夏目漱石アンドロイド演劇「手紙」を初上演!平田オリザ氏の作・演出、二松学舎大学で
本日、8月26日に「誰が漱石を甦らせる権利をもつのか?」というタイトルでアンドロイドの人格権を考えるシンポジウムが都内の二松学舎大学で開催された。そして、このシンポジウムのオープニングアクトとして漱石アンドロイド演劇「手紙」が初上演された。
劇作家・演出家で知られる平田オリザ氏がこのために書き下ろし、平田氏が主宰する劇団「青年団」による新作だ。それに先駆けて報道関係者向けに演劇の披露会が行われた。またその後で、平田オリザ氏、石黒浩教授らへの質疑応答の時間も設けられた。
漱石アンドロイド演劇「手紙」
「手紙」は平田オリザ氏の作・演出による約30分間の演劇。平田氏は今までも演劇にアンドロイドを使った作品を6つ制作してきたが、漱石アンドロイドが出演する作品は初めてとなる。公演は明治の文豪、夏目漱石を漱石アンドロイドが、俳人や歌人として知られる正岡子規を井上みなみ氏が演じておこなわれた。
舞台は夏目漱石の頭の中。結核を患い、日本で病床にある子規と、海外で暮らす漱石が手紙を通じてやりとりする様子が描かれている。手紙は実際のものと架空のものが混在して構成されている。
演劇は映画と比べると観る者に想像力を要求する。そこが面白い。
この舞台では、西洋を見てみたいと熱望するも病床に伏す正岡子規を女優の井上氏が演ずる。演技力は素晴らしいが、観ている者は子規の姿を想像して補完することになる。一方の漱石はどうか。顔や服装が残された写真にそっくりのアンドロイドだ。手紙の読み上げや動きについてはやはりぎこちない。そこを観る者が補完することで舞台上に漱石が蘇ってくる。
登場人物の性格も対照的だ。漱石は海外の生活について、下痢やひどい船酔い、衛生面、言語の壁など、旅や生活でのネガティブな感情を並べて綴り、日本に帰りたいことを節々にのぞかせる。一方の子規は病床にありながらも、鳥かごの鳥たちが水浴びする様子を楽しそうに語り、佃島の白魚船のかがり火を美しいと評し、海外で過ごす漱石の生活を羨ましいとポジティブな感情で応えている。そして子規は自分の命がもう長くないこととともに漱石にある思いを伝える。
漱石アンドロイド
2016年に没後100年を迎えた夏目漱石を、アンドロイドで復活させる「漱石アンドロイド」プロジェクトが発表されたのは同年6月のこと。完成した漱石アンドロイドは同年12月に公開された。それからおよそ1年半が経過した。
漱石アンドロイドは二松学舎大学の創立140周年を記念し、漱石の孫にあたる夏目房之介氏、大阪大学大学院石黒研究室、朝日新聞社の協力のもとで制作された。漱石アンドロイドは既に講演や講義なども行っている。
今回の漱石アンドロイドは演劇用にハードウェア上で改造した点などはないという。また、音声はシナリオを読み上げて録音したものではなく、従来の研究通り、音声合成でシステムが読み上げている。声のもとになっているのは、漱石の孫にあたる夏目房之助氏だ。房之助氏の声を大量に録音して音素・音声解析を行い、録音された肉声を参考にしたり、漱石の声を知っている人に意見を聞くなどして、漱石の声を再現している。
■「手紙」のイメージ撮影(報道関係者向け)
平田オリザ氏と石黒浩教授のコメント
作・演出を行った平田オリザ氏はインタビューに応えて次のように語った。
「現在ではまだアンドロイドは移動することができません。それは俳優として制約になるので、その点を考えて作りました。
夏目漱石がロンドンで過ごす前後の、正岡子規との手紙でのやりとりは日本の文学史上でも大きく注目されています。今回の舞台ではそれを題材にし、実際の手紙と架空の手紙でやりとりする、そんな構成にしています。
この舞台で、夏目漱石は手紙の中で愚痴ばかりを言っています。そんな漱石が唯一、本音を語れる相手である子規はそれとは正反対で楽しいことや海外を見たいという夢などをポジティブに語ります。しかし、ラストに向けて子規は病床に伏す自分の無念さを綴り、それを受けるように最後の手紙では、漱石の手紙の内容や語り口に大きな変化が見られていきます。そこは日本文学が新しい時代に向かい、二人の思いがスパークする瞬間だったでしょう。また、複数の手紙を通して変わっていく漱石の表現は日本語教育の教材として使用できることを意識したもので、この脚本のポイントになっています」と語った。
また、ジェミノイドやERICA、マツコロイドなど人型アンドロイド研究の第一人者として知られる大阪大学の石黒浩教授は「人間の素晴らしいところは「想像」できること。偉人アンドロイドは人にとってポジティブな想像をかき立てるものであり、アンドロイドを通して多くの人が偉人の姿や言動を共有できると思います。この舞台でもポジティブな子規を俳優が、ネガティブな漱石をアンドロイドが演じることで、手紙を通じてお互いがどのような気持ちでやりとりしていたのか、を身近に想像できたのではないかと興味深く感じました」と語った。
この披露会のあと、引き続き「誰が漱石を蘇らせる権利を持つのか?」というシンポジウムが二松学舎大学で行われた。こちらの様子もロボスタで追ってお伝えする予定なのでお楽しみに。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。