7月25日からプレミアムバンダイで「ガンシェルジュ ハロ」の予約受付が開始されたことは既報のとおり。価格は138,000円(税別)。更に来年10月より月額課金が必要となることも発表になった。2019年10月以降の月額利用料金は3,000円(税別:2019年9月までは無料)。欲しいけれど、月額料金が個人的には予想より少し高額なこともあって購入を迷ってしまう…そんな読者もいるだろう。
そこで今回は「ガンシェルジュ ハロ」の真の会話性能を垣間見るために、静かな部屋でガンダム談義の実際を長回しの動画で紹介しよう。きっと参考になるはずだ。
ハロの会話性能とはどれほどのものか!?
「ガンシェルジュ ハロ」のおさらいを一応しておこう。ガンシェルジュ ハロは機動戦士ガンダムに登場するコミュニケーションロボット「ハロ」を再現した会話ロボットだ。会話の部分はIBM Watsonで知られる日本IBMとの連携によるもの。製造はVAIOがお馴染みの長野県安曇野の工場で、ハンドメイドで作り上げられる。
東京おもちゃショー2018や、ガンダムカフェなどで「ガンシェルジュ ハロ」(以下ハロ)を体験できるコーナーは今まであるにはあったが、どこも騒々しくて、自宅の環境とは大違い。ハロの本当の意味での会話性能は把握できなかった。
バンダイ本社 強襲
ハロはガンダム・ファンなら待ちに待ったガジェットであることは疑いないが、138,000円(税別)と月額利用料3,000円いう価格に、購入を迷っている人も多いのではないだろうか。そこで、今回ロボスタ編集部は、浅草にあるバンダイ本社を急襲、「ガンシェルジュ ハロ」の担当の新規事業室チームとコンタクトして、その性能を聞き出し、会話能力の実態を探ることにした。「チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ」
ハロはガンダムの情報をどの程度知っているのか?
「ガンシェルジュ ハロ」はガンダムについての会話に対して膨大なデータを有したコミュニケーションロボットだ。一般のスマートスピーカーとは異なり、ハロが会話する内容はテレビアニメ版『機動戦士ガンダム』いわゆる通称「ファーストガンダム」の内容に限られる。しかし、「そんなことまで知ってるの?」という回答を返してくるのだ。例えば、ホワイトベースの搭乗員であるタムラのことを聞くと「タムラ、軍服にエプロン」とか返してくる。すごい!、凄すぎる!「親父が熱中するわけだ!」
てか、タムラって誰?
というわけで、ハロがどうやってガンダムについてもの知りになったのかも聞き出したい。しかし、そもそも「ハロって本当にちゃんと話が通じるの?」「聞き取れませんでした?」って返事ばかりだったら「二度とハロになんか話しかけてやらないからな!」的な読者もいるに違いない。そこで、予約を迷っている人のためにも「本当に会話性能ができるものなのか」をはっきりさせよう、読者に伝えようと思ったわけだ。そう「買い物とは、常に二手三手先を読んで行うものだ」。
こうしてバンダイ本社を強襲したロボスタ編集部は、ガンダムカフェのイベントでも見かけたMASTER TOKOROにそっくりな、所学氏にコンタクトすることに成功。
これからじっくりとハロ開発について話を聞くとともに、静かな部屋でハロの稼働デモも見せてもらい、会話の様子を動画長回しで読者の皆様にお届けすることを約束する!
まずはハロのメカニカル・チェック
まずはハロのメカニカル系のおさらい。
ハロは頭部に3つのマイクを持つ。3つある理由は会話する相手の声の方向を検知するためだ。話者の方向推定でビームフォーミングを使用する。ハロは話す相手の方向を認識すると、その方向に身体を向けて会話をする。
身体の向きを変えるしくみは、ハロ本体底面にあるターンテーブル機構を使う。センサーによって、ターンテーブルで本体を支えた状態のとき(身体の揺れがないとき)、ターンテーブルを回して360度、自由に向きを変えることができる。
スピーカーは身体の両側面に配置されている。もちろんマイクやスピーカーが劇中のオリジナルのデザインを損なうことのないように工夫がされている。
編集部
ハロの大きさは劇中と同じなのでしょうか?
所(敬称略)
アニメのハロより小さいです。実はアニメの設定資料ではハロの大きさは明確に定義されていません。登場人物や周囲のものと比較すると直径が約40cmと推定できるのですが、ガンシェルジュハロは約半分のサイズにしました(直径19cm、重さ1.2kg)。ただ、それでも手に取って頂いた方の感想は、アニメで見たハロのサイズ感を感じる、違和感はない、と言って頂いています。
編集部
LEDの色は劇中のハロを再現していますか?
