【IoT業界探訪vol.20】「なくすをなくす」MAMORIOが新しいスタイルの落とし物防止タグ「MAMORIO FUDA」を発売-ファブレスIoTスタートアップ、MAMORIOのモノづくり-

IoT業界探訪で紹介したことがある落とし物防止タグMAMORIOが新しいスタイルに生まれ変わった。新製品という意味では今までも、新色が追加され機能がアップした「MAMORIO S」、MAMORIOが封入された「コラボレーション手袋」など、いくつかの製品がカタチを変えて発売されてきた。

しかし、6月1日に発売された新製品、「MAMORIO FUDA(マモリオフューダ)」は今までの落とし物防止タグにはない「貼る」スタイルのものだという。いままでのキーリングに下げる、ポケットに入れるタイプの「タグ」から貼る「ステッカー」に変わることで、MAMORIOの世界がどう広がるのか。MAMORIO株式会社のCOO、泉水氏に目指す未来と新製品で実現したことについてお話を聞いてきた。


MAMORIO株式会社のCOO、泉水亮介氏




MAMORIO FUDAとは

まず、MAMORIO FUDAの概要を紹介する。


商品名 MAMORIO FUDA(マモリオフューダ)
製品サイズ 縦24mmx横36.2mmx厚さ3.4mm 重さ3.4g
展開カラー BlackとWhite
材質 ポリ塩化ビニル
価格 2,759円(税抜)
通信方式 Bluetooth4.0(BLE)
稼働時間 使用開始から約1年間(利用状況によって変化する可能性あり)
URL https://mamorio.jp/fuda/

従来のMAMORIOは各種の「落とし物防止タグ」の中でも特筆すべき小ささで財布や名刺入れに忍ばせたり、カメラにストラップで結びつけるといった使い方をしていたが、これからは新しい使い方が出来そうだ。


「SDカードケース」に張り付けてみたところ。MAMORIOとほぼ変わらないサイズの物にストラップでぶら下げるのに比べ、FUDAを貼り付ける使い方であれば自然に見える。


FUDAで広がるMAMORIOの世界

昨年末に発売された「MAMORIO S」は従来品のMAMORIOに比べ、ビーコンの発信間隔や強度を上げることで「発見確率」を2.5倍にまで向上させた製品。「MAMORIO FUDA」の性能はそれに比べて同等以上だという。

その性能にもかかわらず、30%近く引き下げられた価格や、新しく提案された「貼る」スタイル、新しく盛り込まれた機能によってMAMORIOのユーザー体験はどう向上したのだろうか。泉水氏にお話を聞いてみた。

編集部

今回のMAMORIO FUDA、ぷっくりとした形状や手ざわりなどが非常に面白いデザインですね。

今までのMAMORIOとちがうどころか、おおよそIoT製品、電化製品のデザインとも違うイメージですがどういった理由でこの形になったんでしょうか。



泉水氏

今までお守りをデザインモチーフにしたMAMORIOを作ってきましたが、形状を変えたMeMAMORIOや、質感を変えたSHIBAMORIOなど、色展開以外のことも模索はしてきました。


ただ、これまでのMAMORIOから、利用シーンを一段と広げたかったのと、「文房具のように買ったらすぐに使える」というIoT機器らしからぬユーザー体験を伝えるために質感、形状を一新してアピールしています。もちろん「主役は『MAMORIOをつけたいと思うようなモノ』だ」という点は以前から変わっていないので、ロゴを素押した主張の少ないシンプルなデザインにしたり、初代のMAMORIOから引き継がれたアールの付け方などでイメージの共通性を持たせています。

編集部

エアが入っているんでしょうか。たしかに電化製品ではあまり見ないデザインですね。
パッケージに関しても、UNIQLOの製品みたいですし。

泉水氏

パッケージや開封の体験には特にこだわりました。
剥離紙に電極がついていて、はがすと自動的に電源が入るようになっているんです。
僕たちは操作が全くない「ゼロUI」製品を目指しているんですが、それを目指した工夫の一つですね。



