人について自走する運搬ロボットが横浜ランドマークタワーを走る!三菱地所がデリバリーや災害対応などユースケースを探る

三菱地所が、横浜ランドマークタワーにおいて4種類のロボットの実証実験を行っていることは既報「横浜ランドマークタワーで自律移動ロボットが警備業務を担当!三菱地所が各種ロボットの実証実験、SEQSENSEが参画」のとおり。実証実験の期間は2018年9月3日~16日までの2週間で、ロボットによる自動化は、警備、清掃、運搬の3分野だ。前回は「警備ロボット」の実証実験を紹介したので、今回は「運搬ロボット」の実証実験にスポットをあてよう。(関連記事「横浜ランドマークタワーで自律移動ロボットが警備業務を担当!三菱地所が各種ロボットの実証実験、SEQSENSEが参画」)
今回の実証実験に使われている運搬ロボットは2種類で、異なる分野でのユースケースとなる。

デリバリー業務に利用する「PostBOT」。ロボットを紹介しているのは三菱地所株式会社 ビル運営事業部 統括 渋谷一太郎氏

災害対策や配送業務で実証実験を行う「EffiBOT」


追従型運搬ロボット「PostBOT」

ひとつはデリバリー事業での活用だ。実証実験に協力するのはデリバリーサービス事業を展開するスカイファーム社だ。
横浜ランドマークタワーには「ランドマークプラザ」などの商業エリアと、オフィスエリアがある。ランチタイムにはオフィスエリアで働くオフィスワーカーの人たちから「ランドマークプラザ」のテナントに対する弁当の注文を一括して受け、スカイファームがテナントを巡回して商品をオフィスエリアに集配する業務を行っている。

スカイファームのデリバリー業務を説明する同社の木村氏。「横浜ランドマークタワーの上階のオフィスワーカーがスマートフォンで下層階のレストランのお弁当を注文、それを集計して配達スタッフが一括して店舗を回ってデリバリーするシステムを提供しています」

レストランや中華料理店、ピザ店などを巡回して注文を受けたランチを受け取り、注文した上階のクライアントに配達するが、従来から搬送には手押し台車を使っている。

日頃の業務で使用している台車

その台車の代わりに、配達スタッフの後を追従する移動ロボットを活用しようという実証実験だ。台車では約25~30食程度が限度だが、「PostBOT」だと40~50食を一度に搬送できると見ている。

使用するロボットは「PostBOT」で、日本では初お目見えとなる。ドイツの企業が開発し、ドイツでは公道で郵便物等を配送するのに使用されている。最大積載量は150kg。
最大の特徴は人を自動追従する機能。「PostBOT」本体の中央部と前後にLiDARが搭載されていて、前を歩く人の脚を検知して追従する。また、スマートフォンのアプリでリモコン的に操作することも可能だ。

実証実験では、実際の注文に沿って、レストラン等の4店舗を回っての集荷が行われた。その際、「PostBOT」が追従する様子が披露された。なお、通常の業務では11店舗を回るとのこと。

1件目の店舗で中華のお弁当を受け取り

「PostBOT」に積み込む

積み込んだら自動追従走行でスタート。次のレストラン店舗に向かう

次の店舗に到着

次の店舗でもお弁当を受け取り

搬送ロボットに積み込み

次のレストラン店舗へ追従走行

■ 自動で追従走行するロボットの動画はこちら




自律走行にも対応した運搬ロボット「EffiBOT」

もうひとつの搬送用ロボットは災害対応等を想定している「EffiBOT」(エフィボット)だ。フランスのEffidence社が開発したもので、特徴のひとつが「PostBOT」と同様に自動追従機能だ。積載量は最大150kg程度(実際は300kg程度が運搬できる見込み)。実証実験では多くの土のうを積んで担当者を追従するデモが行われた。
このロボットについては、8月に行われた「三菱地所総合防災訓練」でも使用されている。(関連記事「運搬ロボットやライブカメラでゲリラ豪雨などの災害に対応!三菱地所が総合防災訓練で」)

空荷の「EffiBOT」。自動追従、マッピングによる自動走行、隊列走行などに対応している

「EffiBOT」が走行面で「PostBOT」と異なるのはマッピング機能だ。自律的にマッピングを行って自律走行できるため、人を追従するだけではなく、運搬する地点を地図で指定して自動で搬送させることができる。フランスでは物流倉庫や工事現場などで、重量の重いものを自動運搬する業務で利用されていると言う。
また、隊列走行(カルガモ走行)にも対応しているので、複数台の「EffiBOT」が人を追従して搬送することも可能だ。

土のうが積まれた状態で人を追従するモードで走行スタート

移動した先で土のうを降ろして設置(ここはもちろん人力)

中央に赤いランプのように見えているのがLiDAR

実証実験期間中は土のうの運搬業務以外に、運送業者が活用できるかどうか検証を行う予定だ。

■土のうを積んだ「EffiBOT」が自動追従する様子




ロボットによる自動化の検証を積極的に推進する三菱地所

今回の横浜ランドマークタワーでの試みはあくまで実証実験であって導入ではない。三菱地所は効率、効果の面を検証するとともに課題を明らかにしていきたいとしている。実際にロボットの導入時にはROIが問われることになり、三菱地所もこれらロボットがまだまだ高価で、導入の大きな壁になっていることは認識している。とはいえ、実証実験を通じてロボットによる自動化を検証し、将来の人材不足や高齢化社会への対応を模索していく姿勢には、同社の積極性と実行力を強く感じる。
今後も動向を注目していきたい。


ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム