットホームと私たちのSDKが実現します。
今皆さんが見ているのは一つの例ですね、軍とフィーマ(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の使用例です。時間がないのでささっと見せますが、これは私たちの第1作ですが、さぁこれを見て!
NVIDIAのJetson TX2をナノLIDARと連携し、Stereolabsの$500のZed mini Cameraを追加しました。そしてこれが、ライブの3D Graph mappingです。ロボットが写ってる人を人間だと認識してますね、シンプルなサーモカメラです。何も空想的なことを意識していないですよ。そして必要なのが、AIソフトウェアですね。
私たちは全ての技術にAIが関わると考えています。私たちは、これが新しいロボティクスの時代だと信じているのでAIがロバスト性を高めるのに欠かせないと信じています。
Kinema Systems
もう1チームは米カリフォルニア州メンローパーク、ここが地元の企業だ。物流および製造業界向けに、ディープラーニングと3Dビジョンを活用した革新的なロボットソリューションを構築している。物流業界でピックアップロボットを導入しようと率先している。
■ NVIDIA Inception award Finale , Kinema Systems
あなたが物流倉庫で働いているとします。
50〜50パウンドをゆうに超えるような巨大なパレットの箱たちが運ばれてきて、それをあなたたちが運ばなくてはいけません。それを毎日やらなければならないと想像してみてください。8時間ですよ。
あなたの背中が壊れてしまうのに時間はかからないでしょう。このようなタスクは信じられないほど難しいのです。退屈で危険ですが、いまだに人々によって行われていて、それにとって変わる解決策はこれまでにはありませんでした。なぜならこれまでのロボットは同じものに対してのみ対処できる存在だったからです(箱の大きさや重さなどに多様性があることを意味している)。
そこで私たちは、eコマースのロジスティック分野にロボティクスを取り入れたのです(動画)。
さて、これはキネマピックというシステムです。ロボットアームが荷物をパレットに載せるシステムです。これはパレットから箱を動かしてコンベアに載せているところですね。多くの倉庫で最初に行われる作業のひとつです。早く動くようにデザインされていて、一般的な需要としては1時間に500箱程度をこなすことができます。それよりも早く動かすこともできます。そして自動運転です。
また、プログラミング(ティーチング)の必要性はありません。あなたはただ、これを設置し、「やれ」と命令するだけでいいということなのです。そうすればマシンが自分でどうやって動けばいいのかを理解するということです。
これが私たちが販売しているものです。ソフトウェアをインストールしたパソコンを販売しています。そして連携して動くカメラですね。このしくみには絶対にGPUが必要です。
私たちのプラットフォームは深層学習をベースにしており、顧客は箱が数百万個とある環境の中で、どんな箱なのかを見分け、さらに必要なスケールとスピードを計算することでロボットが同じ速さを保てるようにするには、ディープラーニングが不可欠です。そしてそれにはGPUが必要なのです。
私たちの製品システムにはすべてGPUを搭載しています。市場は大きいですが、キネティックはフルスタックです。お見せしたタスクだけではなくより広い分野でのアプリケーションがあります。私たちの強みとして、これがすでに製品化され使われている、ということが言えます。すでに毎日使われているのです。展示ホールでも実演していますので、ぜひ見にきてください、ずっと働き続けていて止まることはありません。
読者の皆さんなら、どちらのロボット、どちらの企業に投票するだろうか?
栄えある「NVIDIA Inception アワード」を制したのは?
ヘルスケア部門は米カリフォルニア州パロアルトのスタートアップ「Subtle Medical」が受賞した。画像の取得、復元、処理、分析といった機能の向上を通じて、医用イメージングシステムを進化させるディープラーニング・テクノロジーを開発している。
エンタープライズ部門は、米カリフォルニア州サンタクララの「AiFi」。コンビニエンスストアから大手小売店まで多様な店舗向けに、世界初の拡張可能な「レジなし」ソリューションを発表。レジなしとは、イメージではアマゾンGOの大規模店舗版だが、技術やコンセプトはやや異なる。
そして、自律型システム部門は「Kinema Systems」が受賞した(シリコンバレーのスタートアップが各カテゴリーを制した)。
■ GTC2018で稼働していたKinema Systemsのロボット
所感
NVIDIAのGPUとAIコンピューティングパワーで世界を変えることを目指すスタートアップ企業3社が今日、決まりました。残念ながら優勝に選ばれなかったGhost Roboticsの多脚ロボットも、著者としてはとても大好きで、強い将来性を感じるものでした。 今後これらのスタートアップが開発したシステムが、実際の現場に反映され、実践で社会を変えていく存在になることを期待しています。(著者)
(Featured Ayuka Alyson Kozaki)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。