「TOYOTA ROBOT DAY」(トヨタロボットデー) —— この日、バスケットボールロボット「CUE3」(キュースリー)は、スリーポイントシュートだけでなく、バンクシュートやセンターサークルからのシュートに挑戦しました。
果たしてバンクシュートは成功するのか? センターサークルから放つ「CUE3」の超長距離シュートはゴールに入るのか!? いや、そもそもボールがゴールに届くのか!?
トヨタ自動車が開発しているロボットたちがBリーグのバスケットボール会場に集結。パフォーマンスを披露しました。まず、遠隔操作ロボット「T-HR3」が、チアと一緒にダンスパフォーマンスを試合開始前に披露。その様子は既報のとおり、会場は大きく盛り上がりました。
今回はいよいよ新型となるAIバスケットボールロボット「CUE3」(キュースリー)を紹介しましょう。
桜木花道ロボット「CUE3」
バスケットボールのプロリーグ「Bリーグ」の「アルバルク東京」は、4月10日の対サンロッカーズ渋谷戦のホームゲームで、新型となるAIバスケットボールロボット「CUE3」をお披露目しました。「CUE3」はCUEシリーズの三代目となるもので、CUEは「100%シュートを決めるロボット」を目指して開発がはじまりました。なぜ、アルバルク東京がトヨタのロボットを起用しているのかというと、同チームがもともとトヨタ自動車の男子バスケットボール部が母体の名門チームだからなんです。
で、「CUE3」とはどんなロボットか。
「CUE3」はアルバルク東京の公式ホームページで選手登録されている正式なメンバーです。
CUEは、未来創生センターAIアスリートロボット開発グループが中心になって開発を行っています。とはいえ、開発メンバーはAIのエキスパートというわけではなく、メンバー自身も「AI素人のメンバーがAI開発に一から挑む」という意気込みで行っているそうです。
CUEのモデルはあのバスケットボールに青春を賭ける選手たちの姿を描いた傑作コミック「SLAM DUNK」(スラムダンク)の主人公、桜木花道。開発当初は花道のフィギュアを研究して、花道そっくりなヒューマノイドも検討したそうです。それはそれで見たい気がしますが、そんなリアルで巨大なマネキンがドーンといたら怖いんじゃないか?という意見もあって、現在のモデルになっていったようです(現在のモデルも結構怖い気はしますけれど)。
■公式動画 ロボット対人間のシュート対決!100%シューターCUE(ALVARK TOKYO)
花道の名セリフ、シュート練習は「2万回で足りるのか?」を胸に、「AIがゴールまでの距離を計算し、100%シュートを決めるロボット」を目指し、途方もない夢に向かって開発がはじまったと言います。実はCUEの身長は、初代が190cm、CUE2が204cm、そして最新型のCUE3が207cmと少しずつ大きくなっています。これについて質問された開発グループ長の野見氏は「(バージョンアップごとに)いつの間にか大きくなっていた。桜木花道と同様、CUE3もだんだん成長していくということで・・」と語っています。なるほど、そんな背景を聞いていると、だんだんCUE3と花道の姿が重なって見えてきましたよ。
HSRとモッパーにも注目!!
さて、注目の「CUE3」のチャレンジの前に、「集結」と題して集められた「CUE3」とは別の2のロボットを紹介します。
トヨタの生活支援ロボット「HSR」
ひとつは生活支援ロボット「HSR」。ロボカップやWRSなどのロボット競技大会でも使われ、高齢者や介護支援での活用も期待されているロボットです。「HSR」は会場の入口で入場記念グッズを配る役目を担っていました。まあ、動作はいつものようにゆっくりですが、そこは和む感じで。
■HSRがBリーグ会場でグッズ配り アルバルク東京
ハリーポッターの世界から飛び出した? モッパー
そして、もうひとつ注目のロボットは「モッパー」。まるで映画「ハリーポッター」の中の競技クィディッチで乗っている魔法のホウキのように颯爽と動き回り、モップがけができるモビリティ!