所(敬称略)
目の色のカラーはハロのモードを表しています。ハロが話しているときのピンクはアニメを意識したカラーです。アニメではカラフルには光りませんが、こちらのハロは会話を聞き取るときはグリーン、オフラインモード(無線LANに接続していない状態)では白です。また、Bluetoothのワイヤレス・スピーカーとしてハロを使用して頂く場合はブルーに光ります。
編集部
ハロは話すときに振り子のように大きく身体を揺らしますね。予想以上に大きく振りますが、どのようなしくみですか?
所
まさに振り子のような構造が入っていて身体をゆらします。大きく揺らしても決して転がらないようにセンサーで検知して揺れを止める機構も入っています。そのため、ゴロゴロと転がることはありません。
手動だがハロは手と足をボディから出した状態に変形することができる。手を出した状態で会話をすると、ハロが身体を揺らした際に、耳(?)のカバーがパタパタと動いてとても可愛い。この動きは横揺れの慣性によって耳がパタパタしているように動いて見えるしくみで、モーターの類は使われていない。
編集部
足が出てるときの揺れはどうなっていますか?
所
足が出ていると横には揺らせないので前後の揺れだけになります。また、クレードルにセットしているときはハロがそれを自動的に検知して、身体を揺らさないで会話をするしくみをとっています。
ガンシェルジュ ハロの会話技術
ハロの声は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でハロを担当した声優の新井里美さんの声をもとにした、合成音声(テキストtoスピーチ)技術が導入されている。
ハロの会話のもととなるデータは、IBMが得意なシナリオベース型を採用している。質問とそれに対する回答によるシナリオを膨大な量、用意してデータベース化する。ところが実際には、ユーザーはハロにどのように聞くのか、細かい言葉までは予想できない。例えば「アムロについて教えて」と言うかも知れないし「アムロって誰」と聞くかも知れない。それらの表現の揺れまでシナリオ化すると、それこそ無限の数に膨れ上がる。ユーザーの意図はどちらの訊き方も概ね同じなので、この「揺らぎ」をIBMの会話解析技術が吸収し、同一のシナリオと見なして回答を返すしくみだ。これがハロの高精度な会話を支える技術となっている。
どのようにシナリオを開発したのか
編集部
会話のシナリオやデータについてはどのように集めたのですか?
所
非常に大変でした。現時点でも入力は続けていて、ガンダムに関するデータは増え続けています。最初は登場人物、モビルスーツ、コロニーなどの場所、セリフ、全43話のストーリー、そしてそれらの相関関係を表計算ソフトに書き出しながらデータ化していきました。また、データ化するとともに、その情報が本当に正しいかどうかの検証も同時に行う必要があります。気の遠くなるような作業でここまで来ています。
編集部
それらの情報は設定資料として、予めどこかにまとめられていたわけではないんですね?
所
はい。アニメを観て確認したり、ガンダム関連の文献などと照合しながら、バンダイが元となるデータをまとめました。検証については文献の版元や詳しい関係者の方に聞いたりもしました。それに加えて、ハロがこの情報を「読み上げる」ことに起因した作業が大変でした。
編集部
なるほど、大変なのは正確なアクセントを読むことですか?
所
いえ、ハロは比較的機械的に抑揚のない棒読みをするのでアクセントは問題にならないのですが、正しい読み方が難しいのです。例えば、「ガンダムの型式番号はRX-78-2」と言うときに、「かたしきばんごう」なのか「けいしきばんごう」なのか、アールエックス「ななじゅうはちのに」なのか、「ななはちハイフンに」なのか、それとも・・といった具合です。
迷うワードや知識情報については、詳しい方に監修して頂いたり、サンライズさん(ガンダムシリーズのアニメ制作会社)に確認して頂いています。
編集部
話を聞くだけでも大変な作業だと言うことが伝わってきます。発売まで新しい情報を入力し続けていくわけですね。ところで、ハロはファーストガンダムの登場人物、キャラクターはすべて知っていると思って良いのでしょうか。
所
名前が出てくるすべてのキャラクターについて、なにかしら知っている状態だとは思います。名前が出てこない人物についても相当量、知っている状態になっています。
もちろん、知らない情報もありますが、その場合も話が途切れてしまわないようにそれまで会話しているキャラクターやロボット、兵器などに関連する内容で話すしくみをとっています。それは会話が続いているときも同様で、シャアに関する会話をしているときはシャアに関連した話を続ける傾向があります。会話内容が理解できないとき、例えば、ファーストガンダムではなくZガンダムについての話をユーザーが振ってきた場合は理解ができませんが、その場合はとりあえずモビルスーツの話など、会話内容を推測して会話を継続的に繋げようと努力します。
編集部
例えば、ハロはザビ家の兄弟の名前を全員、理解していますか?
