【GTC2019】NVIDIAが描く自動運転技術の現状と未来 〜報道向け説明会レポート「Constellation」シミュレータの実演デモも披露

NVIDIAは「GTC2019」の展示会場で報道関係者向けにグローバルの説明会を開催し、自動運転技術「NVIDIA DRIVE」の現状と今後の予定の説明、今回のGTCで発表になった「DRIVE Constellation」と「NVIDIA Safety Force Field」についての解説や実演デモ等(冒頭の写真)を行った。

GTC 2019 展示会場の自動運転車

NVIDIAのDRIVE AGXはほとんどすべてがオープンプラットフォームだ。レースカーからトラック、乗用車やロボタクシーなど車種や用途はさまざま。アメリカだけでなく中国や日本、欧州など、多くの国の、いろいろな自動車メーカー等との連携を既に発表している。各社が開発に活用する走行データが共有できるわけではないが、オープン化によって、各社が開発してブラッシュアップされたプラットフォームが誰でも利用できる(同様のことがコンステレーションでも言える)。
説明はNVIDIAのオートモーティブ部門のShapiro氏が中心に行った。

NVIDIAのオートモーティブ部門のシニア・ディレクターのDanny Shapiro氏


レベル2+の車載AIコンピュータの実用化へ

NVIDIAは、今年のCESで世界で初めて商用利用可能な「レベル 2+」自動運転システムである「NVIDIA DRIVE AutoPilot」を発表、GTC2019の基調講演では「DRIVE AP2X」を発表している。このシステムは自動運転に必要な機能だけでなく、運転席内でのインテリジェントなアシスタント機能と可視化機能を搭載している。CESではこれらを用いて自動車の大手サプライヤーのContinentalとZFがレベル 2+ の自動運転ソリューションを発表した。
更に言えば、2018年10月にドイツ ミュンヘンで開催されたGTC Europeでは、スウェーデンの自動車メーカーのVolvo Carsが、同社の次世代車両に「NVIDIA DRIVE AGX Xavier」コンピューターを搭載した自動車の生産を、2020年代初頭より開始すると発表している。

展示会場では各社の車載用のAIコンピュータが一例として展示されている。左からボルボ、ボッシュ、コンチネンタル、DESAY SV、VEONEER

日本では運転支援機能としてADASが知られているが、米国道路安全保険協会 (Insurance Institute for Highway Safety) の調査によれば、レベル 2のADASシステムは、車両検知が不完全で、カーブや急勾配の道路では車線内に車両を維持させる能力に欠けていて、支援システムが突然解除されてドライバーによる制御が突然必要になるという課題が指摘されている。

車載用AIコンピュータは多くの場合、トランクスペースに設置される


ボルボとの連携

一方で将来の展望としては、AIコンピュータの搭載によって来年までに監視付き自律走行車両の生産が可能になるとみられている。
ボルボはNVIDIA Drive プラットフォームが次世代のレベル2の自動運転技術の開発基盤になるとしている。ボルボ以外にもいくつかの企業の車載コンピュータが並ぶ。多くの企業が併行してテスト運用したり、データを蓄積することによって、どれくらいのAIパフォーマンスが必要なのか、何枚のチップが使われ、どんなカメラやレーダー、LiDARを搭載するかを決めていく。こうした背景からオープンプラットフォーム化によって、開発は一層加速していくと見られる。

高性能なAI コンピュータがカメラやセンサーからの情報から自動車の周囲の状況を認識するとともに、ドライバーモニタリングシステムを運用・制御するしくみが必要だ。右端がボルボと開発しているユニット、NVIDIA DRIVE Xavierが内蔵されている

AI車載コンピュータの仕様や機能は、メーカーの需要によってそれぞれ異なるという。これまでのチップメーカーとNVIDIAが大きく異なる点は、チップを生産して販売するだけでなく、エコシステムとして捉え、自動車メーカーや開発企業と連携して車載用AIボックスを開発している点にある。自動車メーカーや開発会社は、自動運転用車載用AIボックスを別の自動車メーカーに販売していく可能性もある。

