公立小学校でロボット「NAO」を英語教育に活用 ~生きた英語を学ぶ~ 相模原市教委【教育現場とロボット】

教室に子ども達の元気な声が響く。
「I like milk.」
「Do you like carrots?」
2018年10月9日、神奈川県 相模原市立 鶴園小学校で、ロボットを活用した英語の授業が行われ、神奈川県相模原市教育委員会が報道関係者などにその様子を公開した。子ども達は3年生、使われたロボットは身長が約60cmのヒト型ロボット「NAO」(ナオ)。ALT(外国語指導助手)の代役として英語の発音を子ども達に教える役割をする。


学校の教育現場には変革の時期がきている。特に外国語教育とプログラミング教育は従来の教育とは異なる課題を持つ。2020年度から新学習指導要領が実施され、小学3・4年生では「外国語活動」が、小学5・6年生では「英語の教科化」が完全実施となるため、多くの学校では火急の課題として準備が進められている。

相模原市立鶴園小学校で英語の授業に活用されているヒト型ロボット「NAO」(ナオ)

そのひとつの手段がロボットの導入だ。NAOはソフトバンクロボティクス製の会話ロボットで、ソフトウェアや連携する一部の教材をアウトソーシングテクノロジーが提供している。福岡県大牟田市などでは今年の5月より導入がはじまった例もある。

この日の英語教材の例


英語教育にロボットを活用

授業の冒頭でNAOが子ども達に”英語”で「今日は何曜日?」「今日の天気はどうかな?」とたずねる。子ども達は思い思いに回答する。


このクラスでNAOを使った授業は2回目だ。この日の授業のテーマは「自分の好みを伝え合おう」。好きなもの、好きでないものをお互いに英語で伝えたり、質問し合う。NAOはゆっくりと、ネイティブのような発音で自分が好きなもの、好きではないものを英語で子ども達に話した。

この日のテーマは「自分の好みを伝え合おう」。「I like~」「I don’t like~」「Do you like~?」などの会話を学習する


先生とロボットが英語で会話

まずは先生がNAOとの英語で会話の見本を見せた。

NAO「Do you like blue?」(あなたは青は好きですか?)
先生「Yes, I do. Nao, Do you like red?」(はい、ナオ、赤は好きですか?)


先生が「今NAOとどんな会話をしたのか」を生徒達に聞くと、子ども達は英語をちゃんと聞き取っていて元気な声で答えた。

ニンジンやアイスクリーム、バレーボールなど、NAOに好きなものを聞く。「水泳は好き?」と聞くとNAOは「いいえ、好きではありません」と答える。子ども達はその答えに反応し、「ロボットだから水に飛び込んだらこわれちゃうよ」と笑いながら叫ぶ子の姿も見られた。



お互いに好きなものを英語で伝え合う

子ども達は友達と英語で会話をして、「自分たちが好きなもの」「好きではないもの」をお互いに伝え合った。


授業の終わりにNAOがダンスを披露した。二足歩行ができるヒト型ロボットのNAOが上手に踊る姿を見て歓声が上がった。
ロボットによる英語教育はまだまだ発展途上だ。改善していく点も多いだろう。しかし、授業が終わってからもロボットに集まり、興味津々に見たり、触ろうとする子ども達の笑顔を見ていると、タブレットや大型のテレビにはないロボットならでは魅力がそこにあるような気がした。



■動画 公立小学校でヒト型ロボット「NAO」を英語教育に活用 ~生きた英語を学ぶ~


英語教育にロボットを導入する利点

英語教育においてロボット活用する利点はいくつかあると言われている。
ひとつは「発音」。英語ではネイティブスピーカーによる耳からのリスニング教育が重要だ。NAOはフランスで開発され、19ヶ国語を話すことができる。英語の発音もネイティブスピーカーと同等だとかねてより好評のロボットだ。

