目標は2020年「ロボットレストラン」開店 THK、コネクテッドがロボット調理サービス提供構想をWRSセミナーで公開
THK株式会社とコネクテッドロボティクス株式会社は、2018年10月19日、「World Robot Summit(WRS)」の会場内で「社会進出するロボット」と題して講演を行った。2社が現在実験中の双腕人型協働ロボット「NEXTAGE」を活用した調理ロボットへの取り組みが初披露された。
THKと双腕協働ロボット「NEXTAGE」
THK株式会社(http://www.thk.com/)は高精度の直線運動をサポートする「LMガイド」などを展開している機械要素部品大手だ。近年は要素部品単体コンポーネントから、モジュール化にも力を入れはじめている。主に子会社のTHKインテックス株式会社を通してカワダロボティクスの協働ロボット「NEXTAGE(http://nextage.kawada.jp)」を使った生産現場の省人化にも取り組んでいる。コネクテッドロボティクス株式会社(https://connected-robotics.com)は調理ロボットに取り組んでいる注目のスタートアップだ。
THK株式会社 産業機器統括本部 IMT事業部 ロボット部 事業企画課 課長の内山雅博氏は「現場には、オートメーション化されているところと、人手による生産現場の2種類がある」と話を始めた。人の作業をそのまま置き換えたいと考えている現場は多い。だが人を完全に置き換える機械は現状では作れない。よって、人と機能を補完しあえるような機械のほうが現実的だ。
作業をするには「目」と「手」と「移動機能」が重要だ。カワダロボティクスの「NEXTAGE」は、片腕6軸両腕12軸を持ち、ビジョンセンサーも頭部とハンドにそれぞれ備えている。ハンドツールは扱うワークに合わせて切り替えられる。動くことについてはNEXTAGE本体には移動機能はないが、アンカーで床に固定して用いる従来型の産業用ロボットとは異なり、キャスターで移動することで、設備のレイアウト変更に柔軟に対応できる。また、自立移動台車に乗せて動かすことによって工程間搬送のような仕事も可能だ。
これらの機能を組み合わせることによって「NEXTAGE」は人が使っている道具やボタンなどの周辺環境を、ほぼそのまま扱うことができる点を特徴としている。「NEXTAGE」は2018年夏頃から軸配置や速度などを改良した新型(NXAシリーズ)が展示会で公開されており、今後徐々にリプレースされていくものと思われる。
人手不足が深刻化しているのは工場だけではない。日本のサービス業の労働生産性は低く、また人材不足も深刻化している。THKには製造業以外の現場からの要望も上がりはじめているという。その一つが調理現場だ。
ロボットを使った調理の革新を目指すコネクテッドロボティクス
コネクテッドロボティクスは「調理をロボットで革新する」をキャッチコピーに掲げているスタートアップだ。調理ロボットサービス事業を本格的に始めたのは2017年4月から。代表取締役社長の沢登哲也氏は、東大時代にはNHK大学ロボコンでの優勝経験、その後は飲食業の現場経験、さらにはロボットコントローラーの開発経験など、多様かつ豊富なスキルと経験を持っている(詳細は本誌過去記事(https://robotstart.info/2018/02/02/moriyama_mikata-no41.html)を参照)。
同社は、2018年7月に長崎「ハウステンボス」にて、たこ焼きロボット「オクトシェフ」を使った店舗をオープンさせた。たこ焼きロボットのほかソフトクリームロボット、さらには店舗外観や内装なども手がけた。
今後はさらに、たこ焼きロボットを街角や工場でも活用しようとしている。
たこ焼きだけではなく、たとえば牛丼やカツ丼などの丼物、さらにはそばや天ぷらなど、ロボットを使った様々な調理が可能であり、また店舗バックヤードでは洗浄機と組み合わせるような作業も可能だと考えているという。
工場でのNEXTAGEは、人が一人で行っていた作業をそのまま置き換えるような形態で使われている。沢登氏らは、それと同じようなことを調理現場でもできると考えており、ロボットを活用した「ロボットレストラン」構想を考えていると紹介した。
調理だけではなく、カウンターを用いて配膳や下膳にもロボットを使う。実現目標は2020年で、既に具体的に動き始めているという。