NVIDIA DRIVEシリーズの2製品。手前が現行で主力のNVIDIA DRIVE AGX PEGASUS、奥が最新機種の「NVIDIA DRIVE AGX XAVIER」(プロトタイプ)


DRIVE Constellation

コンステレーションは仮想空間で自動運転車が走行し、走行データによってAIが経験を積んで学習するためのトレーニングシステム、もしくはシュミレーションシステムだ。AIが自動運転技術を学ぶために、実際の道路で走行することは重要だし、それがベストな方法だ。しかし、同じ道路を走るのにも雨天の場合は条件が大きく異なるが、すべての街や道路に自動運転車が待機して雨が降るのを待つのは非現実的だ。また、隣のレーンを走行する車が急に幅寄せしたり、こどもや動物が道路に飛び出すようなケースを、実際の走行で再現するのも非現実的だ。
そこでシミュレーションがとても役に立つことになる。自動運転のAIは、データセンターにあるサーバのシミュレーション上で自分が走っているということは知らない。実際の街や道路を走っていると思って、トレーニングを積むのだ。
しかも、トヨタのTRI-AD等、導入する企業は複数台のシステムを導入し、同時に膨大な走行環境のトレーニングを行っていくと言う。

コンステレーションシステムの片鱗は昨年の「GTC2018」でも見られた。今回は、それをブラッシュアップしてプラットフォームとして正式にサービス化することが発表された格好だ。

コンステレーションは2つのサーバーで構成される。実際のサーバ構成がこの写真だ。


下のコンピュータが「Constellation Simulator」。膨大なGPUを使って仮想空間を作り上げ、道路や天候など、走行環境を再現する。カメラやレーダー、LiDARなど、実際のセンサー類によって生成されたデータをもとに、バーチャルの世界でマッピング、道路や景色、空や天候、他の自動車や歩行者や自転車など、何千ものパラメータを仮想空間上に正確に表現することができる。
上は実際には走行データを収集したり、自動運転車に積まれるはずのAIコンピュータを再現したコンピュータだ。運転するAIシステムだ。人や自動車、標識を理解し、自分がマップ上のどこにいるのか、道順も自分で決めて走行する。

アクセルを踏むのかブレーキを踏むのか、ハンドルを右に切るのか左に切るのか。実際のテストでは、その結果が事故になることもあるので、シミュレータ上でその選択の判断が正しいのか、正確にできるかをデータとして得ることができる。シミュレーション環境とAI自動運転車のコンピュータが通信によって接続して、走行データのループが行われる。



そのループはハードウェア上で1秒に30回行われます。そうすることで、AIによって自動運転ができるようになり、いろいろな条件に反応できるようになります。このようなシステムの利点は、どんなシナリオでもテストすることができるということです。マウスをクリックして指定するだけで、雨や霧、夜、朝日が眩しい環境、視界が悪く危険なシナリオも試すことができます。実際の道でのテストでは、ほとんど何も起こりません。ただ走らせるだけのデータにしかなりませんが、コンステレーションのデータをクラウド上で管理することで、何億マイルもの、さまざまな条件でのテスト走行のデータを得ることができます。

記者からはさまざまな質問が行われ、Shapiro氏は次のように回答している。

記者

危険な状況は何をもとに作るのでしょうか?

Shapiro氏

保険会社のデータ等を使います。彼らはこれまでの事故のデータのたくさん持っています。
カーブの先は視界が届かなかったり、建物で死角になっていたり、太陽によって前が見えなくなったり、そしてその情報をシミュレータで再現して使います。また、これまで起きていないような危険いう意味で言うなら、AIに状況をランダムに生成させてテスト走行をさせることも可能です

記者

シミュレータ上で再現できるのはカメラのデータだけですか?

