中小企業こそロボット活用を ユニバーサルロボットCEOが来日、トレーニング室付きの日本オフィスも初公開

ユニバーサルロボット社は協働ロボットのシェア6割を誇る。2019年2月15日、ユニバーサルロボット社 CEOのユルゲン・フォン・ホーレン(Jürgen von Hollen)氏が来日し、日本支店で記者会見を行った。ホーレン氏は同社のビジョン、日本市場への取り組み、そして協働ロボットの展望について語った。また同時に2018年末に開設したトレーニング室を備えた同社オフィスも公開された。

Universal Robots アカデミーと名付けられているトレーニング室も公開された

実際にロボットを扱いながら学ぶことができる

Universal Robots の周辺機器の「UR+」を簡単なシステムで確認できる部屋もある


中小企業をふくむ全ての企業にロボット技術を

ユニバーサルロボット社 CEO ユルゲン・フォン・ホーレン(Jürgen von Hollen)氏

ユルゲン氏はまず「大企業だけではなく中小企業を含む全ての企業にロボット技術を使ってもらいたい」と考えて、同社を設立したと述べた。協働ロボットを使うにあたっては、その会社が小さすぎるということはなく、どんな会社においても適合するものだという。従来型のロボットは複雑な作業をさせており人を排除していた。しかし協働ロボットはあくまで「シンプルなツール」だと述べ、セットアップやプログラムは容易であり、柔軟性に富み、安全性も担保されている。ユルゲン・フォン・ホーレン氏は「どんな人でも簡単に使えるツールが協働ロボットだ」と強調した。

「ロボットを簡単にすることで、人間に力が与えられ、人はクリエイティビティを発揮できるようになる」という。いっぽう、ロボットは繰り返し作業に向いている。ロボットと人間の両者を組み合わせることで、企業には従来にない競争優位性がもたらされる。ホーレン氏は「それによって人は自分が行っている仕事に対して責任感を感じられるようになる。現場からボトムアップで会社を変革できるようになることが自動化の意義だ」と語り、このビジョンに多くの企業が共感していると述べた。


売上高前年比38%増は「残念」

ユニバーサルロボットの売上高推移。2018年は前年比38%増

ユニバーサルロボット社にとって「2019年は次のレベルへと向かっていく年」だという。ホーレン氏は2018年に起きたブレグジットや経済摩擦など経済的・政治的な出来事をざっと振り返った。当然、同社の顧客もその影響を受けている。特に自動車業界には影響が顕著だ。変化はあらゆる国に及んでおり、世界が不安定になっている。だがそれらはノイズだと思っているという。ノイズがあるなかでフォーカスを絞ることは難しいが、それこそがチャレンジだという。フォーカスが絞れないと不確実性がより高まってしまうからだ。

それは業績にも反映される。ユニバーサルロボット社は2018年度も堅調な成長を遂げていたが、第4四半期になってやや成長が鈍化した。2018年度は社員数が620人、売上高は2億3400万ドルを達成した。成長率は前年度比で38%を達成している。しかしながら同社としては、これは「やや残念」だという。同社のマーケットシェアは6割に達しているので、市場自体の伸びの影響を受けている。市況の変化が協働ロボット、そして自動化市場自体に影響を及ぼしている。


協働ロボット市場はさらに伸びる

アジア太平洋地域の成長が相対的に遅い

2017年と2018年のデータを比較すると、アジア太平洋地域が自動化分野で成長していると言われている。特に中国に牽引されていると言われている。しかしながら同社の数字で見るとアジア太平洋地域の成長は前年比25%増と遅く、アメリカ(前年比51%増)やヨーロッパ(前年比37%増)のほうが早い。同社の成長率はこの影響を受けている。なおヨーロッパが堅調な理由はもともと同社がヨーロッパの企業であり、米国が堅調な理由は、会社として2017年と18年にアメリカとアジア太平洋地域に投資をした結果だと見ていると述べた。

