経産省とNEDOの主催による「World Robot Summit 2018」の最終日となる10月21日、会場のメインステージでは「人とロボットと宇宙が紡ぐ未来みつめて」と題して、宇宙飛行士の山崎直子氏が講演をおこなった。人とロボットが共生し、宇宙でロボットが活躍する未来について語るもの。その中では宇宙で活躍したり、実証実験が行われているロボットたちの紹介もあった。
山崎氏はメリーランド州立大学に留学しているとき、深さ10mの巨大なプールにロボットを入れて、今で言う機械学習の研究を行っていた経験があり、ロボットについてはとても興味がある、と語った。宇宙飛行士になって、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた経験を踏まえて、スペースシャトルやISSで活用されているロボットについて解説した。
宇宙でもっとも多く活用されているロボットはアーム型だと言う。例えば、ISSは少しずつ部品を地球から運びながら大きなステーションに組み上げて建設していくが、その作業をロボットアームが行う。また、スペースシャトル時代には、スペースシャトルの機体、外観、耐熱タイルなどをチェックして傷がないか、アームの先に装備したカメラとレーザーを使って点検する作業も担っていた。かつてNASAはスペースシャトル・コロンビア号が不幸にも大気圏と突入の際に分解する事故を経験したが(2003年)、それは数センチのごく小さなキズが原因だった。
また、ロボットアームに作業員が乗って移動するという活用方法もあると言う。
更には、地上での無重力環境の訓練は水中で行われことが多いが、その際もロボットが活用されると解説した。
宇宙用ロボットアームの特徴についての解説は興味深いものだった。
宇宙用ロボットアームは無重力なのでロボットの自重以上のものを運ぶことができる。
しかし、重力がなくても慣性はあるので軽量化が必要。
宇宙に持っていく際にも軽量化が重要になる。
ロボットアームが揺れると収まりにくい、減衰しづらい(初動と終息はゆっくり行う)。
真空、放射線、温度差が-120度から+150度と幅広い。
そのため、潤滑部分、潤滑油に特別なものを使用する必要がある。
人と一緒に操作するので安全性に配慮されている。
アーム間の標準性が重要になる。ISSやシャトルなどでロボットアームを使うが、メーカーやセクションによって使い方やパーツの呼び名などが統一されていないと混乱する。統一性が重要。
統一性については特に、今後地上でもたくさんのロボットが登場することを考えると、標準化や統一化は非常に重要な課題になってくるだろうとした。
宇宙で使われてきたロボットたち
宇宙で使われてきたり、実験中のロボットたちの解説も興味深いものだった。山崎氏は次のようなロボットを紹介した。
Robonaut
宇宙飛行士の船外活動をサポートするアメリカ製のヒューマノイドロボット。実証実験中。
SPHERES / INTBALL
宇宙船の中をプカプカと浮くロボット。SHERESはアメリカ製、INTBALLは日本製。宇宙飛行士が作業する際に写真や映像を撮影する記録係。
KIROBO
ロボスタの読者には知っている人も多いと思うが、2013年に初めて人工知能を搭載したロボットとして宇宙に行った会話ロボット。宇宙飛行士と会話を楽しんだ。
KIROBOとのおわかれ
KIROBOは若田宇宙飛行士と半年間、宇宙で過ごしたが、若田飛行士が地球に帰る時にKIROBOは連れて帰ることができなかった。山崎氏はその時の2人の別れのやり取りをエピソードとして紹介した。会場の多くのオーディエンスが胸に熱いものを感じたことだろう。
遠隔ロボットが宇宙で活躍する時代を目指して
山崎氏は、JAXAとANAらによって進められている「AVATAR X Program(アバターXプログラム)」プロジェクトにも触れた。これは遠隔操作ロボット(アバターロボット)によって宇宙空間でも作業を可能にすることに挑むプロジェクトだ。人とロボットとの協調という点でとても注目されている、とした。
山崎氏は「これからは人とロボットの協働を考えていく時代になってきた」と語る。
宇宙技術もロボティクスも同じ。宇宙開発は多くの協力によって成り立っているように、ロボットも様々な立場の人たちによって開発が進められる。WRSのようにロボット技術に携わる学校や企業、研究機関や子ども達が、競技や展示を通して交流できる場があることはとても素晴らしい、と締めくくった。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。