編集部

なるほど、ビーコンはどうしても動いてるかどうかがわかりにくいので、電源の入れ忘れが発生しがちですが、これだったら絶対に忘れることはないですね。

あと、価格もMAMORIO Sに比べて大分落ちているので、大分使いやすくなってきましたね。

泉水氏

3,000円を切る価格になったので、ちょっとしたものに「貼る」という使い方も大分リアリティが出てきました。

貼るという使い方は3x4mの面さえあれば何にでもつけられる、という事なんでキーリングやストラップ穴が必要だった従来のタイプと合わせると、カバーできる対象が格段に広がりました。それに対して「気軽に貼る」ことが出来る。

編集部

例えばどういう使い方があるんでしょう。

泉水氏

今までの延長線上で「高額なもの」に貼るという意味では「ストラップ穴」がないMacBook等が思いつくと思いますが、「高価ではないけれども大事なモノ」、例えばHDMI変換機なんて、高くもないけれども絶対に忘れちゃいけないタイミングはありますよね。

そういった物にどんどん貼ることが出来る。

編集部

なるほどそれはだいぶ利用用途が広がりますね。

泉水氏

また利用用途だけでなく、「利用シーンを広げる機能」は新しく開発していってます。その一つが「チャットアプリ」や「Voice UI」対応です。

たとえば、出先で持ち物の確認をしたいときに鞄をあさらなくてもスマホに話しかけてGoogleAssistant経由で、持ってきているものを確認できます。

編集部

僕は持ち物が無茶苦茶多いのでその機能はすごくありがたいですね。

泉水氏

「なくすをなくす」と言っても、実際になくしてMAMORIOアプリを使うタイミングって生活の中で数パーセントにもならないけど、こういう「確認」は日々使いますからね。

編集部

価格の低下による利用用途の拡大と、機能のアップによる生活の中での利用シーンの拡大がいいスパイラルを起こしていきそうですね。




MAMORIO FUDAができるまで

「なくすをなくす」ためにこだわったデザイン、価格、設計、から生まれたユーザー体験、それらはどのようにして生まれたのだろうか。

「MAMORIOはモノづくりの素人」と前回のインタビューでも泉水氏が繰り返していたが、変わらず高いクォリティのハードウェアを作り続けている姿を見ると、改めて「単なる素人」とのちがいを感じる。

彼らの「素人ならでは」の妥協なきハードウェア開発についてお話を聞いてみた。

編集部

それにしても、このケースの加工や、剥離紙の接点など、盛りだくさんのアイデアが詰まった製品ですね。今回の開発はどのくらい時間がかかったんですか?

泉水氏

まる二年間以上はやってますね。

最初はプラスチックの筐体に両面テープ付けるところから始まって、本当にペラペラの薄いものを作ろうと挑戦したりとか色んな紆余曲折をへて、今回の形に至りました。かなり時間をかけてコンセプトメイキングはしてきましたね。



MAMORIO FUDA試作品の一つ。特注の薄型電池を使用している。

編集部

設計、生産はどういう体制で行っているんですか

泉水氏

完全にファブレスです。社内にハードウェアの担当者はいますが、設計は大阪のパートナーさんと一緒にやっています。基板の量産は北陸で。今回のケースの加工に関しては、なんとか探しあてた関西のパートナーさんにお願いしています。

遠隔であっても密接なコミュニケーションが必要なので、プロジェクトの初期はある程度は対面でミーティングをする約束をしてお仕事をはじめました。ある程度軌道にのったら、殆どのコミュニケーションはオンラインですね。

編集部

社内担当者の方もおられるんですね。
それにしても「手癖」で作ってる感じが全くしませんね。

泉水氏

自分達が作りたい物を作る為にはどうしたらいいか、作りたいものに合わせて最適なパートナーを模索して柔軟に体制を変えているからでしょうね。

初代MAMORIOのケースでも電化製品では一般的でない、超音波溶着の加工をお願いしましたし、MAMORIO Sも「こんなに薄い金型作れないよ」と言われたなかで、作ってくれるパートナーを探し続けました。今回のケースの加工も新しいパートナーさんにご協力いただき、本来電子機器にはやらないような加工をお願いして作り上げました。全部国産の技術力を結集してなんとかこの形におさめられた、という感じです。



MAMORIO SとMAMORIOの比較表。たった0.6mmの厚みの差だが、この2.8mmのなかに、ケースの樹脂2枚分と基板、その間の隙間の管理をしていることまで考えると相当きびしい挑戦だっただろう。

編集部

IoTスタートアップというと、国外、特に中国の工場の力を借りるイメージがあるんですが、国内の会社さんがパートナーなんですね。

泉水氏

そうですね。
電池一つとっても、品質と、その安定感が違いますね。長く安心して使ってもらう方法を突き詰めたら品質が安定してる国産メーカー(パナソニック製)に落ち着きました。

編集部

マモリオにとっては一年間動き続けてくれるっていう保証があることが大事ですからね。どうやってそういう工場を探すんですか?

