最新版「Pepper for Biz 3.0」が発表 ハードウェアは進化せずも会話応答率は7倍に

ソフトバンクロボティクスは、4月16日に記者向けの会見を開催し、ヒト型ロボットPepperの大型アップデートならびにAndroid OSに対応したことを発表した。家庭用モデル「Pepper for Home」のアップデートは既報の通りだが、今回の記事では、最新版の法人モデル「Pepper for Biz 3.0」についてお伝えしていく。

Pepperは2014年に発表されたヒト型のコミュニケーションロボット。法人モデルの「Pepper for Biz」も発売され、全国2,500社以上に導入されるなど、コミュニケーションロボットのビジネス利用を広める存在となった。導入事例として代表的なのは回転寿司チェーンの「はま寿司」。全国約500店舗の受付にPepperが導入されている。

最新のPepperは、ハードウェアは既存のものから進化しておらず、ソフトウェアのアップデートがメインとなった。一番の違いはようやくAndroidに対応したことだろう。PepperのAndroid対応は、実は3年前、2016年5月に発表されていた。発表から2ヶ月後には先行販売も予定されていたが、延期が相次ぎ、本日ようやくAndroid版のPepperが発売されることとなった。

Android対応の延期について、ソフトバンクロボティクスCTOの坂田氏は、個別インタビューで以下のように語った。

坂田氏

ソフトバンク ロボティクス株式会社 CTO プロダクト&サービス本部 本部長

Androidの開発を進めようとしたタイミングでユーザーの皆様からの要望も増えてきて、それらを一つ一つ対応してきました。この3年間こまめにマイナーアップデートを繰り返してきたのです。OSをアップデートすれば使い勝手がよくなるということではなく、きちんと機能を一つ一つご提供していくことを大切にしました。AndroidにすることでOSレベルで安定することも、デベロッパーの皆様が開発しやすくなることもわかっていましたが、中途半端な状態で世に出すことは頭にありませんでした。開発が整ったこのタイミングで様々な機能をまとめて出すことがようやくできるようになりました。



安定性という意味では現場の社員も自信を持っているようだった。これまではOSが複雑だったため、情報の受け渡し一つとっても煩雑な処理が行なわれていた。Android OSを採用したことで、シンプルな構造になり安定したパフォーマンスを発揮することができるようになるという。

さらに管理ツールの「Robot Suite」を利用することで、遠隔地からもエラー検知を行えるようになった。


Robot Suiteではヘルスチェックができる

複数台のPepperを導入している会社であればそれらを遠隔地から同時に管理することができる。「肩に負荷がかかっていて、熱をもっている」などの状況もすぐに察知でき、遠隔地から再起動をさせたり、休ませたりすることができる。ソフトバンクロボティクス側でも遠隔から監視をすることが可能となり、導入企業からの問い合わせにもスムーズに対応可能になる。

加えて、会話機能も向上した。人との自然な会話を実現するため、ソフトバンクロボティクスはヒューマノイド用会話プラットフォームを新たに構築。この独自に開発したプラットフォームは接客・受付・介護などの業務別会話シナリオを3,000以上搭載するだけでなく、家庭用のPepperと同様に、日本マイクロソフトが提供するソーシャルAI「りんな」の技術を応用したAIマーケティングソリューション「Rinna Character Platform」を活用することで、シナリオで対応できなかった会話に対応していく。



会話作成は、Googleが提供する自然言語に対応した会話型エージェントの開発プラットフォーム「Dialogflow Enterprise Edition」を活用。RinnaプラットフォームとDialogflowに対応したことにより、話しかけられた際の「自然応答率」が従来モデルと比べ約7倍向上し、「会話キャッチボール数」も約7倍となり、より自然な会話を楽しむことが可能となったという。


また、実際の導入時にお客が後ろからPepperに近づく場面を想定し、背後から近づく動きも検知できるようになった。搭載されているSLAM技術で、半径1m程度をマッピングし、机などの障害物の場所を検知しておくと、その中を動く存在を検知することができるようになる。ハードウェアのアップデートこそなかったが、Pepperは着実な進化を遂げているという印象だった。

坂田氏へのインタビューで「Pepperを改善するスピード感」について尋ねると以下のように語った。

坂田氏


Pepperの発売当時はフランスの開発チームとの連携がうまくいきませんでした。フランスのチームはイマジネーションに優れているため、こういう機能を追加しようと素晴らしい提案をしてくれます。しかしそれがユーザーのためにどんな価値を与えることができるのかという議論や、ビジネス利用のために必要な観点が欠けていることがありました。議論を重ねていき、今ではPepperをよりユーザーが活用しやすいものにするために一丸となっています。フランスチームのメンバーも日本に数多く訪れ、フィードバックを受けてそれを製品に生かすというサイクルを回しています。



Pepperの開発は、フランスでハードウェアやOS・SDKの開発を行ない、日本国内でその上に搭載されるプラットフォームの開発を行なっている。中国やアメリカにもチームがあり、国をまたいで開発は行なわれている。

「プロトタイプレベルでロボットを開発できる会社は世界にいくらでも存在していますが、私たちのように着実にソフトウェアを進化させることはなかなか難しいと思います」と坂田氏。「昨年、Pepperの継続に関するネガティブな記事もありましたが、実際に活用している企業は『そうなの?』と驚いていました。そしてあんなこと言われたら悔しいから一緒に頑張りましょうともお声がけを頂きました」と語り、「具体的な数値は述べられないが、更新率は私たちの想定を上回るものでした」と述べた。「そもそもPepperの開発は数年単位で行うものではなく、長い月日をかけて進化させることをソフトバンクロボティクスとしては考えています」。



個人的に期待していた「Pepper2」というような華々しい進化ではなかったものの、この着実な進化こそロボットが活用されるための重要なことなのであろう。最後に坂田氏は「私たちはロボットの提供をしながらも、業務コンサルティングを行なっているのです。お客様にロボットの活用を任せるのではなく、一緒に業務を改善していく。日本でこれから改善と成功体験を積み重ねていくことで、これまで慎重に進めてきた海外への展開も舵を切れるようになるのではないかと考えています」と述べた。



なおPepper for Bizを契約している既存のユーザーは、新たに3年契約を結び直すことで新しい機体へと交換することができる。一方でこれまでPepperの一般販売モデルを契約してきた方が新たにAndroid版を利用する場合には、本体代金を支払い購入する必要がある。既存の一般販売モデルを利用している方は、3年契約が切れた際にも公式ページに記載の料金プランで、使い続けることが可能だ。

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望月 亮輔

1988年生まれ、静岡県出身。元ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディアの立ち上げに加わる。

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