次世代通信「5G」(ファイブ・ジー:第5世代移動通信方式)。
スマートフォン以外での利用分野、例えばロボットやIoT、自動運転等でも導入に期待が集まっている。その理由のひとつが、大容量のデータを速いレスポンス(低遅延)で通信できる点だ。
5Gは2020年からの導入を目指し、現在、通信キャリア各社が新技術の研究や実証実験を行っている。株式会社NTTドコモとファーウェイ(華為技術/HUAWEI)は、5Gにおいて新たに追加される「39GHz帯」の周波数帯についての実験結果を発表した。このニュースを理解するためにも、まず「5G」と電波について解説しておきたい。
「5G」で導入される電波について解説します
今回実験が行われたのは「39GHz」周波数帯。
現在、4Gで使用している周波数帯は、NTTドコモのLTEで言えば1.7GHzや3.5GHz。携帯電話で最適な周波数とされるいわゆる「プラチナバンド」は1GHz以下の700~900MHz帯だ。
これらと比べれば、39GHzがいかに高周波数かがわかるだろう。5Gではほかにも28GHzなどの周波数帯が導入される予定だが、今まで移動通信では利用されてこなかった高い周波数のため、研究や開発、実証実験が急がれているわけだ。
今まで移動通信で使っていた電波の周波数帯域がいっぱいで、今後IoTや自動運転等で爆発的な電波需要が拡大するのに対して、今までの周波数は拡張できないため、高い周波数に活路を見いだそうとしている。30GHzを超えるような高い周波数は「ミリ波」と呼ばれ、この単語は今後、ICT関連ニュースなどで頻繁に目にするようになるだろう。
課題は曲がらないこと
ごく簡単に言うと、39GHz帯など「ミリ波」の最大の利点は送信するデータの大容量化、大容量通信に適している。一方、直進性も特徴のひとつでこれがデータ通信ではしばしば課題となる。
電波の高い周波数と低い周波数の説明をするのに私はよく「光」と「音」を例にする。最も周波数の高い部類に「光」があるが、光は真っ直ぐ進むが、曲がることが苦手で、壁(ツイタテ)があると影ができる。影の部分が電波の届かないところだ。
一方、「音」は回り込みが得意だ。ツイタテの向こうからも声や音は聞こえてくる。
プラチナバンドのような比較的低い周波数は回り込みできるため、都会のビル影やビルや家の中心部でも(窓際ではなくても)電波が届きやすい。
というわけで本題に戻すと、39GHzのひとつの課題がビル影などの障害物の向こうに電波をどのようにして届けるか、ということだ。例えば、中継アンテナを設置して中継することが考えられるが、その場合、反応速度や通信速度は低下してしまわないか、という課題がある。
NTTドコモとファーウェイの実験はこの課題に向けたもので、39GHz帯の周波数帯において、中継する無線アクセスバックホール統合伝送の屋外実験を行い、その結果、実環境において、わずか1.6ミリ秒の遅延で無線通信に成功したという発表となった。
39GHz帯での無線アクセスバックホール統合伝送の屋外実験
同実験は、信号処理装置およびレンズアンテナで構成される5G基地局と、5G中継基地局との間のバックホール通信および、5G中継基地局と5G移動局との間のアクセス通信を同一周波数帯において実現し、5G基地局のカバレッジ外(基地局から直接、電波が届かない範囲)に位置する5G移動局と、5G中継基地局を介して通信を行うというもの。
2018年4月16日(月)~27日(金)に神奈川県横浜市みなとみらい21地区において実施された実験だ。
今回実証した無線アクセスバックホール統合伝送により、ビル陰となるエリアが多く存在する都市部において、比較的容易にカバレッジを拡大することが可能になる。さらに、光ファイバーの敷設が難しい離島や山間部などへ本技術を導入することにより、そのような地域においても5Gによる高速・大容量かつ 低遅延な無線通信を実現することも期待できる。
同社は2020年の5G商用サービスの開始をめざしており、今後も世界主要ベンダーと協力し、5Gネットワーク技術の研究開発に取り組んでいくと述べている。
同実験の詳細
今回の実験では、5Gの発展技術として将来的な標準化に向けて検討が進められている、無線アクセスバックホール統合伝送技術の実証を行った。
電磁波に対して自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質、「メタマテリアル」を応用したレンズアンテナを用いて、電波を特定の方向に集中して送信するビームフォーミングを活用し、 アクセス伝送とバックホール伝送との間の干渉を低減して同時伝送を実現。
また、無線伝送時間が短くなるように実験装置を設計。アクセス伝送区間の上下リンク、および バックホール伝送区間の上下リンクをすばやく切替えて伝送すること可能にし、加えて、アクセス伝送とバックホール伝送の無線品質に応じて、各伝送区間に割り振る無線リソースを調整し、 無線アクセスバックホール統合伝送の効率化を図った。
これにより、5G基地局から5G中継基地局を介して、5G移動局までのパケット伝送遅延を約1.6ミリ秒まで短縮することに成功し、加えて、5G基地局のカバレッジ外のエリアに対して、5G中継基地局を介したミリ波伝送により、約650Mbpsの無線通信が可能となることを実証。
現在、携帯電話で主に使われている2GHz帯までの周波数に比較して、1~10mm、30~300GHzの周波数の電波である「ミリ波」は波長が10分の1以下であるため強い直進性があり、非常に大きな情報量の 伝送が可能だが、遠くに伝わるのが困難とされていたが、無線アクセス バックホール統合伝送がミリ波通信のカバレッジ拡大に寄与することを明らかにした。
実験システム
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。