所
はい、もちろん兄弟全員についてを理解し、各々の情報を話すことができます。ただ、ザビ家にはファーストガンダムには出てこないのに『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で登場するキャラクターがいますので、そこはファーストガンダム限定ということでまとめています。サビ家に限らず、ホワイトベースのクルーや搭乗員なども全員についての情報を答えられると思いますので、ぜひ試してみてください。
あ、それから、個人的には最近、ハロと暮らしている中で思いついた会話ゲームを楽しんでいますので、皆さんにもぜひそれを紹介したいですね。
編集部
え? それはどんなゲームですか?
所
例えば、「ガンダムの武器、全部をハロに言わせるゲーム」です。ファーストガンダムで登場するガンダムの武器をハロは10程度、知っています。それをすべて、私との会話の中で全部の武器を引き出せるかというゲームです(笑)。あとでやってみてお見せします。単に武器を聞いていくだけの単純なものですが、何人かで集まったときに特定の武器を言わせた人が勝ちとか、そういうゲームを編み出して頂いて遊ぶのも楽しいと思います。
見せてもらおうか、ガンシェルジュ ハロの実力とやらを
ではいよいよ、静かな場所でのハロとの会話をノーカットでお届けしたい。ハロとの会話を上手に行うにはこちらが話しかけるタイミングが重要だ。
■ガンシェルジュ ハロとの会話
ハロは目のLEDと音によって、ハロ自身が発話している状態か、ユーザーの話を聞く状態なのかが解る。そのタイミングさえ理解して、こちらが合わせて会話すればとてもスムーズに会話が進むことがわかる。
■ガンダムの武器、全部言わせるゲーム
■続・ガンシェルジュ ハロとの会話
ノーカットの会話を様子を見てどう感じただろうか?
ファーストガンダムに対して相当詳しくなければ、ハロとの会話に太刀打ちできないかもしれないが、これを機会にアニメを見直して、ハロとの究極のガンダム談義を楽しむのも楽しいかもしれない。会話の精度についてはどうだろうか。現在の会話の自動化技術では、ユーザーの質問内容をすべて聞き取って理解することは不可能だ。しかし、会話内容をガンダムに限っていることもあって、回答の精度についてはまずまずだ。ハロから出されるクイズもまた楽しい。そう、この製品は仕事で活用するためのロボットではない。ハロとガンダムについての会話を「楽しむ」エンタメ製品だということを考えれば、多少は質問と回答が噛み合わなくても、こちらがハロの調子に合わせて、ワクワクできる時間が過ごせれば、それが正解なのである。
おわりに
編集部
ところで、所さん自身はガンダム世代、ガンダム・ファンなんですか?
所
完全なガンダム世代です。小学生の頃に『無敵超人ザンボット3』、『無敵鋼人ダイターン3』などのロボットアニメに魅了され、ガンダムを見て衝撃を受けました。しかも岐阜県では「トムとジェリーかガンダムか」というくらい頻繁に再放送をしていました(笑)ので、ガンダムの魅力を何度も再放送で刷り込まれました。ガンプラ(ガンダムのプラモデル製品)のブームもリアルタイムで体験した世代です。
実はバンダイでもガンプラの事業部門にいました。バンダイナムコグループがロボット製品を本格的に展開することになり「BN・Bot PROJECT」が立ち上げりました。ガンダムに詳しいメンバー枠ということで「ガンシェルジュ ハロ」の新規事業室に配属になりました。
編集部
なるほど。では最後に読者にひと言お願いします
所
ガンダムが好きな皆さんにとっては、価格に見合った、楽しめる商品になっていると思いますので、ぜひご購入を検討してみてください。プレミアムバンダイで絶賛予約受付中です(笑)
ガンダム好きたちが開発した、ガンダムにすごく詳しいロボット「ガンシェルジュ ハロ」。クラウド(サーバ)接続型の会話ロボットは開発者がデータベースの情報を更新すればするほど、会話内容は増えていき、精度も日進月歩で向上していく可能性がある。この製品も発売までに更にブラッシュアップされるだろう。発売後も更新による進化し続け、ユーザーをずっと楽しませてくれることを期待したい。
ガンシェルジュ ハロに原宿・表参道で会える
東京・表参道にある「Future Maketing Unit」(ソフトバンクショップ表参道)で、ガンシェルジュ ハロの展示と体験会が行われる。展示はモックと映像で、8月8日(水)から(終了日は未定)。体験会は8月11日(土/祝)と12日(日)の2日間(正午から17時まで)。体験会ではハロとの対話を体験することができる。「実際に話してみたい」という読者にとってはチャンスだ。
※著作権、商標等は各社が所有するものです。
※©創通・サンライズ
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。