サイバーエージェント、大阪大学の石黒教授、東急不動産HDは共同で、「ホスピタリティ実現に向けたロボット導入の可能性」を探るため「人型ロボットを活用した実証実験」についてのプレス向け発表会を行った。
具体的なプロジェクトの内容は、ホテルにおいて人型ロボットと対話エージェントを使い、挨拶や接客、情報提供、将来の広告提供を模索する実証実験だ。大阪大学が中心になってシステムの開発を行い、東急不動産HDが実証実験場となるホテル「東急ステイ高輪」を提供、サイバーエージェントが広告展開等を担当する。
実証実験は既に第1回めが終了しており、アンケート集計も完了している(この記事後半で紹介)。第2回めが現在4/16〜27の期間限定で行われている。(関連記事「【速報】ホテルで人型ロボットが「新しいおもてなし」!サービス業界のロボット導入の可能性を探る、サイバーエージェントと石黒教授ら」)。
石黒教授がその発表会に登壇し、このプロジェクトの主要テーマである「人型ロボットは”新しいおもてなし”を提供できるのか?」「そして”新しい広告媒体”になり得るのか?」に関連し、ホテルにおけるロボットの3つのポイント、ゴールまでの開発ロードマップを解説した。
人型ロボットは「新しいおもてなし」を提供できるのか?
石黒教授は冒頭で、情報社会におけるロボットの意義について説明した。
「インターネットはグローバライゼーション」の象徴であり、均一な情報の配信を可能とする、としながらも、人がさまざまなモノや出来事と関わることで情報が生まれる、情報はローカルから生まれる、として「SNSが情報の生成に貢献」しているとした。
そして、SNSを更にローカルにしたところにロボットの存在があり、人が最も関わりやすく、情報に触れ合いやすいのがロボットだと位置づけた。
次に、ロボットは「ホテル」で「おもてなし」「ポスピタリゼーション」を提供できるのかという点に触れた。
ホテルのロボットに重要な3つのポイント
ホテルのロボットに注目した場合、石黒教授は「プライベートコンシェルジェ」「プライバシーコミュニケーション」「プライベートコンファタビリティ」の3つが重要なポイントとした。
プライベートコンシェルジェ
プライベートコンシェルジェは、顧客にとって最適な情報を提供してくれるコンシェルジェの役割だ。「ホテルの周りのおすすめスポット」や「自分に特化した情報」を「信頼できる情報提供元」として案内してくれる存在だ。
プライバシーコミュニケーション
プライバシーコミュニケーションは、人間にはできない、ロボットにしかできないサービスだとした。「プライバシー」と「コミュニケーション」の両立を指す。プライバシーとコミュニケーションは、ともすれば相対する一面も持っている。人間相手の会話や情報交換は常にプライバシーの課題を抱え、人間との会話にはプレッシャーを感じるものだ。一方、ロボットなら気軽に対話できて、プライバシー保護の面でも信頼できる存在になり得る。
プライベートコンファタビリティ
プライベートコンファタビリティには「プライバシー」と「存在感」(presence)の両立が必要だ。これもロボットにしかできないとした。ホテルの部屋の中にいても安心できる存在、安心感を素にした信頼と情報提供を実現することができる。
ホテルでのロボットによる広告とは
発表会において、著者が一番興味深いテーマと感じていたのが「ロボットによる広告」だ。
石黒教授が「ホテルのロボットによる広告」について触れたのは「ホテルにはそもそもなぜ広告が少ないのか」という問いだった。プライバシーと広告は相容れないものなのか、両立することは可能なのか、そしてホスピタリティと広告は両立するのか、というポイントがあげられる。
ゲストにとって広告は時に迷惑に感じる存在だ。迷惑に感じる恐れのある広告を、プライバシーやおもてなしを損なわずに、ロボットはどのように伝えることができるのか、これは石黒教授、デジタル広告を手がけてきたサイバーエージェント、そしてホテルを提供する東急不動産HDにとって、まだ答えを見ない、共通の課題のようだ。
「くつろぎの場には広告が入りづらい」とした上で、「人間による情報提供はプレッシャーを感じやすい」ので「ロボットは既存媒体と人間の中間的な立ち位置を実現できるのではないか?」、ゲストが受け入れたい時に素直に受け入れられる広告が適切であり、その方法を模索していく予定だ。実証実験や今後の研究を通して、道が見えてくることを期待したい。
実証実験のシステム構成
実証実験はホテル「東急ステイ高輪」のエレベータホールと廊下の2箇所で実施された。
監視カメラやデプスセンサー(キネクト)を使って人の位置を特定、ロボットが発話を開始するシステムだ。
エレベータホールではエレベータの待ち時間を使って、テスクトップ型のロボット「CommU」(コミュー)と「Sota」(ソータ)が掛け合いの会話を行う。その会話の中には周辺のオススメスポットの情報などが含まれている。ステマとの境界線を探りながらではあるだろうが、この会話の中に広告が入っていく可能性を探る価値はあるだろう。
廊下ではSotaが1台でゲストに対応。挨拶を主としたシステムだが「意外にも適切なタイミングで挨拶をすることが評価された」と言う。
ロボットによる”ホスピタリティ”の開発ロードマップ
石黒教授は今後の開発のロードマップも示した。
最初の「レベル1」は「人間による対応の”隙間”を埋めるロボット」だ。次の「レベル2」は「顧客の状況に対応して情報を提供するロボット」で、現在の実証実験で使用している技術は「レベル1.5」程度であるとした。
「レベル3」は「顧客と直接話して応対するロボット」まさに会話ができるコンシェルジェとしての存在だ。そして最後の「レベル4」は「それぞれの顧客に特化した細やかな対応を実現するロボット」とした。
また、達成すべきサービスとして、レベル1は「挨拶、待ち時間の雑談」、レベル2は「必要な情報の提供」、レベル3は「顧客の質問に対応」、レベル4は「顧客の目的地までの経路の誘導」と具体例を示した。例えば、レベル2では「雨が降ってきたら、傘の提供をロボットがアナウンス」するなどが具体例のひとつであり、高度なレベルとして達成したのは、ホテル内の複数のロボットが連携して、お客様を誘導したり、適切な案内を行うことだとした。
移動型ロボットでなくても、大浴場への道をそれぞれの階や廊下に設置された複数のロボットが連携し、顔認識でゲストの行く先にあわせて案内することはできる。そのような光景も将来のロボットによる「おもてなし」シーンのひとつかもしれない。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。