【未来的】モビリティ・ロボ「WHILL」に研究開発モデル登場!オムニホイール機構、遠隔操縦、分解などを体験してみた

季節の変化に気づく…
移動手段が乏しいと、当たり前と思っていたことも失われてしまいがちだ。
車椅子を使っての移動は段差や砂利道など、多くの障害に阻まれ大変な作業だった。また、車椅子で移動するという心理的なバリアも足かせとなって、「100m先のコンビニに行くことさえ諦めてしまう」という声もあった。

当たり前と思っていたことを再び感じることができるように、暮らしを変えるクルマとして「WHILL」(ウィル)シリーズは誕生した。身障者や高齢者の移動を支援するだけでなく、すべての人にとって移動を楽しくスマートにすることを掲げて商品化された。解りやすく言えば「電動車いす」に分類されるが、インテリジェンスに進化したこのWHILLは「モビリティ・ロボ」という言葉こそがしっくり来る。


ロボスタ編集部にやってきたスタイリッシュなデザインの「WHILL Model C」。希望小売価格 45万円(非課税)。アームカバー部のカラーバリエーションも豊富で、広島東洋カープとのコラボモデルも発表されている


WHILLってなに

開発・販売している企業の名前も製品と同様に「WHILL」だ。2012年に創業した、6年目のベンチャー企業だ。日産、ソニー、オリンパスを退職した3人で起業した。
WHILLシリーズの初号機は「WHILL Model A」。四輪駆動のパワーモデルとして登場した。

WHILLシリーズの初号機「WHILL Model A」

2号機となる「WHILL Model C」は2017年4月に発売。主に下記の点が変更になり、より身近な存在となるとともに現在では同社の主力製品となっている。

・後輪駆動(二輪駆動)
・コンパクト性の向上と軽量化
・収納性を高めた分解機能
・カラーバリエーションの追加
・3G回線搭載によるサービス提供
・低価格化


WHILLはいずれのモデルもスタイリッシュで従来の車いすのイメージとは大きく異なる。このデザインは大きく評価され、世界的な賞である「Red Dot Design Award」の「Best of the Best」(最優秀賞)や、2017 年度の「グッドデザイン賞」、「iF Design Award」など国内外で入賞した実績を持つ。技術面でも評価され、北米モデルであるWHILL Model Ciは「CES 2018」で「Best of Innovation Award」に輝いている。

そして、今回ロボスタで紹介したいのは研究開発モデル「WHILL Model CR」だ。デザインや基本機能は「WHILL Model C」と同じで、研究開発者向けバージョンとして昨年12月に追加された。量産型のModel Cをベースにしつつ「RS-232C」のインタフェースが追加され、各種センサーと連携したり、データの取得が可能となっている。SDKとして研究開発者向けデータシート(設計シートやサンプルデータ)、テラタームが提供される(要問合せ)。
Model CRの価格は75万円(非課税)。購入を考えている人向けの短期レンタル(2週間 3万円)もある。


羽田空港での実証実験

モビリティ・ロボはそもそも、どのようなニーズに向けて開発が可能なのかを見ていこう。それにはパナソニックとの取り組みがひとつの例となるだろう。パナソニックとの取り組みとは、東京国際空港ターミナル、日本空港ビルデング、日本電信電話株式会社(NTT)の協力で「羽田空港のおもてなしソリューション」のひとつとしてロボット電動車いすを導入する実証実験だ。

このときのベースモデルは「WHILL Model A」を使用しているが、Model CRも同様に研究開発を目的とし、ビジネスでの応用を想定して誕生したと考えてよいだろう。Model CRには開発者が独自にカメラや各種センサーなどを装備することが想定されている。運転支援や自動運転型のソリューションの開発や提供も可能になるのではないだろうか。


WHILL Model C の特長

「WHILL Model C」に実際に乗ってみて、操作が簡単で、動作音が静かだと感じた。次に機能面での特長を含めて、「WHILL Model C」のポイントを紹介しよう。


オムニホイール

もっとも大きな特長が前輪のオムニホイールだ。大きな前輪には段差に強いというメリットがあり、WHILLは5cmの段差を超えることが可能だ。通常の車いすは前輪が小さいこともあって段差を乗り越える性能は高くない。
前輪が大きいと通常の構造ではデメリットも多い。通常の構造で大きなタイヤにすると、タイヤが左右に動かす舵角の分だけ、足元を狭く設計することが強いられる。ところが、WHILLの前輪は舵角がない。前輪は直進の状態のままWHILLは方向を変えることできる。そのため足元を広く設計することができる。これはオムニホイールを採用しているためだ。
遠目には大きな前輪が左右に配置されているように見えるが、よく見ると24個の小さなタイヤでひとつの車輪を構成しているのがわかる。


これは小さな輪切りのタイヤを横向きに繋げて大きなタイヤを作っているようなもの。小さなタイヤがボディに対して横に回るので、前輪は真横に動くことができる。その結果、小回りの効く回転(転回)半径、約76cmを実現している。


■WHILL小回り性能


操作が簡単

運転操作は右手のジョイスティック状のコントローラだけで行うことができる。直感的に操作できるので、初めて体験した著者でもすぐに乗れるようになった。

右手の位置にあるジョイスティック状のコントローラで簡単に操縦することができる

次の動画を見ると、動作の静寂性、操作が簡単なこと、回転半径が小さいことがわかると思う。

■WHILL の操作性、転回性能


遠隔操縦

スマートフォンのアプリを使って、リモコン操作のように遠隔運転を行うことも可能だ。足の不自由な人がアプリの操作によって自分でWHILLをすぐ近くまで来させることができる。人の手を借りなくても、車いすにいつでも乗れる可能性が広がることになる。(スマートフォンとはBluetooth LEでの接続)

■WHILL 遠隔操縦


分解して持ち運び可能

WHILLは3ステップで分解が可能なため、クルマのトランク等に入れて持ち運ぶことができる。「家族と一緒に気軽にクルマで出かけたい」そんな思いに応えた機能だ。

車輪部(下部)と椅子部(上部)に分割したところ。更に細かく分解も簡単にできる

また、バッテリー(リチウムイオン)も簡単に脱着できる。20リットルのカゴを装備しているので、予備のバッテリーをカゴに入れて置くこともできるだろう。なおバッテリーは5時間の充電で16kmの距離走行が目安となる。


■WHILLの分解性能



主な仕様

最高速度は6km/h、連続走行距離(バッテリー)は16kmだ。登坂性能は10度、段差は5cmが目安となる。前輪はオムニホイールで後輪はノンパンクタイヤ。
なお、サイズは 550 × 985 × 740-940mm、重さは52kgとなっている。



感想

父親が突然に脳梗塞で倒れた後、下半身が不自由になってしまったために車いすで移動させていた経験が著者にもある。あの無骨で不便だった車いすが、最近ではこれほど使いやすくスタイリッシュになっていることに驚いた。スマホを使って自分のそばに呼ひよせられる機能も魅力的だ。
研究開発モデルの場合はそのような用途に限らず、研究や開発、ソリューションにも活用できる。自動運転やIoT関連製品に注目が集まる中、5cmの段差も超えることができて人が乗れるモビリティ、そんなプラットフォームを求めている開発者や企業の方は、このWHILLを検討してみる価値はあるだろう。


関連サイト
WHILL 株式会社

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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