【速報】分身ロボットカフェ「DAWN」ついにオープン!障がい者が遠隔操作で接客、新しい就労支援へ
「いらっしゃいませ、分身ロボットカフェにようこそ。私は埼玉県からロボットを操作しています。お客様はどちらからいらっしゃいましたか?」
遠隔操作で動く身長120cmの「OriHime-D」がテーブルにやってきた。ロボットと人間の協働における新しい時代の「夜明け」(DAWN)の瞬間だ。
障がい者が操作、分身ロボットが働くカフェ
遠隔操作で動くロボットが働くカフェ「DAWN ver.β」(以下、ドーンと表記)が東京の赤坂にある日本財団ビルに期間限定でオープンした。オリィ研究所が中心となって開発し、日本財団とANAホールディングスが連携、支援する。
このカフェの最大の特徴は、店員がすべてロボット「OriHime-D」であること、それらロボットを遠隔操作しているのが寝たきりや、難病などで外出することが困難な人たちと言う点だ。
ロボット「OriHime-D」を操作する人をパイロットと呼ぶ。今回の試験オープンではパイロットとして、ALSやSMAや頸椎損傷などの障がい者、10代が10名、ほかにも男女各5名の20〜40代の人が雇用されている。時給も1,000円が支給される。地域は東京、埼玉、愛知、岐阜、三重、島根と多岐に渡っている。
オープンは11月26日〜12月7日までの13時〜17時まで。土日は休み。
■分身ロボットカフェ「DAWN」オープン!
アバターを使った障がい者の就労支援
ロボットや遠隔操作のシステムを開発したのはオリィ研究所。ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者であっても、視線を動かして文字が入力できる操作方法「OriHime-eye」を開発、移動機構を持つロボットとその操作方法を確立することで、寝たきりの人でもロボットを操作してテレワークやアバターワークを可能にした。アバターワークとは、テレワークに加えてアバターロボット(遠隔操作ロボット)を使って移動や肉体を動かす労働をさす、という。
■分身ロボットカフェ 初日 ロボットが配膳する様子
さまざまな理由で外出できない人たちが、ロボットを通じて社会で働く機会が得られる可能性がある。今回、共同で運営している日本財団やANAホールディングスをはじめとして、クラウドファンディングなどを通じて多くの人たちが注目し、賛同している。
日本財団や全日空(ANA)が取り組みに参画
カフェの開店に先立ち、日本財団の会長、笹川陽平氏、ANAホールディングスの伊東信一郎氏、衆議院議員の野田聖子氏らが登壇した。
笹川氏は「日本にはおよそ300万人の障がい者がいる。障がい者=社会支援が必要、と私達は考えがちだ。しかし、その考えは間違っていて、むしろ自律支援を阻害する要因にもなる。これからは自律の可能性を追求していく時代になる。今回の取り組みは障がい者にとって新しい生活のはげみになるだろう」と語った。
ANAの伊藤氏は「私達は遠隔操作ロボットを活用するアバタービジョンを推進している。吉藤氏の熱い思いに共鳴して、今回支援させて頂くことを決めた。つい先日まではアバターはSF映画の中の話だと思っていたが、あたかもそこにいる体験ができること、新しい移動手段になることを期待している。ANAはJAXAと連携して地球にいながらアバターロボットを使って月に基地を作ろう、と計画もしている。また、今日は沖縄の美ら海水族館と大分のサファリパークとここをOriHimeで結んで、アバターロボットの操作をしてもらう機会も作ったので、ぜひ体験して欲しい」とした。(カフェのオープン期間中は、大分のサファリパークの遠隔操作を体験できるようだ)
衆議院議員の野田聖子氏は「障がい者雇用」を推進する衆議院議員として、また、障がい者の子供を持つ親として、2つの立場からの見解を語った
オリィ研究所の所長 吉藤オリィ氏は、昨年亡くなったALS患者であり社員、親友でもあった番田氏の名前を挙げて、「番田とはいつか一緒にカフェをやろうと言っていた。それが今やっと実現しようとしている」と語った。
「寝たきりでも分身ロボットで働けるカフェ」が示す協働の未来 NTT東日本×オリィ研究所/講演会レポート
更に「今日、ここで働く「OriHime-D」は実は最も機能を制限したバージョン。移動して会話し、配膳することはできるが、その他には何もできない。初日はあえて初期バージョンで試してみて、この先どんな機能が必要か、何を加えていけばいいかを、私達開発者ではなく、お客様やパイロットの声を聞きながら進化させていきたい」とした。毎回、アンケートを集計し、その声を反映しながら、期間中は進化させていく予定だと言う。
■分身ロボットと雑談会話する様子
人間とロボットを区別しません
「ドーン」では、もうひとつ重要なテーマを提起している。店内には目に付く立て看板が置かれ、「当店内では人間とロボットの区別をしません」と書かれている。これは2008年に発表され、2010年に劇場版として公開されたSFアニメ作品「イヴの時間」の中で、舞台となる喫茶店に登場するフレーズだ。
作品では人間そっくりなアンドロイドが人々の生活でさまざまな家事を手伝う未来が描かれている。そこではアンドロイド(ロボット)と人間を区別する規則が制定され、アンドロイドは目印として頭上にリングを表示しなければならない。しかし、「イヴの時間」という地下にひっそりと存在する喫茶店では「当店内では人間とロボットを区別しません」という看板が掲げられていた。人間とアンドロイドを区別する必要があるのか、分け隔てなく生活することにどんな課題があるのか、人間とアンドロイドとの違いはなにか、様々な課題をつきつけ、ロボットの存在感が増している現在だからこそ見ておきたい作品となっている。
「ドーン」はこの作品とコラボし、喫茶店「イヴの時間」のインテリアデザインを模して作られている。また、店内で働くロボットの向こうには人がいるため、ドーンのこの空間ではロボットと人を区別することはまったく意味を持たないとともに、遠隔操作ロボットによるテレワークで働く人々が普通にいる社会、その先にある自律型ロボットが普通にいる社会を私たちがどう受け入れるのか、実感として考えさせてくれる重要な機会となるのではないだろうか。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。