「骨格検知」という技術がある。映像の中から人物の骨格を推定する技術で、骨格推定や骨格認識など、いろいろな呼び方があるので親しみやすく「ホネホネ」技術と呼ぶ人もいる。
ディープラーニングなどのAI機械学習によって、その精度が一気に向上したことで数年前からこの技術が注目されてはじめていたが、その頃は正直言って「何に活用する技術なのだろうか」と感じていた。ところがこのホネホネ技術、今や、カメラ映像のAI解析と実用化にとって、とても重要な役割をしている。
骨格検知がAIの認識精度を上げる
映像関連分野でのAI活用をテーマに、実用化で先行する企業が登壇してユースケースや最新技術を紹介するイベント「NVIDIA IVA Summit in Japan」が開催された(主催:NVIDIA、協力:丸紅)。その中でも注目を集めたのがこの「骨格検知」だ。
ではなぜ「骨格検知」がAIの認識精度を上げるのか。
丸紅OKIネットソリューションズはGPUを搭載したセキュリティカメラ「TRASCOPE-AI」の導入事例に、街中に設置されているセキュリティカメラや、踏切内でのトラブル監視の事例を紹介した。従来のAI解析システムで一般に用いられているのが行動認証。
自動車、歩行者、自転車などを判別する技術だ。ここ数年、GPUとディープラーニングなどのAI関連技術によって精度が飛躍的に向上している一方で、距離感がつかみにくく、歩行者が重なっていると映像からでは正確に把握しづらいなどの課題点がある。
そこに更に「骨格検知」を追加すると、重なっていても人の人数をカウントしやすくなり、かつ歩行者がどういう姿勢をとっているかも推定できる。かがんだり倒れていたり、暴力的な振る舞いなどの怪しい動きも検知できる。
踏切内のトラブルを骨格検知でAIが監視
踏切内でのトラブル監視は社会的に意義が高いソリューションだ。セキュリティカメラの映像から踏切を横断する人やクルマを解析し、踏切内に滞留している時間が長かったり、横断するのが極度にゆっくりな人やクルマを検知するとアラートを上げたり、スタッフに緊急通知することができる。
骨格検知を使うと更に人数や姿勢が高精度でわかるため、踏切内で倒れたり座り込むなど、異常な動きをしている人も検知することができるようになる。これらの技術によって踏切内の重大な事故を防げる可能性は高くなると考えられる。
介護分野向けのAIビデオ解析ソリューション
介護向けのソリューションでも骨格検知は重要な技術のひとつとなっている。
エクサヴィザーズは介護施設に入居している高齢者の体調不良や怪我をいち早く発見するのに骨格検知も併用したAIビデオ監視システムが有効性を語った。廊下などの共用スペースのセキュリティカメラ映像を解析し、入居者が足をひきづっていたり、具合が悪そうにしている様子を検知すると介護スタッフに通知するしくみだ。
万引きを事前抑止するシステム
万引きを事前抑止するシステム「AIガードマン」を開発しているアースアイズも骨格検知や視線検知といった技術を活用している(NVIDIA Jetson TX1を使用)。骨格検知による姿勢の変化や視線と姿勢の不一致など、万引き犯に多い動きを検出することで、事前に怪しい動きを察知して、店舗スタッフに通知する。万引き防止の最大の対策は怪しい来店客への声掛けと言われるが、それを実行するためにもAIが発見してスタッフに通知することが重要だ。
講演では万引き犯が実際に犯行を行う動画などを交えて、そのポイントが解りやすく解説された。同社によれば、AIガードマンの導入によって、万引きによる商品ロスが4割削減できた実証実験のケースもあるという。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。