2019年2月4日、日本航空株式会社(https://www.jal.com/)と株式会社ATOUN(http://atoun.co.jp)は、ATOUNが販売中のパワーアシストスーツを、手荷物・貨物搭載作業などグランドハンドリングを担う株式会社JALグランドサービス(http://www.jgsgroup.co.jp)に導入したと発表し、羽田空港の荷捌き場で記者会見を行った。
JALグランドサービスが羽田空港と成田空港にそれぞれ10台ずつ、合計20台を購入して導入した。ソーディング場でのベルトコンベアからコンテナへの積み込み作業や、貨物倉庫内での貨物取り扱いに活用される。2月1日から既に使用中。
両者は今後、腕のアシスト機能開発にも挑んでいくという。腕のアシスト機能は全く新しいスーツを提供するのではなく、「MODEL Y」に追加するかたちでの提供を考えており、2019年度中には何らかのかたちでJAL側にも示していくと述べた。
アシストスーツ「ATOUN MODEL Y」
ATOUNはパナソニックの社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」で2003年6月に設立されたベンチャー(旧社名:アクティブリンク。2017年4月に社名変更)。パナソニックと三井物産が出資している。「あうん」の呼吸で動くロボットにより、年齢や性別に左右されずに働ける「パワーバリアレス社会」を創ることを経営理念としている。
ATOUNの「ATOUN MODEL Y」はバックパックのように着用しスイッチをオンして用いる装着型アシストスーツ。体幹の動きを角度センサで検出し、着用者の動作意図を推定。それに合わせて腰部のモーターを回転させることで作業時の腰部への負担を軽減する。特に全体的な疲労度を減らすことを考えており、疲れにくい大腿部に腰への負担を逃すという考え方でデザインされている。
重量物を持ち上げるときに腰を伸ばすように体を持ち上げるアシストをする「アシストモード」のほか、モーターをオフにする「歩行モード」、物を下ろすときに体をゆっくりと下げるサポートをして中腰姿勢を支える「ブレーキモード」の3つの作業モードを自動で切り替える。アシストを入れることで筋肉の負荷を下げることができ、20分間の12kgの箱の運搬作用動作においては、箱の運搬個数が2割上がったとのこと。
ATOUNでは物流・製造・農業・災害対応などを主なターゲットとしている。「ATOUN MODEL Y」の価格は60万円-70万円(税別)から。月額数万円でレンタルも行われている。2018年4月から発売、7月から出荷されており、既に200台以上の受注を受けている。
カーボン樹脂フレームを採用しており、重量は約4.5kg(リチウムイオンバッテリー込み)と同社の旧モデル「MODEL A」と比較すると大幅に軽量化した。アシスト力は最大10kgf。モーターは左右に1基ずつ備えられており、それぞれ独立に制御されている。想定稼働時間は約4時間。充電時間は1時間半。バッテリー交換も可能。
IP55相当の防水・防塵性能があり、動作環境は摂氏0-40度。身体に接する面積が少なく背中と本体のあいだに隙間がある通気性に配慮されたデザインとなっており、ファンのつけられた作業着を着た上から着用することもできる。
パーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格である、ISO 13482を取得している。これらが認められ「ATOUN MODEL Y」は2018年の「第8回ロボット大賞」優秀賞を獲得している。
最善の「技術の使い方」を探り、労働環境を改善
株式会社JALグランドサービス 代表取締役社長の中村泰寛氏は、「グウンドハンドリングは高齢者や女性には決して容易な作業ではない。航空需要は堅調に伸びており、貨物需要も増えているが労働者は不足している」と経緯を述べた。3000名くらいの従業員のうち、女性は1割程度、また腰痛によって力作業を外されている人が15人くらいいるという。JALはイノベーションセンターを作っており、昨年からATOUNと取り組みを始め、今日に至ったと述べた。
JALグランドサービスでは、導入前に10社近くのスーツを試したとのこと。ATOUNのスーツを導入するに至った理由は3つ。1つ目は、他社製のスーツと比べて現場からの評価が高かったため。特に着脱の容易性や歩行の容易性を評価する声が多かったという。2つ目は拡張性。今後のアームアシスト機能の開発などについても期待しており、一緒に作っていきたいと考えたという。3つ目はATOUNの経営理念が同社と共感したこと。中村氏は「ぜひ一緒により良いものを創っていきたいと考えた」と述べた。
株式会社ATOUN 代表取締役社長 藤本弘道氏は、「パワーバリアレス社会を創る」という同社の経営理念を改めて紹介。人が着るだけ、履くだけでもっと自由に動ける技術の開発を目指していると述べた。
JALグランドサービスの中村氏は、「今はまだ慣れる期間。すぐに人が変身するわけではなく、長期間つけたなかで腰への負担が減っていくのかなと考えている」と述べた。また他のロボット技術などの活用については、グランドサービスは航空分野のなかでも自動化が一番遅れている部分で、いま徐々に進めているとコメントした。
実際の使い方については、今はまだどのように使い方が最善なのかを探っている段階だという。現在は様々な人が着用して検証中だが、今後は、ある程度年齢層が高い人など筋力に応じて使ってもらうことを考えているという。「状況を見ながら使い方を探り、見定めながらやっていきたい」と述べた。
日本での航空手荷物の扱いは海外に比べて一般に丁寧だと言われている。中村氏は荷捌きについて「丁寧な作業をすると腰への負担は、よりかかることになる。そういう面でもこのツールはありがたい」と述べた。なお羽田空港では1日あたりおおむね3万個から4万個くらいの荷物があるとのこと。今後、全国の他の空港関連施設での活用も想定している。
株式会社ATOUN
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!