鶴園小学校 教諭 鬼塚慶太郎氏とNAO

現状では、ネイティブスピーカーによるリスニング教育にALT(外国語指導助手)を採用している学校が多い。生きた英語に触れさせる取り組みとして成果を上げ、小学校でのALT等の活用総数は右肩上がりに増えている(調査では12,424人となっており、前年より985人増加:文科省の平成28年度「英語教育実施状況調査」による)。ただし課題もある。ALTは年間数100万円規模の費用がかかり、生活のサポートや、文化の違いから来る人間関係の難しさが、課題にあがるケースもある。

次に「親しみやすさ」だ。子ども達もロボットが相手だと会話がしやすいという側面もある。「間違えたらどうしよう」「恥ずかしい」などの気持ちから解放されて、積極的に話しかけられると言う。


今回の英語学習では教材に2020年度新指導要綱に対応した文科省作成の教材をもとに作成されたものが使用された。ロボット「NAO」、大型のディスプレイを使ったデジタル教材、そして教師による誘導によって子ども達の活気溢れる授業が実現していた。




教育現場の視点から

今回、英語の授業を担当した鬼塚先生に、まずは授業にロボットを導入してみての感想を聞いた。

鬼塚先生

子ども達はロボットを見ることが新鮮で、英語の授業も楽しそうに参加してくれます。大人よりも子ども達にはロボットに対する抵抗がなく、すぐに慣れてくれたようです。”英語とロボットのどっちが楽しかった?” って聞くと、もしかするとロボットが楽しかったと答える子ども達が多いかもしれません。しかし、そんな子ども達もそのうちに”英語とロボットが楽しかった”と言うようになり、英語に楽しさを感じるきっかけになるのではないかと感じています。

編集部

今回の授業では、ロボットと子ども達の1対1での会話は見られなかった。その点についてはどうでしょうか。

鬼塚先生

今日はNAOならではというところを授業で見せたかったのですが、ロボットと子ども達が実際に英語で会話をするのは、まだうまくいくかどうかの不安が少しあったので、英語での会話は子ども同士を中心に行いました。
しかし、英語教育の場合は実際に会話しているところを見せることが重要です。今まで、ALTの方がいない場合は、教員がテレビを相手に会話したり、一人二役で会話しているフリをして例を見せていました。しかし、それでは子ども達はどうしても冷めてしまう傾向にあります。今日も例として最初にやりましたが、教員とロボットが英語で会話しているところを見せることで、子ども達も楽しく会話のシーンを具体的に見ることができます。現時点では、ロボットと教員と英語の会話のやりとりを見せるだけでも、とても有効に活用できると感じています。



ロボットの導入には、便利さと不安の両方を感じているようだ。課題についても「私自身がICT機器の操作が得意ではないので、デジタル教材やロボットが予定通りに動かない時に困ってしまいますね」と語る。
その日もデジタル教材のテレビの音声が出ないという機器のトラブルがあった。先生がとっさに自分で英語を読み上げて切り抜けることができたが、ロボットに限らずICT機器のトラブルで授業が進まないようなことは避けなければならない。ロボットも無線ネットワークとの接続などが加わると複雑な設定も多くなりがちだ。設定や操作方法、準備などで、教員の負担や不安が必要以上に増えるようなことがあってはならない。また、バッテリーの課題もある。鬼塚先生は「午前中の4時間の授業にNAOをフル活用すると180分間。バッテリーがもつのか不安がありますね」と語った。


2020年にはプログラミング教育もはじまる

2020年からはじまるプログラミング教育について不安を感じている教員も多いことだろう。プログラミングなど全く経験がない教員も多いからだ。教えやすい教材が用意されることとともに、プログラミングした結果がロボットなどの動きに反映されて見られるような授業は、子ども達にとっても楽しくて、やり甲斐のある授業になっていくだろう。

次回は、高校におけるブログラミング教育の現場にロボットを活用する事例を紹介する。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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