自動運転のAI掃除ロボット、導入効果はどれほどのものなのか。
導入企業はその性能に満足しているのか。
ソフトバンクロボティクスのAI清掃PRO「RS26 powered by BrainOS」(以下「RS26」)における、ショッピングモールやJR大阪駅での導入事例が紹介され、導入企業がその効果を「SoftBank World 2018」(ソフトバンクワールド)で発表した。ショッピングモールでは導入により1日あたり作業員4時間分の作業を削減、11%の作業効率化を達成した。また、大阪駅バス乗り場では人がいる場所でも安全に清掃作業が行えることが確認された。
2018年5月から先行導入し、効果を発表したのはイズミテクノ、JR西日本メンテック、阪急阪神クリーンサービスの3社だ。イズミテクノと阪急阪神クリーンサービスは大型のショッピングモールに、JR西日本メンテックは「JR大阪駅」に先行導入した(JR大阪駅では本格導入することを決定)。
■ AI清掃PRO | RS26 powered by BrainOS導入事例 総集編
ショッピングモールでは生産性が11%向上
ゆめタウン廿日市
イズミテクノからは古川氏が登壇し、広島のショッピングモール「ゆめタウン廿日市」(約46,000平米)での導入を紹介した。
同社は清掃業務について、人材不足や人件費の高騰、従業員の高齢化などの課題を抱えていて、生産性の向上と人員確保が急務だと言う。
清掃は開店前に行い、朝6時半~9時までの1日2.5時間、11人で作業を行っていた(合計27.5時間)。スクラバーは搭乗式のものを採用し、人が運転して毎日約3時間実施していた。
モール内は催事やイベントに合わせてレイアウト変更が行われるので、導入前はこれらのレイアウトの変化に対応できないのではないか、という懸念もあったが、導入してみるとよほど大きなレイアウトの変更でない限りは、RS26が障害物を自動的に避けて移動して掃除するので、たいてい時間通りに完了し、順調に作業がはかどった。
実施後の導入効果として、11人で作業していた清掃が、10人で作業できるようになり、1日あたり4時間が削減できた。年間の人件費で150万円の削減効果にあたる(時給1000円で換算)とした。なにより作業者によるバラツキがなく、事故もゼロ、現場の作業員からの評判も良いと言う。
ゆめタウンは68店舗を展開しているので、今後は2018年度で20台、2019年度に50台、2020年までに200台の導入を検討していく、と発表した。
阪急西宮ガーデンズ
同じように大型施設の掃除を行う阪急阪神クリーンサービスからは竹安氏が登壇した。事例としては、阪急西宮ガーデンズ(延床面積247,000平米)での導入を紹介した。
「RS26」を選択したポイントとして、この施設は床や通路など曲線のデザインを採用している箇所が多く、それらに他社の自律型スクラバーは対応できなかったことをあげた。
また、人が乗って掃除ルートを運転するだけで「RS26」がコースを覚えるので(ティーチング)操作が簡単なこと、複数のセンサー類で人や障害物等を避けるので安全であることなどをあげた。
イベント用の装飾品が大きすぎる場合、3m超の障害物は回避できないことなど、課題があったものの、導入効果としては機械洗浄の回数が増えたために清掃品質が上がったこと、自動化により余剰となった時間で、カーペットのしみ抜きやガム除去など、人でないとできない清掃作業を行う時間が増えたこと(これまで行き届かなかった清掃範囲へ視野を広げることができる)などを上げた。
人がいる待合場所でも自動運転をこなすRS26
JR西日本メンテックは「JR大阪駅」での導入事例を紹介した。同社もまた、他の2社と同様に「労働力不足が深刻化」していると言う。
大阪駅では高速バスターミナルの乗り場と大阪駅構内の通路部分をRS26が担当した。驚いたのは、バス乗り場では深夜バスの発着もあるため、乗降客、待合客がいるところでも自律運転が稼働している点だ。
導入した結果として、人がいる場所での掃除も安全面では問題はなく、出来栄えの安定性が高いことをあげた。バス乗り場では足を投げ出している人を避けたり、通行する人を検知して一次停止しながらも清掃を順調に続けたと言う。
課題としては誘導ブロックは清掃時の水の吸い上げがうまくいかない場合があり、今後の対策が必要だと語った。
その点は自律運転の課題ではなく、運転式スクラバーの清掃能力の改善に関わる部分だ。自動運転部分では、特定の場所、例えば強く光が一方から挿し込む場所や、RS26自身ガラスに写り込んだ姿を人などの検知して停止したり速度を落とす、といったこともあったと言う。
更に現場の声として「ティーチングが非常に簡単であること」「自動運転では壁際30センチは安全上清掃しないが、作業員が乗って帰る際に手動操作で壁際も清掃して帰ることでより効率的に作業することができる」と言ったことを紹介した。
今後はこういった課題に対してもデータが蓄積されれば、改善されていくだろうと期待していると語った。
バス乗り場などの待合所で、人がいる時でも自動で掃除作業が安全にできるという点は大きな知見になるし、導入を検討できる企業も増えるのではないかと感じた。人手不足が深刻な清掃業界にあって、自動運転のAI清掃ロボットの実績や普及は大きな福音となる。
■ RS26 導入事例(SoftBank World 2018のセッションより)
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。