「日本はAIに対する労働者の意識改革と行動が遅れている」アクセンチュアが11ヶ国対象の「雇用・働き方の未来」調査結果を発表

アクセンチュアは5月28日、「雇用・働き方の未来 人とインテリジェント・テクノロジー」に関する記者発表会を開催した。発表会では、いかにAIを実用的に取り入れていくかと言うことを解説し、AI技術に関連する意識改革や社員教育において、日本企業が諸外国と比較して大きく遅れていることに対して警鐘を鳴らした。そして、これからの対策を啓蒙するものだった。
日本は少子高齢化に伴い、急激な生産年齢人口減少に直面している。充分な労働力の確保が期待できない状況であれば、AIやICTを取り入れ、競争力を高めていくことが重要だと強調した。
日本は少子高齢化に伴い、急激な生産年齢人口減少に直面している。充分な労働力の確保が期待できない状況であれば、AIやICTを取り入れ、競争力を高めていくことが重要だと強調した。

アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 人事・組織管理 マネジング・ディレクター 宇佐美潤祐氏


世界11カ国の経営者と労働者を調査

一時は「AI脅威論」が話題になったが、最近の傾向としては、人がAIをどのように活用していくか、「人とAIの協働」に注目が集まっている。アクセンチュアは日本を含む世界11カ国、10,527人の企業経営者や労働者を対象にした調査結果を踏まえたものを発表した。

アクセンチュアは、AIとの協働により、全業界で2022年には38%の収益拡大、10%の雇用増加ポテンシャルがあると推計する

この調査結果のサマリーとしては、AIの重要性を認識している経営者は54%、労働者は57%だった。一方、AIとの協働に対して不安だと感じている経営者は13%(「半数以上の従業員がAIとの協働の準備をできている」と答えた割合)、労働者は48%と約半数にのぼる。AIとの協働に向けて教育に対しては、60%の経営者がAIとの協働に対する社員への教育や投資が必要と考えていて、68%の労働者が新たなスキルの修得が必要だと考えている、としている。




アクセンチュアの戦略コンサルティング本部、宇佐美氏によれば、「経営者も労働者も、AIが重要なものになっているという認識を半数以上の方が持つようになってきている。一方で、会社内では社員に対してAIとの協業の準備がまだまだできていないのが実状。労働者にとってみれば、自分の雇用に脅威を与えると感じている人が約半分、あとの半分はチャンスだと捉えていると見られる。人とAIよる協業に向けた教育は、経営者も労働者も必要だと感じている。総じて言えば、業務においてAIの重要性は認識されはじめているものの不安もある、それに向けての社員教育に関するアクションが着手されはじめた、そういうステージに入っている」と説明した。


日本は「労働者の意識改革と行動に遅れ」が見られる

日本を取り巻く環境と考察について、同社のデジタル コンサルティング本部の保科氏が解説した。保科氏は「AIを取り巻く環境は深刻な労働力不足を迎えるため、それを補うのにはAIとの協働は不可欠だと考える。しかし、日本は労働者に対する意識改革やそれに伴う実行が、海外と比較しても大きく遅れていることが今回の調査で明らかになった。また、日本は労働者がAIに対する大きな不安も漠然と抱いていることもわかった」とした。

アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 保科学世氏

表示されたグラフは日本の遅れを表すものだった。
図Aは、縦軸が「AIと協働するために新たなスキルを習得することが重要」と考えている割合、横軸が「過去1年間に、AIとの協働に向けたスキル習得に取り組んだ人の割合」としたグラフだ。他の国が一団となっているのに対して、日本だけが際だって低い値となっていることを示している、と言う。

図A AIとの協働に向けた労働者の意識変革と行動の遅れ。日本人労働者はAIとの協働に向けたスキル習得の重要性の理解、具体的なスキル習得の取り組み共に、グローバルとのかい離が大きい、と分析する

図Bは、縦軸が「AIが自分の仕事にポジティブな影響をもたらす」と考えている割合、横軸が「AIが自分の仕事にもたらす具体的な変化がわからない」としたグラフだ。こちらも他の国が一団となり「AIの影響を理解し、協働に前向きである」のに対して、日本だけが「漠然とした不安を抱えている」ことを示している。

図B AIに対する漠然とした労働者の不安。労働者の25%はAIが自身の仕事にどのような影響をもたらすかイメージを持てていない加えて、AIに対してポジティブな感情を持つ労働者は22%に留まり、漠然とした不安感を抱いていると考えられる


日本企業がAI時代に競争力を発揮していくためのアクション

この状況を打破し、日本企業がAI時代に競争力を発揮していくためのアクションとして、3つの提言を行った。



仕事を一から見直して、タスク起点で洗い出す
社員教育、新しいスキルの学習を強化する
新たな価値の創造に向けたエコシステムの活用

アクセンチュアが提言する日本企業がAI時代に競争力を発揮していくためのアクション

日本は少子高齢化、労働力不足によって、諸外国と比較して、GVP成長率が低くなるが、AIやロボットで労働力不足を補えば、それだけそれら技術を導入した効果は大きいと分析している。

労働力不足をAIで補うことを考えれば、大きな導入効果が期待できる、とする

アクセンチュアは、人間とAIの協働のために必要な教育を挙げ、また事例として、産学連携人材育成コンソーシアム「サーキュラーエコノミー推進機構」の設立や、トヨタ自動車のジャパンタクシーが取り組む人工知能を活用したタクシー「配車支援システム」などを紹介した。
また、イノベーションを創出するコラボレーション環境整備の事例として、自社が世界の機関・人材・知見と連携してイノベーションを創出し、東京から世界に発信する拠点「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」を紹介した。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム