英国Arm Limited社(アーム)は小型のデバイスの頭脳となるチップ技術を開発し、ライセンス供給してきた。その数は全世界で累計1千億個(2017年の集計)を超える。アームの技術を利用している代表的なデバイスはスマートフォンだ。iPhoneやAndroidスマートフォン、タブレットなどにはほぼすべての端末にアームの技術が使われている。最近ではディープラーニングなどの機械学習やそれを活用する高速な演算能力を持った次世代チップを開発することも表明している。
そして、そのアームは現在、IoTデバイス向けのチップ技術に注力している。IoTの市場規模はこの先も更に成長し、2035年に1兆個のデバイス接続が繋がると予測する。
本日、8月22日、アームはその市場を大きく変革するプラットフォーム戦略となる、業界初のエンド・トゥ・エンドなIoTプラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform(アーム・ぺリオンIoTプラットフォーム)」を日本市場へ提供することを発表した。このプラットフォームは先頃アームが買収したトレジャーデータ社の技術とサービスが中心となるものだ。報道関係者向け発表会には、アーム社とアーム・トレジャーデータのほかに、ゲストスピーカーとしてソフトバンクの宮内社長が駆けつけた。また、トレジャーデータを利用しているクライアント企業を代表して、ジョンソン・エンド・ジョンソン、SUBARU、ソニーマーケティングの各社が登壇した。
Arm Pelion IoTプラットフォームとは
今回、発表されたサービスは、デバイスからデータまで一貫して管理できる業界初のエンド・トゥ・エンドの「IoTプラットフォーム」だ。登壇した同社のディペッシュ・パテル氏は「IoTの本当の価値は世界中のネットワークに接続されている数十億個ものIoTデバイスの内側に存在している。しかし、IoTデータ単体には価値はない。そのデータをいろいろなデバイスから収集したデータや企業が持っているデータと組み合わせて初めて大きな価値が生まれる」とした。
重要となる3つの管理
パテル氏はIoTの活用例として、工場の機器管理、環境管理、故障予知、オペレーションの最適化(運送事業者の効率化など)をあげた。アームはIoTデータの収集と運用、活用において重要となる3つのポイントとして「デバイス管理」「コネクティビリティ管理」、そして「データ運用管理」を掲げた。この3つを「Pelion」は支援していくプラットフォームとなる。
スマートフォンや様々なセンサー、カメラなど、IoTデバイスは無数に存在し、その種類はバラバラだ。まずはそれらを上手に管理運用していく必要がある。次にそれらデバイスを接続しているコネクティビティもまた様々だ。Bluetooth、Wi-Fi、4G、LoraWANなど、あらゆる接続方法に対応し、運用管理していく必要がある。
そして最後の「データ運用管理」は更に重要であり問題は深刻だ。そこから吸い上げられるデータは膨大であり、そのデータを蓄積する場所もローカル、クラウド、オンプレミス、それらのハイブリッドとさまざまだ。それらを統合管理していくことがとても大変で現状では困難であり、大きな課題となっている、とした。
そして、その課題に対するソリューションがシリコンバレーで活動しているトレジャーデータ社のサービスであり、アーム社が買収して提供することで、3つのポイントを「Arm Pelion IoT Platform」としてサービス提供していく、というわけだ。
2種類のデータをミックスして価値を生み出す(トレジャーデータ)
トレジャーデータ(Treasure Data)社は創業から7年の会社で、現在の社員数は約200名。先頃アームからの買収が成立した。芳川氏が登壇して、今後はアームの一員として「Pelion」を支援していくと語った。
芳川氏は、現在IT業界をリードしている企業を「Disrupter」(破壊者)と表現した。フォーチュン500にランキングされているランカーを引き合いに、1955年はランクインし続けられる平均年数は75年だったのに対して、2015年は平均年数で15年程度に減少している、と言う。大企業が長期にわたって好調な業績を維持し続けることが困難な時代になっていることを示唆したものだ。
Netflixはもともとビデオレンタル店だったし、Amazonはオンライン書店に過ぎなかったが、現在では世界が注目する大企業であり、業界のトップ10ランカーになっていると説明し、それら成長する企業の理由として「成功している企業はマーケティングを属性や層で捉えず、個人ベースの顧客理解を中心に、徹底した個別マーケティングを行っている」と語った。さらに「データには大別して顧客(人)データと、デバイスが収集したデータの2種類があり、近年はその2つを統合することで、顧客に適した情報や新たな価値を生み出す動きが出てきている」とした。
その一例として「テレマティクス」をあげ、自動車会社と保険会社によるデータのコラボレーションを紹介した。テレマティクスとは主に自動車や輸送車両などの情報提供サービスを指す。自動車会社はクルマの走行ログを中心とした膨大なデータを収集することができる。保険会社の契約者データと合わせることで、「未成年の男性は事後率が高い」等といった年齢や属性だけに頼った予測ではなく、実際の走行ログも加味した個人ごとの高精度な予測が行えるようになる。このように「人のデータとデバイスのデータをミックスして有効に活用していくことでビジネス・インキュベーションが起こる」と話した。
収集したデータを企業が有効活用できるように先導したい(ソフトバンク)
続いて登壇したソフトバンクのCEOである宮内氏は、「ソフトバンクは今年の5月にトレジャーデータ社との協業を発表したが、この度、グループの一員として迎えられたことを大変うれしく思う」とコメントした。
「この10数年、スマートフォンによる大きな変革が起こったが、これから数年はスマートフォンの普及よりも速いスピートで、エンタープライズ分野でのIoTが一気に加速していくだろう」とした。同社は宮内氏の掛け声で「まずはIoTのプロジェクトを1000個やる」と宣言したが、既に約200プロジェクトが動いていて、今後、IoTデバイスが収集した膨大なデータをどのように企業が利用できるものにしていくか、さのソリューションが一層問われていく。コネクティビティとデバイスの管理に加えて、トレジャーデータによるデータ運用マネジメントの基盤となる「Arm Pelion IoT Platform」をそのひとつとして捉えたい。今日の発表は非常に重要なものになる、と語った。
Arm Pelion IoTプラットフォームの詳細
企業では現在、IoTデバイスからデータにいたる全体のフローを全面的に管理できる「IoTプラットフォーム」が必要とされている。こうした状況に応えるため「Pelion」は、IoTのコネクティビティ、デバイス、データの包括的管理が可能になる業界初のプラットフォームとしてリリースする。膨大なIoTデータからビジネスに役立つ価値を導き出すソリューションになることが期待されている(同プラットフォームは、前述のように米Treasure Data社と、更に英Stream Technologies社の買収、そしてアーム社内の技術革新の組み合わせによって誕生した)。
エンド・トゥ・エンドなPelion IoT Platformは、顧客がIoTのデータから貴重な知見を得られるよう以下の機能を提供する。
・ネットワークに接続されたIoTデバイス群を単一のユーザーインターフェイスで包括的に管理することで、オペレーターにとっては、リアルタイムでの意思決定が可能
・すべてのコネクティビティ、デバイスの使用状況、コストを統合的に表示する、シンプルな管理・請求機能
・コネクティビティ管理とデバイス管理の画面を切り替え
・コネクティビティ・サービスを活用することで、制御プレーンとデータプレーン向けにデータ・トラフィックを最適化
・共通のプラットフォーム抽象化により、さまざまなハイブリッド環境での実装に対応
Arm Pelion IoT Platformが提供するコネクティビティ管理、デバイス管理、データ管理の各機能についての特長は以下の通り。
・IoTデバイスの実装場所に関わらず、ライフサイクル全体にわたってデバイスの接続と管理を実現
・エンタープライズ、機器メーカー、システムインテグレータ、その他パートナーに向けて、単一のモビリティ契約でコスト効果に優れたフルマネージドのサービスとサポートをグローバルに提供
・eSIMオーケストレーション機能により、セルラー、LoRa、衛星コネクティビティのプロトコルを通じ、600以上のプロバイダー・ネットワーク上で、デバイスのオンボーディングを容易に実現
・既存のインフラストラクチャやシステムのオーバーレイを使用した、初期設定不要のコネクティビティ管理機能
・単一インターフェイスによる、コネクティビティ管理、請求、コネクティビティ分析機能の提供
多種多様なIoTデバイスを効率的・柔軟に管理し、デバイス認証によって信頼関係を確立してセキュリティを管理、フィールド内でデバイスをアップデート
制約が非常に厳しいデバイスから、制約のあるデバイス、制約が比較的緩やかなメインストリームのデバイス、制約が緩やかな高機能ノード/ゲートウェイ装置にいたるまで、あらゆる種類のデバイスを対象に、デバイスの多様性をサポートし、複雑性を解消
オンプレミス、パブリック、プライベートのクラウド環境とハイブリッド環境を対象とした、柔軟な実装オプション
セキュアなオンボーディング、プロビジョニング、OTAアップデート、ライフサイクル管理、クラス最高のセキュリティ機能により、デバイスの脆弱性を軽減
高信頼性のTLSセキュリティ通信により、デバイスとデータの信頼性を確保
ArmのPlatform Security Architecture(PSA)との連携により、デバイス・データ間のフローと製品ライフサイクル全体を通じ、セキュリティを実現
・包括的なデータ・パイプラインを通じ、あらゆるソースからのデータ収集、フォーマットや期間を問わない、IoTデータとエンタープライズ・データの統合、BIツールとの直接的な連携による分析を実現
・異種混在のIoTデバイス(制約が非常に厳しいセンサーから高性能のエッジ・ゲートウェイまで)を対象とした、高信頼性データのスキーマレスな取り込み
・異なるソース(デバイス、エンタープライズ、サードパーティ)から得られる大量のエンタープライズ・データを統合・保存
1秒あたり200万件のイベントを処理、1日あたり数十万件のクエリと50兆件のレコードを処理することで、ビジネス上の価値につながる知見を大規模に取得可能
・ストリーミングデータと保存されたデータの両方に対する暗号化に加え、データの許可とアクセス権のコントロールを通じ、実用的な高信頼性データをセキュアに提供
Pelion IoT PlatformとArmのIoTデバイスIP、Kigen、Mbed OS、およびPSAの組み合わせにより、デイバス・データ間のあらゆる要素を対象に、複雑性の問題をセキュアに解決する業界唯一のIoTソリューションが実現する。顧客企業にとっては、自社のデバイスをより迅速かつセキュアに実装、接続、アップデートしつつ、高信頼性の有用なIoTデータにより迅速にアクセスするためのテクノロジーが得られることが期待されている。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。