市場シェア維持を目指す

ホーレン氏は「重要なのは市場シェアの長期維持だ」と語った。2015年には、2017年から2021年までは市場は年率43%で成長していくとさてれていた。いっぽう、最近のデータでは市場は2019年から年率47%で成長し2025年には90億ドルの市場になるという。短期的に見ると市場は一時落ち込んでいるが、長期的に見るとファンダメンタルズ自体は落ち込んでおらず、これからどんどんコンペティターが入ってくることで市場自体の伸び率は維持されると考えているという。

協働ロボット市場の伸び予想は加速している

「協働ロボット」という言葉を聞いたことさえない潜在顧客は、まだまだ多い。不確実性はあるが、この状況はユニバーサルロボット社にとって非常に大きなチャンスだと考えていると述べた。


協働ロボットの利点は柔軟性

様々なラインで使うことでロボットの稼働率を上げられ、多品種生産に対応できる点も協働ロボットの利点

多くの企業にとって、この先5年間の予想を立てるのは困難だ。たとえば自動車業界ならば6−7年先を見通して投資する必要があるが、未来を見通すことは難しい。だが競合優位性を保つためには投資が必要だ。特に柔軟性の確保のための投資をしないと未来には生き残れない。ホーレン氏はこのように述べ、柔軟性を担保できる自動化技術やロボット、それも1日のなかで様々な製品製造ラインで活躍できる柔軟性が重要だと述べた。

協働ロボットの強みのまとめ

協働ロボットを使った自動化には、短期的なROI(投資利益率)が出せる、使いやすい、環境に合わせて成長させやすいといった利点がある。ホーレン氏は、そういった協働ロボットの特徴と不安定な世界情勢を考えると「今こそが好機だ」と述べた。


パートナーネットワークや周辺機器「UR+」が強み

ユニバーサルロボット社の技術ポイント

ユニバーサルロボット社の技術は6つのポイントで構成されているという。ハードウェア、ソフトウェアが中核にあるが、それだけではなく、UR社のマーケット戦略、パートナーネットワークなども強みだ。今年は販売パートナーを300社にまで拡大する。そのほか、オンラインの無料トレーニングプログラム、協働ロボットの認知度をあげていくために必要なものだと考えていると述べた。

また、同社のロボットアームを活用するための周辺機器「UR+」シリーズ、すなわちカメラやグリッパーなど130を超える認定済み製品がある。競合他社の製品では最初からカメラやグリッパーが最初から付けられているプロダクトもある。だが実際の製造現場に使うのであれば、結局は現場ごとに異なるソリューションが必要になり、標準的なソリューションでは済まなくなるため、ユニバーサルロボット社では、この方がよいと考えているという。

また「テクノロジーだけではなくビジネスモデルもイノベーティブでありたい」と述べて「会社として現状を破壊的に変えていきたい」と語った。同社の顧客『スウィートスポット』は中小企業であり、小さい企業であればあるほど細かいことへの対応が求められ、柔軟性が必要だと考えているという。

『スウィートスポット』は中小企業


協働ロボット市場のリーダーとして道なき道を歩む

2019年に注力する5つの柱

2019年は5つの柱をベースにする。一つ目は市場成長だ。世界の不確実性は良い機会だと考えているという。二つ目は協働ロボット技術だ。ホーレン氏らは「自分たちこそが最高の技術、最適ソリューションを提供できると考えている」という。マーケットポジションも重視している。市場をリードするための投資も維持する。最後がエコシステム、コミュニティを含めたビジネスモデルだ。今後も成長を続けていくためには、常に現状のスタンダードにチャレンジしていく必要があると述べた。

ホーレン氏は「自分たちは市場を切り開いていくリーダーであり、道なき道をしっかり、スピード感を持って進んでいきたい」と語った。今日に至るまでは実際には様々な苦労があったという。そして「学習し、共有する(Learn and Share)」ことがとても大事だと考えており、社員に対しては「一生懸命働くと同時に常に楽しめ、バランスが重要だ」と言っていると述べた。