Shapiro氏

このデモで見せているのはカメラのデータだけですが、それは人が見て何が起きているのかすぐわかるためです。LiDARやセンサーの情報はグラフ化されていたり、スキャンされ可視化されたデータも生成されていますし、サーバーにも送られていますが、見ても伝わらないので、わかりやすいように映像で表現しています。



コンピュータは疲れない。24時間走らせることができる。街や高速道路では走行速度が違いますが、毎時50miles程度、1,000台のコンステレーションを使うと、1.2million milesのテスト走行のデータを作ることができるという。しかし、本当に大事なのは走行距離ではなく、それは様々な環境で、事故回避や安全な選択をさせたテスト走行こそが、ただ走り続けた距離のデータよりも格段に価値があると言える、と付け加えた。



NVIDIA Safety Force Field

前述のように、今年のCESでは新しい技術として「オートパイロット」が発表されたが、今回のGTC2019の基調講演では「AP2X」がレベル2+に使われることが少しだが触れられた。多くのソフトウェアがリリースされると混乱しそうだが、自動運転用のシステム「Drive AV」(The Autonomous vehicle driving software)と、安全運転支援用に運転席のセキュリティを監視するシステム「Drive IX」(Intelligent Cockpit eXperience)を統合したもののようだ(運転席監視は機能的にVoice recognition, Facial recognition, language processing e等が含まれる)。

そこで、NVIDIA Safety Force Fieldの話になるが、これはいわば自動運転車が安全に走行するためのガイドラインのようなもの。Shapiro氏は次のように語る。

NVIDIA Safety Force Fieldも基調講演で新しく紹介されたシステムです。これまでNVIDIAは認識(Perception)やディープニューラルネットワークやAIで知られてきましたが、マッピングやローカライゼーションの会社とも共同で開発を始めました。日本のゼンリンや中国の百度(バイドゥ)、TomTomなど、Perception, localization, mappingとPlanningに加えて、自動運転が安全ではない状況を作らないように、Driving Policyとして「Safety Force Field」を他の企業が幅広く利用できるようにしました。


フレームごとに他の車がどのような動きをするか予測し、原則を守ることで事故に遭うのを防ぐようにします。私たち運転車は他の車がぶつかってきた場合は回避できないでかもしれませんが、周りの車の状況を把握して、車が事故を起こさないように安全なスペースを常に見つけることはできます。
Safety Force Fieldについての情報やホワイトペーバーは、ウェブで公開されていますので興味がある方は確認してみてください。



コンステレーションのデモ(シミュレータ)

展示会場では実車を模したシミュレータが組まれていて、コンステレーションのデモを体験できるようになっている。


車載用AIコンピュータは実車でも多くの場合トランクに収められている。



コンステレーションは前述のとおり、実際の走行環境をもとに作られた仮想空間で、運転を再現できるシミュレータと、車載用AIコンピュータが接続され、仮想空間のあらゆる環境下で走行を繰り返し行いながら何度もシナリオを試し、走行データの蓄積とトレーニングを行うシステムだ。


トレーニングした結果をテストするときには「パイロットシミュレータ」になる。オンにすると自動運転が開始される。シミュレーション上でシナリオを修正することもできる。実際にタブレットを使って、道路の環境を晴れから雨に、昼から夜へと切り換える様子が実演された(下の動画)。

■コンステレーションの実演&解説デモ


「晴れた空に雲をかけてみたり、今日の天気に合わせて雨を降らせましょう。霧をかけることもできます。せっかくだから試してみましょう。 今やってみたのは、様々な天気の条件を変えてみたのです。タブレットは天気の条件を変えましたが、他の条件も様々に変えることができます。
例えば、自動運転車の速度を変えることもできます。はい、今は彼が運転しています。シミュレーション上では環境をスクリプトすることができます。ただシミュレーション上で走らせ続けることもできますし、彼がやったように人間とのインタラクションをループの中に入れることも可能ですよ」

AI音声エージェントとの連携もデモで行われた(上の動画内)。エージェントは問いかけに応えて「今日のサンノゼの天気は華氏54度で小雨が降っています」と応えた。音声エージェントはフルスピーチがシステム・デザインされていて、音声を使って自動運転のセットアップやシミュレータをコントロールすることも音声で行うことができる。

(Featured Ayuka Alyson Kozaki)

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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