これはもしや、すごく実用的な潜在能力を持っているのでは!?
本番では手動モップと同じ、ダスキンの看板も素敵! ハリーポッター感はぜひ動画でどうぞ。
「CUE3」のロングシュート・チャレンジ!
というわけでお待たせしました。いよいよ試合はハーフタイム。「CUE3」によるシュートチャレンジが始まります。初代のCUEは4.25mのフリースローゾーンからシュートを決め、CUE2では6.75mのスリーポイントエリアからシュートを決められるようになりました。そして、CUE3は更に改良を加え、シュートの投げ分けが可能になり、左手でボールを持てるようになりました。そしてこの日、スリーポイントからの「バンク」シュートと、スリーポイントより更に遠いセンターサークルからのシュートに挑戦しました。
「CUE3」はまずスリーポイントシュートに挑戦。その後、「T-HR3」と「HSR」とのコラボで、遠隔操縦の「T-HR3」からボールをもらった「HSR」が「CUE3」にボールを運び、そこから「CUE3」がバンクシュートに挑戦するパフォーマンスが行われました。
果たして、スリーポイントシュートと、バンクシュートはそれぞれ成功したのでしょうか!?
■「CUE3」が3ポイントシュート、バンクシュートに挑戦!
HSRからCUE3へのボールの受け渡しは上手くできませんでしたが、CUE3の挑戦はまだまだ続きます。次はなんと、更に下がってセンターサークルからのシュートに挑戦!
果たしてその結果は!?
■「CUE3」がセンターサークルからのシュートに初挑戦!
開発者インタビュー
パフォーマンスのあと、プレスルームで開発メンバーの皆さんによる記者会見が開かれましたので、「CUE3」などロボットたちについていろいろ聞いてきました。
まずは、開発リーダーの方からCUE3、T-HR3、HSR、それぞれのロボットの紹介です。
野見氏(CUE3)
「CUE」シリーズは半年に一度くらいの間隔でバージョンアップしていこうと考えていました。前回が12月24日だったので、CUE3は今シーズン中にお披露目したいということで今回の公開に至りました。改良点はまず、投球の飛距離が長くなり、センターサークルから投げられるようになりました。また、学習効率が上がったので、バンクシュートや弾道が高いシュートなどを投げ分けられるようになりました。また、足にメカナムホイールを採用し、位置と距離を合わせる際に360度どの方向にも自在に動いて調整できる様になりました。更には左手でボールが持てるようになったことも変更点のひとつです。左手でボールを受け取って、右手に持ち替えてシュートを打てる様になりました。
次の目標としては、2020年の1月に予定されているBリーグのオールスター戦のスリーポイントコンテストに、もしも参加させてもらえるなら挑戦してみたいと勝手に思い描いています。技術的に目処があるわけではありません(笑)。
森平氏(T-HR3)
「T-HR3」は唯一、東京で開発しているので、パフォーマンスのお話をもらったとき、アルバルク東京さんを応援したり、活動に貢献できることがうれしく感じました。「T-HR3」は本来、遠隔操縦ロボットです。昨年は東京スカイツリーに操縦者、東京ビッグサイトに「T-HR3」を設置して10km以上離れた場所から作業をする、というタスクに挑戦しました。今回、ダンスパフォーマンスということではじめての試みだったので、新しい活用方法に挑戦する良い機会を頂いたと思っています。
岩本氏(HSR)
「HSR」は生活支援ロボットです。身体の不自由な人や高齢者を助けて、モノを取ってきたり、片付けるなど、生活を楽にしてくれる用途での活用を目指しています。今回のロボットデーではボールをCUE3のもとに運んで渡すデモを行いましたが、トヨタがこうした人の代わりに作業するロボットの開発にも取り組んでいることを皆さんに知って頂けたらうれしいと思います。2020年のオリンピック、パラリンピックでも、より人の役に立つタスクをこなす姿を皆さんにお見せできるように頑張ります。
編集部
今回の「T-HR3」のダンスは遠隔操縦ではなく、自律的に動いていたのですか?