左図のように成長して来たと考えられがちだが、実際には右側だったという


既存の産業用ロボットと協働ロボットはビジネスモデルが異なる

日本市場については「日本は自動化が進んでいる国だが、協働ロボットを使った柔軟性を保つ自動化については、日本も始まったばかりだ」と述べた。また、日本市場においては「取り敢えずテストしてみたい」という顧客が多いという。日本は2018年でも売上トップ5に入る地域であり、大きな機会が存在すると考えていると述べた。

競合他社については、以前は6社程度だったのが今は50社程度あると考えているが「多くの会社は一つ二つの新製品しか投入できていない」とコメントした。また「新規参入もユニーバサルロボットと似たものを出そうとしているようだ」と述べ、「我々にはチャンスの窓が開かれている」と語った。

競合他社の存在はむしろ有利に働くと考えているという。50社それぞれがマーケティングを行って市場を開拓することで、協働ロボットの認知度が上がり、全体の市場が大きくなるからだ。そして、ユニバーサルロボットは大きな市場シェアを持っており、既にパッケージとして提供できる製品もあるからというわけだ。

既存の産業用ロボットメーカー大手も協働ロボットを投入し始めている。それらの動向については「彼らは従来のロボット技術においては強みがある。だが従来のロボットと協働ロボットは、テクノロジーだけではなくビジネスモデルが異なる。根本的にに違うビジネスだ」とコメントした。


日本でも協働ロボットへの認知度向上が課題

ユニバーサルロボット 北東アジア担当ゼネラルマネージャ、日本支店代表 山根剛氏

日本市場についてはユニバーサルロボット北東アジア担当ゼネラルマネージャで日本支店代表の山根剛氏が紹介した。4月から無料オンライントレーニングプログラムの日本語盤を提供開始したが、既に受講者は昨年末時点で1,000人を超え、毎月100人くらいの申請者がトレーニングを受けているという。2018年7月に「Eシリーズ」を日本でもリリースし、「CB3(従来シリーズ)」を含む全ての製品がISO 10281-1、ISO 13849-1:PLdに適合しているとのTUV認証を取得した。

日本支店の社員数は9人になり、2018年12月末には、トレーニング室を備えたオフィスを開設した。ユニバーサルロボットSIer育成プログラムも6月に始めているが、まだまだ協働ロボットに対する認知度が少ないと考えており、当プログラム参加の会社を現在の15社から今年中には50社に拡大することで、リテラシーを高めていきたいと述べた。


ウェブでシステムが組めるアプリケーションビルダーを日本語化、無料提供

ウェブでシステムが組めるアプリケーションビルダー

ユニバーサルロボットでは「アプリケーションビルダー」というウェブ上でシステムが組めるアプリケーションを展開している。SIerやエンドユーザーが簡単にロボットをCNCマシンベンディングやネジしめ、品質検査などのアプリケーションごとに選択し、組み合わせて、自動化システムを模擬構築することができる。

最終的にはスクリプトも提供する。おおよそ7割くらいのプログラムは、このアプリケーションビルダー上で自動生成してしまい、顧客は、残りの必要な機能や細かい部分の調整を行えばいいという。これを無料で提供している。さらに日本語化も行う予定だ。山根氏は実際にウェブ画面を操作しながら、簡易なシステムを組んで示した。

このようなシステムをウェブ上で組んで動きを確認することができ、スクリプトも持ち帰ることができる

アプリケーションワークショップもまずはSIerや代理店を対象にして行っていく。「UR+」については、既に世界では130社の製品があるが、日本からの製品はまだない。だが既にグリッパーやビジョン、ソフトウェアなどが開発中で、年内には正式に認定される予定で進んでいるという。また、Eシリーズのトレーニングの日本語化も近日行い、さらに品質の高いトレーニングプログラムも提供していくと述べた。

トレーニングプログラムでは協働ロボットの基本から学ぶことができる

■動画 Universal Robots アカデミー デモ マスタースレイブ

ABOUT THE AUTHOR / 

森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

PR

連載・コラム