自動運転、産業用ロボット、癌検診など、PFNの深層学習の応用事例と成果「DLLAB DAY 2018」

乳がんの検診の診断精度は、マンモグラフィーだと約80%だが、血液生検にディープラーニングを応用すると99%以上に精度が上がる。6月21日に東京都内で開催された「DLLAB DAY 2018 深層学習を使いこなす日」の基調講演に立ったPreferred Networks(PFN:プリファードネットワークス)の創業者でありCEOの西川徹氏はそう語った。同氏は自動運転、産業用ロボット、線画の自動着色、自然言語処理など、ディープラーニングを活用した事例を次々に紹介した。

株式会社Preferred Networksの創業者であり代表取締役社長 最高経営責任者の西川徹氏


PFNが注力する3つの分野

PFNは現在、事業内容として「IoT + 分散機械学習」を掲げている。西川氏は、現在のIoTデバイスはスマホなどのモバイル機器と連携するものが普及に向かっているが、これからはアクチュエーター(サーボモータ)が付いているデバイスも注目されていくだろう、とした。自動運転やロボットなどが新しいコンピュータの形態になることを感じている。
PFNは3つの分野で機械学習を活用する研究・開発に注力している。ひとつめは自動運転の分野、トヨタ自動車と連携して開発をおこなっている。ふたつめは産業用ロボットの分野、ファナックと連携している。そして3つめが、バイオヘルスケア。癌研究の診断精度を大幅に向上させる取り組みだ。



自動運転分野とディープラーニング

トヨタ自動車とは共同で、自動車に搭載したカメラ映像から物体をディープラーニングをつかって学習、認識する技術等を研究・開発している。道路であれば白線や通行レーン、信号、走っている車、歩行者、駐車されている車、自転車などの物体をセグメンテーション(領域分割)することなどに機械学習を活用している。


自動車のカメラ映像の認識になぜディープラーニングが有効かと言えば、それは汎化性能(汎用性が高い)にある、と同氏は言う。道路には多用な変化があり、朝、昼、夜だけでなく雨や雪の日など、時間や天候によって大きく変化する。通行する車や歩行者、自転車などを加味すると、全く同じ状況はないと言える。それを従来のルールベースのプログラミングでおこなおうとすると、プログラマーがありとあらゆる事態や場所に対してルールを決めてコードを書かなければならない。ルールに合わなかった事態が発生したとき、「想定外だった」では自動車には使えない。ディープラーニングであれば、すべてのルールについてコードを書く必要もなく、環境の変化も含めて学習させることでロバスト性の高い判断がコンピュータには可能になる。


産業用ロボットとディープラーニング

製造業ロボットの分野ではファナックの事例を紹介した。
ロボットの異常など故障を検知するシステムにディープラーニングを導入している。工場のラインで稼働しているロボットはひとつでも故障することでライン全体が止まってしまう事態に繋がりかねない。そこで、センサーの情報等をもとに、故障を検知したり予測する機能が以前から導入されてはいたが、ルールベースのシステムでは故障が首尾よく予測検知できたとしても、直前に知らされるもので、対処できないケースも多かった。そこで故障の予兆を検知するのに、正常時の波形と異常時の波形をディープラーニングによって学習させ、故障の予兆を検知するシステムを構築した。これまでは故障検知の波形をプログラマーが定義してブログラミングしなければならなかったが、ディープラーニングを用いると正常時と故障時の波形データを多く解析させることで、それぞれの特徴量を自ら学習して、異常の前兆を判別できるようにした。より多くのデータを解析することで、予兆を検知する精度をあげることもできると言う。ディープラーニングを導入してからは故障の検知も数日前にできるようになった。
また、故障の予知だけでなく、産業用ロボットのサーボモーターの調整にもディープラーニングを使い、熱変位などを加味して振動を抑えるためのチューニングも行っているという。



癌検診とディープラーニング

ヘルスケアや医療分野では、乳がんの診断の正確性を向上しようとする研究・開発にディープラーニングを活用している。乳がんの検診にはマンモグラフィなどの手法が知られているが、その精度は約80%だと言う。5人にひとりは診断を間違ってしまう可能性がある。Liquid Biopsy(血液などの体液サンプルから診断をおこなう手法)を活用することで約90%に精度が向上すると言う(従来の統計システムを使った場合)。10人にひとりしか間違えなくなる計算だ。その統計システムの学習と解析にディープラーニングを活用すると、99%まで向上させることができたと言う。これは100人にひとりしか間違えない計算で、大きなブレイクスルーとなった。


アニメの線画に自動着色「Paints Chainer」

ほかには、アニメの線画に対してAIが自動的に着色作業を行うシステム(Paints Chainer)を紹介した。アニメの着色に端を発して、現在は風景画なども行えるようになっていると言う。

アニメの線画から自動的に着色するAIシステム「Paints Chainer」

また、ニューラルネットワークによる自然画像の生成の研究にも発展している。同じようなシチュエーションの別の画像を生成して変えていくものだ。ひとつのニューラルネットワークで1000クラスを超える様々な生成を可能にしたシステムは世界で初めてということで、高く評価された。


ぶつからないクルマ

続けて「ぶつからないクルマ」の映像を紹介した。これは自動運転技術の基礎を使って、複数台の模型のクルマがぶつからないように自動的に走行するデモンストレーションだ。以前に展示会で展示されたものなので既に見た人も多いかもしれない。
複数台の白いクルマが走る中で、赤いクルマが1台だけ走っている。注目すべきはこのクルマで、スタッフがラジコンで操作し、白いクルマを邪魔するように走っている。このとき、白いクルマには赤いクルマの存在についての機械学習は行っていない。すなわち、赤いクルマの存在を学習しなくても、コンピュータから見れば不規則に動く赤いクルマを避けながら、白いクルマが走行を続けていくことが可能だということがわかる。これには開発者のひとりである西川氏自身も衝撃を受けた出来事だったとする。高い汎化性能を持つ深層強化学習の可能性を感じるものだ。同時に、ディープラーニングが学習したコンピュータの挙動や判断を開発者自身も把握しきれないことをうかがえる事例だろう。


バラ積みピッキングなど産業用ロボット関連

西川氏はロボット開発に関する技術応用を紹介した。ファナックと共同開発しているバラ積みピッキングの技術や、アマゾン・ロボティクス・チャレンジ(アマゾン・ピッキング・チャレンジ)に出場したときの映像や苦労話を紹介した。

そして最後に、産業用ロボットに対して自然言語で指示をするデモ動画を紹介した。自然会話の認識性能は会話ロボットにおいてもとても大切なものだ。PFNのようにディープラーニング分野のリーダーが自然言語処理の研究をしていることには今後の会話技術の進展に期待を感じずにはいられない。

関連サイト
DLLAB DAY 2018

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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