泉水氏

こういうのは結局足になっちゃいますね。やりたいことを既存のパートナーさんや、KDDI∞Labo時代からお世話になっている生産系コンサルティング会社の方、営業に来てくれた会社さん等にもに相談するところから始めて「ここまではできる」というパートナーさんがいれば、工程を部分的にお願いする場合もあります。常に生産の方法に関しては模索していますね。

編集部

そういうコミュニケーションから探していけるのは、国内の強みですね。ただ、年齢や文化が違う、ハードウェア設計、生産系の方々とのコミュニケーションは大変だったんじゃないですか?

泉水氏

工場の方々と一緒にモノを作っていく中で互いに理解していくことが出来た。っていう感じですね。「金と部品を持ってくれば製品ができるわけじゃないんだ。」と言われた事もありますが、一つ一つの工程を丁寧に設計していく中で体でわかった気がします。

僕たちが「なくすをなくす」為にはMAMORIOを数百円レベルにまで価格を下げるための挑戦をしていかなければいけないんですが、そのためにこういった工場の論理も身に着けていかなければいけないと思っています。

編集部

そのために必要なことはどういったことなんでしょうか。

泉水氏

そうですね。様々なことが必要だと思いますが、あえて地味な所をあげていくと、やはり生産管理、や工場経理などの人材は重要だと思います。

大手電機メーカーさんは「不良率をppm以下に抑える」「部品1個1個のコストを数銭レベルで把握する」といったノウハウを持っていますが、どれも「工場で働いた経験のある人」しか得られないものです。

最近は大手企業とスタートアップの間で人材を交流させるローンディールさん等も出てきましたが、そういった仕組みがもっと出てくればスタートアップはより良いモノづくりができ、大手さんはスピード感や展開力といった面で良い影響があると思います。

編集部

中国の良さは十分わかりますが、クライアントとして付き合ううえでも工場管理面でのせめぎあいはあるわけで、エンジニアとしての文化だけでなく、国も言葉も違う人たちやりあうのは、ワンミスが命取りになるスタートアップでやるのは大変かもしれませんね。

しかし、そういった文化の違いや困難を乗り越えて、モノをつくるための原動力は何だったんでしょうか。

泉水氏

とにかく言い続けることです。代表の増木は2年前、3年前から「いつかカード型、シール型を作りたい」ということをずっと言い続けてきました。「なくすをなくす」という実現したい世の中のビジョンを言い続け、それに向けて作りたいもの、あったら嬉しい物のイメージをビジョンと照らし合わせて考えていく。創業社長の言い続けているビジョンが社員全員に行き渡って、同じことを考えているからできるんだと思います。

剥離紙に金具をつけるアイデアにしても、僕らがやったことは「なくすをなくすために誰でも使える文房具のようなものを、ボタンなんていない製品を」と言い続けてパートナーの方々と一緒に考えていっただけですから。

編集部

お付き合いするパートナー企業さんに対していかに社の持っているビジョンを減衰させずに伝えるのか、その根源にあるビジョンの強度が一番大事なんですね。




実は泉水さんはMAMORIO FUDAの名付け親だそうだ。

OMAMORIから名づけられたMAMORIO、貼り付けることからFUDAということかと思っていたが、それ以外に「なくすをなくす」が実現された「いつかやってくる日常:FUture DAys」の第一歩の製品という意味がこもっているのだという。

壮大すぎる夢だとはにかむ泉水さんを見ながら、ドングリを埋めるリスでも持ってるような根源的な悩みを解決しようとしてるのだから、そのぐらい大きな事を言わないとなと思っていた。

お守りもお札もどちらも思いを込めるデバイスだ。「なくすをなくす」世の中の実現への願いを込めてプロダクトを送り出していくMAMORIOがどんな歩みを進めていくのか。

次回はその歩みについてお話を聞いてみるので、去年聞いたお話との差分を感じてみてほしい。

ABOUT THE AUTHOR / 

梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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