防犯と接客を同時に実現する巡回Pepper「UNIBOT by Pepper」の実証実験の結果が公表された。Pepperが店内を巡回し、声掛けを行うことにより、万引き等による商品のロス率が66%低下した。また、集客にも効果が現れ、集客率は20%以上増加、売上でも約5%の増加が確認できた。
移動するPepperの活用事例
最近のニュースでは、イオンフィナンシャルサービスがイオンカードの店頭接客に移動するPepperとミラー型AIサイネージを連携して活用する記事をロボスタでも取り上げたが、7月に開催されたソフトバンクワールドでも、Pepperの移動機能を活かした2つのソリューションが紹介されていた。ひとつはユニボット株式会社が開発したPepperの接客・警備アプリ「UNIBOT by Pepper」、もうひとつはX-mov Japan株式会社が開発した「SLAM for Pepper」を介護施設での活用する実証実験の事例だ。今回は、ユニボットの接客・警備アプリを紹介しよう。
・対話や動画再生によるお客様対応
・顔認証機能による登録者との親近感を高めるコミュニケーション
・店舗での万引き抑止などの警備
Pepperはもともとオムニホイールと呼ばれる機構の移動能力を持っている。しかし、従来はおそらく「万が一、人とぶつかったらどうする」「倒れたら大変」などの理由から今までは実践でほとんど利用されてこなかった。しかし、研究レベルではソフトバンクロボティクスや新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)、生活革命、全日空、システナらが取り組み、実証実験なども行われてきた。そういった移動の知見が蓄積されてきたことや、Pepperが標準システム(OS)レベルでSLAM(ロボット等の自律移動技術)に対応したことが背景にして、いよいよ移動機能を前面に押し出したソリューションが生まれ始めた。筆者も個人的には移動できる機構はPepperの大きな魅力のひとつだと考えているので、このような移動できるシステムが登場するのは大歓迎だ。
ロボットが接客・警備を行うシステム「UNIBOT」
SoftBank World 2018の「移動の実現でPepperの仕事が拡がった」という講演でユニボットの代表取締役である大槻氏が登壇し、システムの概要の説明と、実証実験の結果を公表した。
ユニボットの大槻氏はソニーでCDやMO、初代AIBOの開発に携わってきた。また、NEDOではユニット長として日本のロボット・AI戦略の立案にも関わった。ユニボット社はユニティガードシステムから分割独立して半年。顔認証、画像認証を得意とし、人工知能技術やロボットの開発を行っている。
万引きによる被害は年間1兆円
大槻氏によれば国内の「万引きによる被害は年間1兆円」にものぼり、「盗難対策費は1.14兆円」と言う。万引き防止のために、通称万引きGメンと呼ばれる警備関係の人が万引きの防止につとめている。万引き被害が大きいため、万引きGメンに対する需要は高まっているものの、経験や勘に頼った特殊な能力が求められ、犯罪者に反撃される可能性もあり、人材が集まらない、という課題を抱えている。また、人材不足に伴う高齢化も深刻だ。であれば、その業務をロボットで代替できないか、と取り組みを始めた。
万引きの抑止で最も有効なのが「声掛け」だ。店内では店員による声掛けを行うことで抑止効果があると同様に、ロボットによって巡回と声掛けを行うというわけだ。ロボットにはPepperを選択し、ユニボットはロボアプリを開発、Pepperの移動機能も活用する。
Pepperの巡回はマーカー方式
巡回は決められたマークに沿ってPepperが移動するしくみのマーカー方式だ。決められたルートを忠実にトレースして移動するのに適した方式だ。ただし、万引き防止の用途の場合、同じルートを決められた順番で回るだけでは、万引き犯にロボットの行動を予測されてしまうので、ルートはシステムがランダムに選択、変更しながら巡回できるという。
技術的なしくみとしては、巡回をしながらPepperは額にあるカメラで撮影、データをWi-Fi経由でクラウドに送信する。もし、Pepperが撮影した人物が要注意人物として登録されていれば(似た人物であれば)、店員にアラートで知らせる機能がある。また、声がけをする対話モードにすることもできる。要注意人物として登録されていなくても設定した一定時間ごとに来店客に声がけを行うことも可能だ。
万引きの抑止効果は60%減を達成
福島市にある「宮脇書店ヨークタウン野田店」で行われた実証実験の結果も公表した。期間は2017年1月20日~2月19日の1ヵ月間で、書店の規模は約300坪だ。
実証実験の結果、UNIBOTの導入によって「集客」と「万引き防止」の両方で効果が確認できたと言う。「集客」についてはもの珍しさ、店に適した声掛け、来店している子どもが親を連れてくる、などの効果によって集客率は20%向上、商品の購入者数は約7%増加した。売上では約5%増加した。
万引きの抑止効果は商品のロス率で確認した。ロス率とは、万引きや盗難、店員による持ち帰りなども考えられると言うが、UNIBOTの導入後の商品ロス率は66%も低下した。一定以上の成果が出たと言えるだろう。
UNIBOTでは、Pepperを使わず、防犯カメラと顔認証を使ったソリューション「UNIBOT by Camera」の提供も行っている。
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ユニボット株式会社
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。