ロドニー・ブルックス博士が「変なカフェ」でコーヒーを入れるロボットを視察 〜ルンバの開発で知られるロボット研究の権威

ロドニー・ブルックス博士が渋谷モディのH.I.S.内にある「変なカフェ」を訪問し、コーヒーを入れてくれるロボットを視察した。このロボットはブルックス氏らが設立した米「リシンク・ロボティクス」社が開発・販売している「Sawyer」を活用したものだ。そのため、Sawyerにとっては立派になって働いている職場に、遠く離れた場所で暮らす父親が会いに来てくれたようなものだっただろう。(※ちなみに「息子」と表現したが、Sawyerには性別はない)


ブルックス氏は現在お台場で開催中の「ALIFE 2018」のカンファレンスで講演を行うために来日した。同氏はMITの教授をつとめた後、iRobot社でルンバの開発にも携わった。ルンバにはブルックス氏の理論「サブサンプション・アーキテクチャ」が活用されている。また、イラク戦争で地雷除去のために活躍したロボットや知能化研究のための上半身型ヒューマノイドロボット「Cog」などでも知られている。



「Sawyerが工場以外で働くのを見るのは初めて」

「Sawyer」は産業用として開発されたロボットだ。ブルックス氏は「Sawyerが工場ではなく、人々の目に触れる表舞台で活用されているのを見て感激した」と語った。


ブルックス氏は「変なカフェ」に到着してすぐ、スタッフの案内でコーヒーのチケットを購入。チケットのコードをスキャンさせると、Sawyerはブルックス氏に「Welcome to Henn na Café, Dr.Rodney Brooks.」と話しかけ、コーヒーを入れはじめた。
ブルックス氏は「Sawyer」がオーダーに合わせてコーヒーマシン等の機器類のボタンを正確に押すことを評価した。コーヒーを淹れている間に、Sawyerは奥の棚からドーナツを取り出して提供した。コーヒーが提供されるまで同氏はその動きを興味深そうに、ときに笑顔を見せながら視察していた。

視察後、株式会社QBIT Roboticsの代表取締役社長 中野浩也氏が「Sawyerの動きで気に入った部分はありますか」と聞くと、ブルックス氏は「Sawyerがボタンを押して、氷を排出させたり、アイスコーヒーを注文する動きがとても気に入りました。ボタンを押すという繊細な動きが実現できています」答えた。続けてブルックス氏は「ところで、このカフェでは一度に何品目、注文できるんですか」とたずね、H.I.S.の担当者が「ドリップは連続で4つまでです。ドーナッツなどは随時、つかんで提供します」と回答すると、続けて「ここまで開発するのにどんな点に苦労したか」と質問した。中野氏がコップなどをつかんだりする際のダイレクト・ティーチング面やアーム面の制御に苦労したと回答すると、「Sawyerには力加減を制御するフォースセンシング(フォースタッチ)機能がありますが、活用していないんですか(笑)。それを活用すると効率的ですよ」とアドバイスした。


センサー類やSawyerと他の機器との連携にも興味を示し、細かく観察しながら、どのように開発しているのかと熱心に質問をしていた。また「アイスコーヒー」を作る際にSawyerが腕を高く上げてカップを移動させる様子を見て「アイスを放り投げて、カップで受けるパフォーマンスを追加したらどうですか」と冗談も交じえて話した。


現在「変なカフェ」はここ渋谷の1店舗のみ。H.I.S.が「この店舗は実験的な意味合いが強いのですが、今後、ビジネス面でも上手く起動に乗せることができれば全国や海外にも展開したい、そうできたらいいですね」と話すと、ブルックス氏は「それはいい、グローバルでやりましょう」と笑った。

工場で使われているロボットは、精度は高いが単純作業が多い。その点を含めてブルックス氏は「ここではSawyerが持っているポテンシャルを引き出して最も高いレベルで活用されている」と評価した。また、感想としては「産業用ロボットは許可された者だけしか入れない、しかも撮影禁止の工場でのみ活用されてきた。ここではみんなが写真を撮ってくれるし、店舗のスタッフもどうぞ写真を撮って下さいと言う。とても嬉しい」と語った。
視察のあと、ロドニー・ブルックス氏にインタビューする機会を得たので、その様子は別の記事で改めて紹介するのでお楽しみに。

インタビューの内容は別記事にて紹介する予定

■Dr. Rodney Allen Brooks met his son Robot “Sawyer” in Japan.


変なカフェとは

「変なカフェ」は渋谷のモディの地下、旅行会社のH.I.S.(株式会社エイチ・アイ・エス)のフロア内にあるカフェ。H.I.S.が運営していて、同社は「変なホテル」や「変なレストラン」でロボットによる自動化を推進している。


H.I.S.では旅行に関するさまざまな相談や情報提供をこのフロアで行っているが、グループ旅行を検討している顧客の場合は、H.I.S.のスタッフが旅行のプランを提案した後、どこかのカフェで旅行プラン等の検討をすることが多い言う。であれば、フロア内に自社で用意しようということでカフェをはじめた。ただ、そうなるとカフェ専用のスタッフの人件費などが確保できないので、ロボットによる自動化を検討。知見のあるQBIT Roboticsへ相談をした結果、産業用ロボットSawyerにコーヒーをサービスさせるという発想に行きついた。


H.I.S.の利用の有無にかかわらず、一般客が誰でも気軽に入れて利用できるカフェなので、機会があればこの奇抜なアイディアで実現した特別なSawyerを見に行ってはどうだろうか?

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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