前回はスマートホームとの連携についても語ってくれたクリス・ジョーンズ氏。スマートホームとの連携は重視しつつも、Wi-Fiより掃除機単体で行うオンボード処理が重要だと言う。まずはその点について深掘りしたい。更には今後のルンバの進化の方向性や、コミュニケーションロボットやヒト型ヒューマノイドロボットについての考えも聞いた。
オンボード処理にこだわる3つの理由
編集部
ロボット掃除機の動作に関しては、Wi-Fiやクラウドによる学習より、掃除機本体のオンボード・センシング技術を重視する理由をもう少し詳しく教えてもらえますか
Jones氏
オンボードの設計にこだわっている理由は大きく分けて3つあります。全ての部屋でWi-Fiが使えるとは限らないこと、環境に応じてタイムリーなさまざまな判断が必要になりますが、Wi-Fiでは遅延が発生する可能性があることです。そして3つめがセキュリティやプライバシーです。カメラやセンサーの情報はネット上に出さずにオンボードで完結することはプライバシーにとってとても重要です。
編集部
オンボードで学習していくことはどこまで可能なのでしょうか。それぞれの部屋になんの家具が置いてあることまで理解ができているのでしょうか。
ここでジョーンズ氏は「これは既にアメリカではローンチされている新しいモデルの映像です」と言って動画を見せてくれた。そのルンバは家の間取りやそれぞれの部屋の呼び名を理解しているという。充電ドックに入っているルンバに「リビングルームの掃除」と指示すると、廊下を通ってリビングルームに行って掃除をして、掃除が終われば再び充電ドックに戻ってくるものだった。
Jones氏
オンボードで現在できている機能としては、家の間取りを理解し、自分がどの部屋にいるかということです。部屋のレイアウトが変わってもセンシングによって最新の状況にアップデートして記憶します。今後はどこにどんな家具が置いてあるかを把握する機能はロードマップ上にあり、現在開発途中です。AIやディープラーニングなどのツールキットを使いながら、ロボティクスに応用していくことで、ここにある家具はソファーだと認識できるようになるかもしれません。
編集部
現在は未だディープラーニングは使用していないのですね
Jones氏
はい、ディープラーニングの活用もロードマップ上にはテーマとしてありますが、現時点では使っていません。マップを使ったり、自分がどこにいるのかを理解したり、ナビゲーションしたり等は独自開発のAIを使用しています。
コンパニオンロボットやヒト型のヒューマノイドロボットについて
編集部
ジョーンズさんは、コンパニオンロボットやヒト型のヒューマノイドロボットについてはどう捉えていますか?
Jones氏
コンパニオンロボットについては将来的に一定の価値があるものだと思います。家の中で会話をすることで人と繋がり、感情的にも近い存在になることでも可能性を感じています。特に介護分野や高齢化社会では期待できるでしょう。
一方で、ヒューマノイドについてはチャレンジングだと感じます。そもそも実用的かどうか、技術力と機能が汎用的に発揮できるのか、そして価格がその機能に伴っているか、という3点ですね。現段階では、自動化や自律性に対して高機能が求められ、価格が高価になってしまうことから見ると、将来的にコンシューマ向けのロボットがビジネスとして魅力的なものになるには、相応の具体的なビジョンがないと難しいと感じています。
ジョーンズ氏の返答は、ロボットについて会話機能には有用性を感じるものの、ヒューマノイド型については技術と価格が伴っていないと感じている、というものだ。
Jones氏
他の例をあげると、なぜ脚が必要なのかと聞くと「階段を昇るため」という回答が返ってきます。しかし、ヒューマノイドでなくても、ちょうど福島の原発処理でも使用されているような小型の戦車のような車輪構造でも段差を安定して昇ることができるし、その方がよりよいソリューションであるかもしれません。
編集部
ルンバ自体が音声でユーザとやりとりをしたり、ルンバに感情的な要素を持たせることは考えていますか?
Jones氏
検討することはありますが、ルンバがフォーカスしているのは実用的な床掃除のためのロボットです。そこに最適化して、アラームやライトなどさまざまな機能を盛り込むほうが優先的であり、コンパニオン機能は方のデバイスに任せて、それと連携していけばいいのではないかと思っています。
今後のルンバの進化の方向性
Jones氏
このインタビューでお話ししてきたように、やはり「空間認識」機能を高めるという方向で進化していくでしょう。そうすることでよりインテリジェントに、家庭での適応力も増していくと考えています。
ふたつめがスマートホームとの関わり、連携を進めることです。ルンバは毎日のように家中をアチコチ動き回るモビリティのプラットフォームです。その特性を活かして、スマートホームのエコシステムを活かして、他のデバイスがより活かせる連携機能を実現することで、ユーザのより快適な生活環境に貢献できると考えています。
ルンバに最も求められている掃除機能の精度の向上は引き続き行っていきます。例えば「e5」ではまるごと水洗いできるダスト容器を採用して、掃除の後の手入れが簡単になりました。このような進化はもちろんこれからも行っていきます。
編集部
iRobot社としては、地雷除去ロボットなど、本当に様々な用途のロボット開発を行ってきましたね。今後もビジネスとしては家庭用ロボットにフォーカスしていく予定ですか
Jones氏
はい。ビジネスとしてはあくまで家庭用のコンシューマ向けロボットに着目していきます。掃き掃除のルンバや拭き掃除のブラーバなど、ロボット掃除機の分野に商品を投入していますが、まだまだ普及率を上げるために必要なことはたくさんあります。
編集部
今回はお忙しいところ、貴重な時間を頂き、ありがとうございました。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。