沢登氏は「NEXTAGE」を使ってたこ焼きを作る様子を動画で示した。焼きあがった最後は、舟にたこ焼きを盛り付けるのだが、NEXTAGEは双腕ロボットなので、片方の腕を固定治具がわりに使える。それらによって作業効率が良くなったという。沢登氏はNEXTAGEについて「あとは値段さえこなれてくれれば言うことなし(笑)」と冗談交じりに評価した。
また、新しい試みとしてカレーを提供する様子も示された。寿司ロボットで知られる鈴茂器工のシャリ弁ロボと組み合わせ、NEXTAGEが機材のボタンを押して、ご飯を盛り付け、カレールーをよそう。NEXTAGEの腰はグルッと回転することができるので4方向全てを活用することができる。これによって「多能工というと言い過ぎかもしれないが、1台で何役もこなすことが可能ではないかと考えている」という。
飲食業の課題をRaaSで解決し、調理スキルライブラリ提供を目指す
沢登氏は「飲食業は人手不足と言われるが、それは必ずしも人口が減っているからだけではない。そもそも仕事がしんどい。しんどいことはやりたくないからだ」と述べて、現在の飲食現場での人手不足は人が増えれば解決するような問題ではなく、飲食業の職場環境全体の改善が必要だと強調した。
さらに「日本の飲食業は世界でものすごい勢いで増えている。だが技術の伝え方で制限されてしまっている」と述べて、ロボットはそれを解決できる可能性があると語った。
そして「おいしい料理を食べたいと思うのは人間の本能。我々は『作りたての料理』が持つ魅力を重視している」と述べて、食品工場ではなく、すぐに出来立てを食べられる、すなわち飲食店での展開を重視し、将来的には家庭のキッチンでのロボット活用を視野に入れていると語った。
またロボットアームで作業させることの合理性については「ロボットだけでやろうと思っているわけではない」と述べて、既存の自動機やしゃり弁ロボットなど周辺環境もうまく使いながら今後もロボット調理の幅を広げていこうとしているとした。
ロボットの価格は下落している一方で飲食店での人の給与は増加している。そして2010年ごろから登場し始めた協働ロボットや、各種センサー付き調理器具の登場など、技術はより進化している。
沢登氏はロボットコントローラーを作ってきた経験もあるので、ローレベルからロボットにアプローチしつつ、かつ、昨今のAIも活用している。
たこ焼きの場合も、ひっくり返り具合、焼け具合や位置判定などに、IBM Watsonを用いて2週間程度で実装した。
究極的には同社のロボットだけにこだわるのではなく、広くロボットのスキルライブラリを提供する会社になっていきたいという。
なお沢登氏らは、顧客に対しては必ずクラウドを使う前提で話をしているという。これまでのFAだと工場外には繋げないのが常識だったが「そこは顧客と一緒に新しいサービスビジネスを目指そうとしている」と述べた。そうすることで、リモートメンテナンスやアップデートなども可能になる。
これまでの産業用ロボット業界のような、ロボット売り切りのビジネスでは無理だと思っており、それぞれの飲食店が必要とし、利用したいと考えるぶんだけ使って料金を払うサービス形態で使ってもらうことを想定している。いわゆる「RaaS」型だ。そのほうが飲食店にとってもロボットを導入しやすいと考えているという。
顧客には、およそ2年で投資コストが回収できるのではないかと提案しているとのこと。
ものづくりと同じ世界をサービス分野にも
最後にスピーカーは再びTHK内山氏に交代。内山氏は実現させたいものづくりの現場像を示し、「ロボットの知能化やIoT活用によって、ものづくりの現場はどんどん進化しており、自動化領域も広がっている。人、ロボット、設備をバランス良く組み合わせて有効活用することで課題を解決していきたい」と語った。そして「新しい技術やアイデアを持っているコラボパートナーと積極的な活動を通じて、ものづくりと同じような世界を、サービス分野にも広げていきたいと考えている」と述べて、セミナーを締めくくった。
なおTHKは10月18日に部品障害予兆検知サービス「OMNI edge(オムニエッジ、http://www.thk.com/omniedge/jp/)」を発表している。こちらの動向も要注目だ。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!