森平氏
はい。予めプログラミングした通りに「T-HR3」はダンスパフォーマンスを行い、バランスを崩したときなどに転倒しないようなリアルタイム・フィードバック制御を作動させていました。
マスター/スレーブ式の操縦ロボットですので、マスターが動作したとおりに動きを記憶・学習するという(ティーチング)方法もあるのですが、今回は開発期間の都合でプログラミングで行いました。
編集部
「T-HR3」は動きがとても滑らかですが、ハードとソフトのどちらの影響が大きいですか。
森平氏
滑らかさについてはハードの要因が強いと思います。アクチュエータ部はトルクセンサ―、モーター、減速機からなるトルクサーボモジュールを全身の関節に使用しています。これは多摩川精機さん、日本電産コパル電子さんと共同開発したものです。
編集部
「CUE3」のロングシュートについてですが、ロボットは自分のカメラでゴールの位置を見て距離をはかり、自分で適切な位置に移動してシュートしているということでしょうか
野見氏
はい、その通りです。胸にあるTOFカメラを使っています。レーダーを発射して反射する速度の差で立体的に認識します。それによってゴールまでの距離と角度のズレが解るので、どの場所にいてもゴールの向きにあわせてシュートすることができます。
編集部
シュートの際、ロボットはゴールまでの距離と向きにあわせて最適な弾道でボールを投げているのか(投げる精度を上げるのか)、ボールの弾道は固定にしてロボットが入る位置に移動してシュートしているのか(移動する位置の精度を上げるのか)、どちらでしょうか。
野見氏
ロボットが投げるボールの弾道は固定といえば固定なのですが、投げる弾道のパターンをたくさん持っています。そのため、自分がいま立っている位置とゴールの距離から最も最適な立ち位置に若干移動して、それに合った弾道パターンでシュートしています。
編集部
現在、スリーポイントシュートとバンクシュートが入るだいたいの確率を教えてください
野見氏
スリーポイントエリアからの直接のシュート確率はほぼ100%です。バンクシュートは確率が下がって80%程度だと思います。
ちょっとしたボールの持ち方(置き方)で位相が微妙にずれたり、モーターの精度を含めてどうしても計算通りにいかない部分があって、そんな時にはずしてしまうという感じです。
今回初挑戦したセンターサークルからのシュートは実はリハーサルでは全部はずしました。失敗続きだったので実はハラハラでしたし、開発メンバーは私も含めて内心「はずすだろう」と思っていました(笑)。
編集部
CUE3は本番に強いんですね!
パフォーマンス向けの開発とは言え、トヨタがロボットプロジェクトに本気で取り組んでいる姿勢がとてもよく伝わってくる「TOYOTA ROBOT DAY」でした。ロングシュート対決では既に人間との戦いに勝利したCUE。とうとうセンターサークルからもシュートを成功させるようになりました。今後の活躍が楽しみです。最後に野見さんのひと言で締めくくりたいと思います。
野見氏
アルバルク東京の皆さんに受け入れて頂いたからこそ、今のCUE3があると思っています。選手の皆さんは小さい頃からバスケに打ち込み、本来なら私達ロボットの取り組みについて怒られても仕方ないと思っています。「おいおい、バスケは遊びじゃないんだぞ」「神聖な体育館で何やってんだ」って。にも関わらず、皆さんが快く協力してくれる環境を作って頂き、とても感謝しています。
まもなく開催される東京オリンピック2020。CUE3がなんらかのカタチで、もしも世界で初めてオリンピックのバスケット競技に関わったロボットとして、記憶と記録に残る機会ができれば最高ですね!
応援しています!
アルバルク東京 公式ホームページ
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。